c h e c k e r e d  f l a g .
 ○ハジメマシテ   ○オエビ   ○ノベル   ○ダイアリー
1981年10月05日(月) どんなことばで***幸せ系結末ver.

薄暗い公園に全力疾走で駆け込むと、勝手に自分を待っているその傍迷惑な奴の姿は、すぐに目に付いた。
低いレンガの塀に浅く腰かけ、ただ空を見上げている。
数メートル手前で足を緩めると、相手もこちらに気づき、塀から腰を上げた。
「ちょーブサイクな顔」
「お前、な、人が死ぬほど、急いできたのに、第一声が、それかよ」
両手を膝について肩で息をしながらも、松本の相変わらずの悪態に一応のパンチを入れる。
が、松本は知ったことかというように、遠くを見つめながら呟いた。

「勝手にホモにしないでくれる」
「は?」
櫻井が顔を上げると、松本は両手を伸ばして空に向かって吠えるように叫んだ。
「愛してるから捨てないで〜」
数日前、櫻井が伝言係・大野に託した言葉。相当感情を込めて伝えてくれたらしい。
粋なんだか余計なお世話なんだかわからない。

「バカ、あの愛してるは」
「わかってんよ」
誤解などするわけがないだろうが、一応のフォローを入れようとすると、松本に遮られた。
それでも言葉を繋ぐと。

「親愛の愛。だろ」

ふたり同時に重なった、声。
声のトーン、一瞬あけた間すらも一緒で、お互いびっくりしたように目を合わせてから、笑った。
「敬愛でも可」
櫻井流に口を縦に歪めて、得意げに言う。勿論、右手親指アップで。
「心にもないことを」
くっくっと笑う松本。

その笑顔を見て、櫻井は小さく息を吐いた。事態はそう悪く進んでいないようだった。
「あーあ、昔はあんなに可愛かったのにな。翔くん翔くんって」
視線を落として、軽く足を遊ばせながら言うと、松本は口を尖らせた。
「昔の話」
「ほんと、昔の話。今の潤くんは思春期真っ盛りで、全然わかりません」
冗談ぽく顔を覗き込むと、松本の表情が暗くなっているのがわかった。
笑顔を期待したわけではなかったが、ここでの松本の変化に、櫻井の心に少し、緊張が走る。

少しの間を置いてから、息を吸い込んで松本が口を開いた。
「こないだは、うそついた。…嫉妬、してた。…多分。裕貴くんに」
ゆっくり言葉を繋いでいく松本。
櫻井はじっと待つしかなかった。どう、なのか。その話は、どう、進むのか。
「裕貴くんは、俺の知らない翔くんを沢山知ってるんだよな。って」
松本は櫻井と視線を合わせようとはしない。
ただ、ロングコートのポケットに手を突っ込んだまま、間を置きながら言葉を繋げた。
「俺に…っていうか、メンバーに言えないこととか、いっぱい話してんだよな。とか」

松本の言葉を噛み締めながら、櫻井の心に、また少し安堵の感が戻ってきた。
と同時に、なんだか松本がとても幼く見え、こんなのに振り回されている自分がおかしく思えてくる。
口元が緩むのがわかったが、堪え、一生懸命話してくれている松本の瞳をじっと追った。
「なんか、いきなり悔しくなっただけ」
松本も櫻井のその様子に気付いたのか、少しバツが悪そうに半ば無理矢理に話を完結させた。

それから一息ついて、やっと決心したように視線を絡ませると、トドメの台詞を吐いた。
「俺、翔くん、好きだし」
絡み合う視線。ただ沈黙が落ちる。その空気は、数日前のそれとは全く異質だが。

「なんか言えよ」
先に沈黙に耐え切れなくなったのは松本だった。
櫻井は、その様子を楽しむかのように、わざと意地悪く顎を上げる。
「お前が呼び出したんだろ」
「っ!…むっかつく」
かっと顔を赤くした松本が地団太を踏む。もう、面白くて仕方が無い。
「ウソウソ。俺も好きよ。愛してるってば」
足取り軽く松本に近寄り、肩に腕を回した。松本は顔を背けるが、その腕を振り払おうとはしない。
「もういい」
口を尖らせて反対方向を向く松本の耳が赤くなっているのを見て、櫻井はまた、顔が緩むのがわかった。

「嬉しいよ。久しぶりだし、そういうの」
わざと大きく松本に寄りかかってみせる。
本心の言葉だが、冗談めかしてしまうのは、今まで相当松本に苦しめられたお返しでもある。
「もういいって。マジむかつく」
やっと松本が、逃げるように櫻井の腕を肩から外す。
それから踵を返すと出口に向かって歩き出したので、櫻井も慌てて後を追った。

今なら、なんでも言える気がした。
あの時の質問の先にある、その真意がなんであろうと、今、今しかその答えを言う事はできないと思った。
松本の横につくと、櫻井はそのまま松本の顔は見ずに、視線は合わせずに、口を開く。
「ほんと、ほんとに。お前は俺の、オンリーワン…だし」
オンリーワンの部分だけ、ひとつ声のトーンを落として言う。意図的じゃなく、自然にそうなった。

瞬間、松本の表情がほんの一瞬暗くなったことには気付かなかったが。
いや、気付かないフリをしたかったのかもしれない。
その空気だけは、なんとなく、読み取れたから。

だが、櫻井にその空気の変化を悟らせ・理解させる間を与えなくしたのは、松本の方だった。
「返し忘れてた、指輪」
松本は思い出したように立ち止まり、ポケットから例の忘れ物…シルバーの指輪を取り出した。
手を伸ばして、櫻井の前に差し出す。

櫻井は一瞬それを受け取ろうと右手を出しかけたが、ふと思い直してその手をポケットに戻した。
もう、なんだかどうでも良くなってしまった。
「良いよ、もう。お前持ってろ」
松本の表情が驚きの色に変わる。

大して大事な物でもないしと付け加える前に、指輪を顔の横でちらつかせて松本がニヤリと笑った。
「エンゲ〜ジリング?」
さっきのお返しと言わんばかりのその黒い笑みに、櫻井は気を失いそうになる。
「やっぱ返せ」
「やだよ」
リングを取り上げようと手を伸ばすと、松本は両手でしっかりとそれを包んでしまう。
それから、既に顔を出していた月の光に反射させるようにリングを掲げて、微笑んだ。

「死ぬまで持ってる」

その笑顔と発言に凍りついた櫻井の横をすり抜け、公園の出口に向かって歩き始める松本。
とんでもねぇプレゼントをしちまった…と、白いため息を吐いて、櫻井も松本に続いて、歩き出した。
横に並ぶと、意味も無く松本の頭をぽんと叩く。

「死んでも持ってろ」

我ながら、人生で最高に恥ずかしい言葉を吐いてしまった気がする。
そう思いながらも、不思議と櫻井に羞恥の感はなかった。
松本が一瞬小さく顎をひいたのと、長い前髪に隠れた瞳が、ほんの少し、嬉しそうに細められたのが見えたから。

end.










後書き。
ギャー!!甘い!甘すぎる…!!
大団円とかでなく、単なるホモくせぇ結末になってしまってすみません…。
そんなつもりは更々ないのです。ほんとに。
アタイ、あんまりベッタベッタしてるSJ好きじゃないので。
ていうか有り得ないので。読む分には良くても書けない…。
まーなんだ、途中で松本がちょっと見せた切ない表情の理由は、
切ない系バージョン後書きを読んで頂けると。
なんとなくね、こっち(大団円)は、ちょっとオトナな松本。
切ない系は、ちょっとコドモな松本がテーマです(今作った←こら)。

DiaryINDEXpastwill
saiko |MAIL