ケイケイの映画日記
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久々に十三の第七藝術で観て来ました。東京では爆発的な大ヒットと聞いて、レディースデーは避けて、通常より早めに到着しましたが、平日のせいか観客は100席足らずの劇場で半分くらい。でも私がナナゲイで観る時はいつも10数人なので、結構入っているなという印象です。ロシアのソクーロフが撮った作品です。だからロシア映画。今回ネタバレです。
昭和天皇崩御の時、近所の仲良しさんの家に用事で出かけたところ、涙で目が真っ赤の友人が現れてびっくり。「テレビ観ててん。天皇陛下が可哀想で・・・」と、まるで友人知人・親戚が亡くなったような反応なのです。天皇崩御にも、通常著名な人が亡くなった時に感じる感慨以上のものはなかった私は、これが日本の人の普通の感覚なのかと、天皇という存在の大きさを、その時初めて認識したように思います。
第二次大戦末期、日本の敗戦は濃厚となった日本。昭和天皇ヒロヒトは、皇后や皇太子や子供たちを疎開させ、自分は廃墟となった東京で、地下にこしらえた防空施設のようなところで暮らしており、昼間は唯一残った研究所でなまずの研究をしていました。「御上」と崇められ、神として国民の上に君臨する天皇は、人間ヒロヒトとの間(はざま)で、常に孤独でした。国民の平和を願う天皇は、降伏を考えています。そして連合国総司令官ダグラス・マッカーサーとの会談の日が、刻一刻と迫っていました。
イッセー尾形の昭和天皇の成りきりぶりが好評で、楽しみにしていました。私は昭和36年生まれで、物心ついた時からもちろん昭和天皇は「人間」であり、飄々とした感じのお爺様でありました。尾形と天皇は容姿は違うのに、表情がそっくりでまずびっくり。口をパクパク、まるで金魚のようにさせるクセも、確かにおありになりました。しかしこの口をパクパクがやりすぎのような感があり、あれほどひどくはなかったように記憶しています。「あっ、そ」という相槌も、確かに園遊会などで仰っているのを聞いていますが、あのように天然ボケのような感じではなく、もう少し暖かな感情も入っていた気がします。
しかしながらこの作品は、昭和天皇を描いた史実に近いフィクション、そしてロシア人から観た天皇です。だからある程度のデフォルメは仕方ないとは思っていますが、一番気になったのは、カリスマ性やオーラというものを、尾形の天皇から感じなかったことです。本当は人間であることなど、本人は元より周りも国民もわかっていたことでしょう。しかし国民の心を一つにするため、神として生きなければならない不自由な生活と、その孤独はひしひし伝わってくるのですが、子供心にも普通のお爺さんとは違うのだと感じさせた、あのオーラが再現出来ていなかったのは残念です。
国民の幸せを願う様子は、魚の形の爆弾で日本が廃墟と化す悪夢や、国の要人たちとの御前会議、マッカーサーとの面談の場面でわかるのですが、今ひとつ心に残りません。何故なら伝え聞いている、「朕の命と引き換えに、日本の国民の命を助けて欲しい」と天皇が訴える場面がないのです。マッカーサーは、この時の天皇の言葉に感激し、天皇制の存続と日本に対する政策が変わったと、これは広く読んだり聞いたりした方も多いお話だと思います。この作品では、マッカーサーが語る「子供のようだ」という、純真で無垢な印象が、マッカーサーの気持ちを変えたように描かれていました。なのでもうひとつ、奇矯な人の印象が拭えませんでした。
印象深かったのは連合軍側の日系人通訳が、必死で天皇は神であると説明する場面。マッカーサーと直接英語で話そうとする天皇に、「平等にお話なるということは、お立場が汚れるということになるので、お止めになって日本語で話して下さい」とも語ります。こういう心情を抱えてずっと戦っていたのなら、本当に辛かったろうと思いました。世界中に難民移民が増えている今、もし大規模な戦争が始まったなら、この通訳のように苦しむ人が多いのだろうと、この部分に反戦の含みも感じました。
意外な好演に感じたのは、皇后役の桃井かおり。彼女は皇后様ではないでしょうと思っていましたが、場面が少なかったですが、長く男子が生まれず側室を勧める側近に、「長子(ながこ・皇后様の名前)がよい」と、決して側室を置かなかった天皇の心が伺えるような仲睦まじさで、夫を陰ながら支える良き妻ぶりでした。考えれば生まれた子を自らの手でお育てになるようになったのは、今の天皇陛下から。それまでは乳母に育てられていたはずで、昭和天皇にとって皇后は、普通の妻以上の存在であったのかもしれません。
時々睡魔に襲われましたが、それは戦時中であるにも係わらず、静々淡々と毎日が進む天皇の暮らしぶり観て、ゆったりした気分になり、頭からアルファ波でも出ていたのかも知れません。
昭和天皇というと、戦争責任云々が取り沙汰されますが、ソクーロフは責任はなかったという見解のようです。少し奇妙な感じはしますが、好人物に描かれていて、まずは良かったと思います。連合軍兵士が天皇のスナップ写真を撮る時、「チャップリンそっくりだ」と口々に囃し立てますが、当時は冷やかしの言葉であっても、今聞くと暖かい褒め言葉のように感じます。
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