ケイケイの映画日記
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2004年06月03日(木) 「ジャンプ」

「読んでから観るか、観てから読むか?」大昔「犬神家の一族」に使われたコピーですが、原作のある作品はどちらにするか、未だに悩みます。今日観た「ジャンプ」は、2000年度「本の雑誌」が選ぶベスト1に輝いた、佐藤正午の原作の映画化です。私は既に読んでいるのですが、映画と原作は別物と思っていても、この作品のように、面白くて一気に3時間で読んでしまった物は、ついつい比較してしまいます。

突然理由もわからず恋人に失踪された男性・三谷を主人公に描いた作品で、大筋は原作通りです。ですが、登場人物の性格や設定がかなり膨らんだり、削られたりしているので、原作で表現されている、サラリーマン男性の同情しえる優柔不断さや、女性の持つ良い意味で物事に縛られない自由さ、のちに妻となる女性のすごみやしたたかさが、あまり感じられません。

特に、始まってからすぐ失踪してしまう恋人のみはるは、原作では、姉・実父・友人によってどういう女性か読み手にもくっきり浮かび、伸びやかでしなやかな感性を持つ魅力的な女性なのですが、その辺りがばっさり削られ、
失踪の意味づけが不明瞭で、魅力の乏しい自分勝手な女性に映ります。そのため、何故三谷が必死になって彼女を探すか説得力に欠け、みはるを探す過程で、今まで自分は恋人の何を見ていたのだろうと言う、男性にはありがちな、自分の鈍感さに気づくと言う描写も薄いです。

もう一人鈴乃木早苗と言う女性が重要な役なのですが、彼女は映画では、だいぶ違う描かれ方です。原作では肉食獣が獲物を捕らえる直前のような、絶妙の距離感を三谷と保ちながら、年上の余裕と結婚に対する鋭い洞察力と気合を感じさせ、とてもしたたかな女性なのですが、映画では、自分の気持ちに気づかぬ三谷をひたすら思い、献身的に支える女性に描いているので、彼女の取ったみはるへの行動も、女心の切なさを感じさせました。脚本(と言うか脚色)は、女性の井上由美子。早苗の膨らませ方を見ると、彼女に一番共感したのかもしれません。

私が原作を読んで一番感じた、”if・もしも”的な、あの時ああしていれば、あの時ボタンを掛け違えていなければと、人は人生においてよく思うものですが、結局それは縁がなかったと言うこと。偶然ではなく必然だったのだと言う、感想は、映画でも同じでした。観ている間は淡々と進むストーリーに、退屈せずリアリティも感じながら観られます。主人公を演ずる原田泰造は、最大公約数的優しい男性像を、上手く演じていました。この作品に関しては、観てから読むをお薦めします。




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