ケイケイの映画日記
目次過去未来


2005年02月18日(金) 「舞台よりすてきな生活」

原題は「How To Kill Your Neighbor's Dog」という物騒なタイトルですが、シニカルでユーモアたっぷりのセリフの応酬が楽しく、そしてちょっぴりほろりとさせる佳作です。監督はこれが初めてのマイケル・カレスニコですが、製作総指揮はロバート・レッドフォードです。

ロスに住む名の知れたイギリス人劇作家ピーター(ケネス・ブラナー)は、新作を執筆中ですがスランプ気味です。そこへ結婚10年目の妻メアリー(ロビン・ライト・ペン)が、子供が欲しいと言い出します。子供嫌いの彼は同居中の義母の介護を持ち出し、断念さすのにやっきの中、隣の犬は夜中吠えてピーターのストレスは全開。そんな時お隣に、夫と別居中の母子が越してきます。その子エイミーは足が少し不自由でした。子供好きのメアリーは、早速エイミーを招待しますが、ピーターは書斎に立てこもります。しかし新作での子供の描き方がなっていないと指摘され、密かにエイミーを観察していると、彼女に気づかれてしまいます。ままごとのお供をさせられた彼は、自由なエイミーの発想に触発されたのがきっかけで、交流が始まります。二人には年齢を超えた、奇妙な友情が芽生えるのですが・・・

ケネス・ブラナーがこれぞ英国人というような、ああいえばこういうという感じの、皮肉と毒が少々の口の減らない人で、始終笑わせてくれます。大人なんだか子供なんだかわからない人ですが、痴呆気味の義母と同居したり、自分の名を語るストーカー男と親密になるなど、口ほどではない善人ぶりが伺えます。事実エイミーに対しての最初の会話も、煙草はよくないと先生から聞いたという彼女に、「マリファナ吸っただろうと聞いてみろ」と応じます。まるで大人に対してと同じ皮肉たっぷりな答え方です。私はこの辺で、変に子供扱いしないことで、返って純粋な彼の心を感じました。相手が子供であれ痴呆気味の老人であれ、仕事相手であれ、いつも同じ態度で接する彼に、見る見るうちに魅了される自分を感じます。

対する妻のペンが、聡明さと明るさで対抗し、やっぱりアメリカ人だなぁと感じさせます。自分には子供のように振舞う夫に手を焼きながらも、その夫操縦法には感心します。子供相手のダンス教師を続けさせてくれたり、自分の母への心配りなど、しっかりした夫への信頼感があるからと感じました。演じるペンは、ご存知ショーン・ペンの妻で、実力がありながら素行の悪さばかり話題になる彼を、見事オスカーをとるまで支えた糟糠の妻です。ショーンはブラナーほど知的そうじゃないですが、私生活もちょっとかいま見た気分です。

痴呆の老人、不妊、家庭不和、ストーカー、そして身体障害と、自分の周り=隣人を見渡すと、ああそういえばと身近にある問題が、ユーモアに包まれながらさりげなく描かれています。その中で唯一さりげなくではないのが、エイミーを通じて描く身体障害です。エイミーは障害と言っても少し足をひきづるだけです。にもかかわらず母親は、少し神経質すぎるほど彼女を外とかかわらせません。そのため友人も出来ず、自由な愛情を示してくれるピーター夫婦と、どんどん親密になる娘に寂しさを感じ、彼らから引き離そうとします。

エイミーの可能性を引き出そうとするピーターとメアリーに、娘を人前に出して笑いものにする気かと激怒する母親。「エイミーを恥ずかしいと思っているんだろう!」と言うピーター。これは言いすぎだろうと思う私。「子供がいない人に何がわかるの!典型的な不妊夫婦ね。」と切り返す母親。あんたも言いすぎです、でも気持ちはわかると肯く私。母親は自分が社会に持っている概念を、娘に当てはめて考えているわけで、ピーターが確信をついてはいます。しかし人からは些細なことでも、それが自分の子の身の上に起これば、世をはかなむのが親と言うものです。

「ブラックジャックによろしく」を読んでいる時、障害児を育てる父親のセリフで「この子が生まれて本当に良かったと思っている。でもこの子に障害がなければと思わない日はない。」という言葉が出てきて、不意をつかれた私は泣いてしまったことがあります。この気持ちは、エイミーの母とて同じではないでしょうか?いつか子育てには終わりがきます。まだ10歳のエイミーに、私が守らねばとの母親の盲目的な愛は、良い悪いではなく私にはしごく当然に思えます。メアリーの「子供の前で母親のことを悪く言うなんて!」と夫をなじる姿が、私の思いを肯定しているように感じました。

ピーターとエイミーが別れを惜しみ抱き合う姿に、私はホロホロとまた涙。決して擬似親子ではなく、あくまで友情(愛情)に感じたのが心地よかったです。ラストメアリー御懐妊を思わすショットが嬉しいです。でも他人の子と自分の子は違うのよ。その時エイミーの母の気持ちもわかるでしょう。大事件も起こらず、日々の日常の1コマ1コマを丁寧に描いているだけなのに、楽しくほっこり観る事が出来ました。ビデオでも良いので、是非観ていただきたいです。


ケイケイ |MAILHomePage