ケイケイの映画日記
目次過去未来


2005年06月15日(水) 「電車男」


週に軽く2〜3本は観ていた私が、腎盂炎のため10日も開いてしまったのちに選んだ作品がこれ。悪名高き2ちゃんねるの掲示板を舞台にした、美女とオタクの恋物語が本となり、その映画化です。全然ノーマークだったのに、公開後の出るわ出るわの賞賛の声に耳を傾けると、若かりし頃のとても純粋な気持ちに戻れるそうな。体調がイマイチの時はそういうのがいいなぁ。

ある夜電車の中で酔っ払いに絡まれた美女エルメス(中谷美紀)を、勇気を振り絞って助けた電車男(山田孝之)は、それが縁で彼女とお友達からお付き合いするようになります。22年間オタク街道まっしぐらの彼は、今まで女性とお付き合いしてきた経験が無く、ネットの掲示板に今後の不安をもらします。そうすると、あれよあれよとたくさんのネット仲間が集まり、彼を応援し、行く末を見守ります。果たして電車くんの恋の行く末は?

我が家にも1名オタクがいます。しかしその次男に言わせると、「俺をオタクの王道と思ったらあかんで。」なそうな。何故なら寝食は忘れないし、毎日風呂に入るからだとか(!!!)。私も時々ですが、大阪のアキバ的場所の日本橋に行ったりしますが、ゲーム屋などに入ったら、確かにオェ〜というくらいの我慢出来ない男臭さが充満。近所に「日本橋に対抗!」と看板に書いてあるゲーム屋がありますが、初めてその店に入った時、臭いで「あっ、日本橋!」と私は思ったもんです。「見た目のオタク臭じゃなくて、本物のオタクはほんまに臭いねん。寝食も風呂も忘れるくらいにならな、ほんまもんちゃうねん。それに俺みたいに女の子とつるんだりもせえへん。二次元アイドル(要するにアニメ)にだけ萌えるんやな。」なるほどねぇ。

そんな次男からのレクチャーに、確かに山田孝之はぴったしはまった好演で、よく研究したと思います。髪もベチャ〜としているし、王道のリュック姿(オタクは両手を空けておくのが必須だそうな)、めがね姿、挙動不審な姿もバッチリ。一生懸命ガチャガチャ(ガチャポンのことを大阪ではこういう)をする姿も堂にいってました。タダひとつ違っていたのは、いつも一人だったこと。オタクって二人連れ多いですよねー。

電車君が憧れるエルメス嬢は、最初は珍種の物珍しさでお付き合いしているのかと思いましたが、年下の電車君を男として立て、貫禄ではなく包容力で彼をリードする姿に、昨今の若いお嬢様方の奔放ぶりには付いていきかねる私は大感激。慎み深く淑やかで、それでいて暖かいです。拙掲示板で、私が書いた「容姿に恵まれない人が側にいても、気後れさせない暖かい美貌」の箇所が好評だったのですが、この作品のエルメスがまさにそれ。どこから見ても釣り合わぬは不縁の元の彼女に、電車君が勇気を出せたのも、彼女の包容力だったと思います。演じる中谷美紀は、私は大好きな女優さんで、実際の掲示板でもエルメス嬢は中谷美紀似と書いてあったとか。聡明で品の良い彼女の持ち味が生かされていて、好演でした。

見ていて切なくなるほど、彼女を思う電車君の気持ちに胸が締め付けられまくり。これはデートなんだよな?でも彼女は俺のことどう思っているのだろう?次も会ってくれるかな?デートの最中も必死でネット仲間が知恵を出し合ったマニュアルと首っ引きの彼は、絶対楽しくなかったはず。でも今じゃ己の子宮がどうたらこうたらと言う面の皮の厚くなった私だって、初めてデートした頃は、「トイレに行きたい。」この一言が言えなくて、前日から水分を制限、当日はこれまたご飯を食べる姿を見られるのが恥かしくて、何も喉を通らず。彼にどう私は見えているのか、どんな受け答えをすればいいのか、ずっと心臓バクバク、家に帰るととにかくどっと疲れが押し寄せたもんです。あ〜、もうあかんわ・・・。きっともう誘ってもらえない・・・、と思っている時電話が鳴ると、また地獄だか天国だかわからない日々が始まるというわけ。電車君の「どうして人を好きになったりしたんだろう・・・」という思いを抱いた経験のある私は、彼のおかげでどっぷり思春期に帰ってしまいました。

昨今軽くくっついたり離れたり、カジュアルにセックスしたりの風潮が当たり前のように言われる中、人を好きになるその思いの純粋さ、切なさ、傷つきやすさ、美しさが見事に描かれていました。オタクを描いて、こんなに清らかで純情な作品になっているとは、思ってもいませんでした。

電車君の周辺のネット仲間たちも、それぞれ大なり小なり悩みを抱えており、彼の一歩踏み出すその勇気に触発され、皆も一歩踏み出すと言う脚本は爽やかで良かったです。難しい現実とネット仲間の境界線の描き方も、漫画チックな箇所も楽しく、現実感もちゃんと備えて描いてありました。

ネットでカキコする人間というと、事件を引き起こしたり、友人がいない孤独な人のように世の中では思われがちなようですが、この作品と同じく、自分の病気をエンピツの日記に書いて、身近な友人を始め、ネットのたくさんのお友達の方からの心のこもったレスやメールを戴いて、精神的に落ち着きを取り戻した私は、この作品も単なる絵空事の寓話とは思えませんでした。ネットにネガティブな思いを抱いている方に、是非観ていただきたいです。
人はやっぱり支えあって生きているのだなぁと、現代的な説得力で思わせてくれる作品です。


ケイケイ |MAILHomePage