ケイケイの映画日記
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2005年11月15日(火) 「親切なクムジャさん」


「復讐者に憐れみを」「オールドボーイ」に続く、パク・チャヌク監督の復讐三部作の完結編。今回は復讐者に清楚な美しさで国民的人気女優と言われるイ・ヨンエを起用し、初めて女性が復讐します。完成度と面白さはカンヌで賞を取った「オールド・ボーイ」でしょうが、ラストに見せるクムジャさんの切ない人間らしい感情に打たれた私は、この作品が一番好きです。

13年の刑期を終え刑務所から出所したクムジャ(イ・ヨンエ)。彼女は同棲していたペク(チェ・ミンシク)に脅迫されて、ペクの誘拐殺人の罪を被り自首したのです。クムジャは出所後にペクに復讐しようと、監獄では天使のように囚人たちに接し、「親切なクムジャさん」と呼ばれていました。出所後自分が種を蒔いて作った人脈を次々と訪れる日々。そんな彼女には、ペクの手によって刑務所入りした直後、オーストラリアに養女に出された娘がいました。

始まってすぐクムジャの13年前の逮捕シーンがテレビから流れます。どこかで見たことがあるなぁと思う方も多いはず。大韓航空機爆破事件のキム・ヒョンヒの逮捕シーンにそっくりなのです。マスクをしても隠せぬ美貌の犯人、彼女を題材にして主演映画を作りたいのセリフなどまるでいっしょ。これは何年たっても韓国人なら誰でも覚えている事件なのだと、印象付けるに効果的です。

刑務所のシーンはユーモラスに描かれていて、女囚のリアルな厳しさと哀しさは感じられませんが、私は楽しかったです。欧米の女囚モノはレズシーンなど男性向けにポルノチックですが、この作品ではグロテスクにブラックに描いているので、返って生々しいです。牢名主みたいな女囚役のコ・スヒは、「吠える犬は噛まない」でペ・ドゥナの友人役が印象深いですが、今回は猛烈な怪女でびっくり。ダンプ松本にそっくりでした。

全2作が復讐の連鎖を強く感じさせるのに対し、今回の復讐は個人の恨みより、自分が殺しておらずとも殺人にかかわった少年や家族への贖罪が感じられます。それは娘ジェニーへの詫びにもなるのです。

パク・チャヌクといえば残虐で過激なシーンが満載、大量出血で貧血になりそうと浮かびますが、今回もそんなシーンがいっぱいです。しかし大きな地球儀、空に浮かぶ文字などちょっとほのぼのするシーンや、残虐シーンの中に挿入される滑稽なシーンがユーモラスで、前2作ほど痛さや抵抗感は薄まっています。それに今回の復讐の相手は子供相手の誘拐殺人犯なので、やられて当然、むしろ精神的には爽快な感じもするのです。

パク・チャヌクで泣くとは思っていなかったのですが、自分の罪を娘に告白するクムジャに「私がママの代わりにその子の親の所に行って謝ってあげる。」とふいをつくジェニーの言葉に、スクリーンのヨンエとともに私も号泣。母を思う素直な娘の心が愛しくて。きっとクムジャは何もしてやったことがない母親なのにと、胸を熱くしたことでしょう。この作品は復讐を前面に出していながら、離れていても片時も子供を忘れていなかった母親のお話なのです。クムジャが母であったからこそが、自分一人で復讐を遂行しなかった理由なのではと思います。

ラストシーンで、ケーキ職人のクムジャが、ジェニーに向かって真っ白いクリスマスケーキを、「真っ白い女性になりなさい。」と渡します。そしてそのクリームをなめる娘を見ながらケーキに顔をつっぷして泣くクムジャ。「復讐を遂げても心は晴れなかった」のナレーションの後の行動です。これはペクに復讐を遂げても、ペクに殺された子供達の親には子供は返ってこないのに、犯罪に加担した自分には「犯罪者にはもったいない幸せ」の娘がそばにいる申し訳なさではないかと思いました。贖罪にはならなかったのですね。そしてもう一度真っ白な女性になりたかったの思いも込められているのでしょう。このコントのような滑稽なシーンの深い切なさに、私はまた涙。3部作の中では一番女性向けではないかと思いました。

イ・ヨンエは本当に美しい!若く見えるというのではなく、年相応の美しさで、女囚シーンは清楚で賢い中に奇妙な不気味さを感じさせるし、赤いシャドーの復讐期は、いつものムードをとっぱらって清潔感皆無のセクシーさを見せます。チェ・ミンシクは今回ゲスト出演的な感じでしょうか?出演シーンも少ないけど、相変わらず存在感は抜群です。ジェニー役のクォン・イェヨンは、ヨンエの娘役なのにおへちゃだなぁと思っていましたが(ごめんね)、くるくる変わる表情が愛らしく、無邪気で素直に自分の感情を母に訴えるジェニーを好演していて、最後の方はすっかり可愛くみえました。その他チャヌク作品の常連さん俳優がカメオ出演しているので、お見逃しなく。


最後にちょっとネタばれ疑問







クムジャとペクの結びつきは強引な感じが字幕ではしました。ジェニーは当時付き合っていたBFの子のような字幕でしたが、本当はペクとの間の子ではないのでしょうか?殺された子の遺族から「この男に子供はいるのか?」と問われて、咄嗟にペクは子供を孕ませられないと答えるクムジャでしたが、それはジェニーの存在を知られてはいけないと思ったからでは?そんな気がするなぁ。私の推理が当たれば、ラストシーンはクムジャの詫びの気持ちもいっぱいで、もっと切ないです。




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