ケイケイの映画日記
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2006年10月19日(木) 「ブラック・ダリア」


ブライアン・デ・パルマの新作。原作が秀作「LAコンフィデンシャル」のジェームズ・エルロイなので、その線で観た人は落胆、デ・パルマ好きの人が観るとそこそこいけるとくっきり評価が分かれています。じゃ、デ・パルマ好きの私なんぞ全然OKじゃんと思っていましたが、これがちと(本当はだいぶ)不満が残る出来でして。でもやっぱりこのムードは好きなんですけどねぇ。

1940年代のロス。バッキー(ジュシュ・ハートネット)とリー(アーロン・エッカート)は元ボクサーのロス市警の刑事です。リーには同棲相手のケイ(スカーレット・ヨハンソン)がいて、三人で行動を共にするようになるにしたがって、バッキーとケイは心を通わせ始めます。そんな時口から耳まで裂かれ、内臓は抉り取られ、上半身と下半身は切断されるという死体が発見されます。死体は女優の卵のエリザベス(ミア・カーシュナー)。マスコミは彼女のことを「ブラック・ダリア」と称し、大きく報道します。この事件に必要以上の執念を燃やすリーを、バッキーとケイは心配するのですが・・・。

大々的に「世界一美しい死体」と宣伝文句に書かれてあったので、きっと10分くらいしたら、その死体を拝めるのかと期待していたのに、これがいつまで経っても出てこないのだな。バッキーの裏事情と、リーとケイの間柄の説明、二人のファイトシーンに時間を割いています。終わってみると、これがほとんど筋と関係ないようなもの。ここで無駄まで言わないですが、必要以上に力を入れて描くので、後半これが響きます。

猟奇的殺人の解明が軸ではあるのですが、その他複雑ないくつかの事件が絡み合いますが、これがきちんと交通整理出来ておらず解り辛いです。なんか変だなぁと思いつつ進むと言う感じで、これはきっとこうなんだろう、あぁそうか、騙された、などなどこの手のサスペンスでの盛り上がり方が希薄です。ラスト30分はそれが顕著で、猛スピードで全事件一気に謎解きするので伏線の張り方に気が付く暇もなし。後で考えるとご都合主義的ではなく、説明不足から来る消化不良のような気がします。

デ・パルマといえば、悪趣味手前の官能というか、そういうものを私は期待していたのですが、それもどうもなぁ。ファム・ファタール的で謎めいた美女にヒラリー・スワンクなんですが、私にはどうもミスキャストっぽく感じます。彼女は堂々二度のオスカー受賞、それも主演女優賞というのに、イマイチ大物女優の雰囲気が希薄なのです。それは性同一性障害だったり(「ボーイズ・ドント・クライ」)、ハングリーで根性満点、しかし心寂しい女性ボクサー(「ミリオンダラー・ベイビー」)などで評価されてはいますが、それはいわばキワモノ、ハリウッド女優王道の役柄では、どうも精彩がありません。この作品でも、初登場シーンでこそおぉ!美しい!だったのですが、富豪のバイセクシャル女性という役柄ですが、ゴージャスさも妖しさも感じられず、セックスの後のけだるい色気も皆無でした。だからラストシーンの彼女のセリフも全然盛り上がらず。

その他の官能性も、妖しげなレズバーが出てくるのですが、これも女同士の半裸のキスシーンもあるのですが、あまり色っぽくありません。これがオカマバーなら、男ながら絶世の美しさを放つ異形の美女たち大量投下で、魅惑的幻惑的なシーンになったろうに、女同士って案外難しいのかも。

では見どころが皆無かというと、これがいいところもいっぱい。まず撮影のジグモンドの力か、40年代の雰囲気がフィルムから香っています。男性女性というより、即物的に男と女という感じだし、始終みんなタバコを吸うのですが、本当に紫煙という感じで雰囲気抜群、本当の時代考証はわかりませんが、豪華でレトロな美術も大変見どころがあります。

でも一番の見どころは、画像の生前のエリザベスに扮するミア・カーシュナー。彼女のオーデション風景がモノクロのフィルムに焼き付けられており、登場回数が少ないのですが、とても心に残ります。実の父親にアバズレ呼ばわりされる彼女ですが、演技も下手、媚を売るのが取り得の姿は、そこはかとない哀しさと、賢いとは言えない女の純真さがあるのです。ブルーフィルムの撮影での涙は痛々しいものがあり、フィルムは、彼女の性格や生い立ちまで見えるようで秀逸でした。演じるミアは、すんごく可愛く、猟奇的な死体とのギャップが良かったと思います。

スカーレットはグラマラスな衣装が良く似合い、この時代の女性の雰囲気があり良かったです。でも珍しくお色気不足かな?アーロンはそれなり。演技は上手い人だと思います。ジョシュはとってもカッコ良かったです。彼のファンなら文句はないと思います。こんなめちゃめちゃな筋あるかい!でも面白かった!という前作「ファム・ファタール」から思えば、ちょっと期待はずれですが、私はそれなりには楽しみました。でもデ・パルマ好き以外はどうかなぁー。



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