ケイケイの映画日記
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2025年02月14日(金) 「リアル・ペイン〜心の旅〜」




祝!本年度アカデミー賞、助演男優賞(キーラン・カルキン)、脚本賞(ジェシー・アイゼンバーグ)ノミネート!ジェシーは以前から好きな俳優で、彼の初監督作は見逃してしまったので(「僕らの世界が交わるまで」)、今回それだけを目的に観たのですが、小品ながら珠玉の秀作で、本当に感激しました。監督・脚本はジェシー・アイゼンバーグ。

ユダヤ系アメリカ人の従兄同士、ベンジー(キーラン・カルキン)とデヴィッド(ジェシー・アイゼンバーグ)。幼い頃は仲良く接していたけれど、いつの間にか疎遠に。二人の祖母の遺言で、祖母の故郷であるポーランドのアウシュビッツの史跡を訪問するツアーに参加します。

まず従兄という設定が良いです。数日違うだけで同じ年の二人。兄弟のような上下関係もなく、親族であっても程ほどの関係で、友達以上の血縁ではあります。確執こそありませんが、お互いが相手に対して思うところがあります。でもこれも兄弟や他人とは、間柄の濃淡が違うので、憎しみまでは行かない。気安さもわだかまりも、絶妙に従兄感が表現されています。

人の気を反らさず、いつもグループの中心でコミュニケーション抜群のベンジー。しかしデヴィッドにとってのベンジーは、自己中でいつも振り回されてばかりで、苦々しい。彼といると自分の気持ちを押し殺しています。しかし、地味な自分より、常に華やかなベンジーへの憧れもある。

ベンジーは多分、何か精神疾患を患っている。感受性は繊細で、いつも軽躁状態。そして大麻をスパスパ。そんな自分を持て余し、堅実に家庭を築いているデヴィッドが羨ましい。

そのデヴィッドも、強迫神経症を患っている。父方同士の従兄の彼ら。お祖母ちゃんは、孫たちの生き辛さや生き苦しさを、知っていたのでしょう。死に逝く自分は、可愛い孫たちに成す術もなく、自分たちのルーツであるユダヤ人の軌跡を二人で辿る事で、生への意味を見出して欲しかったんだなと思いました。祖母は、アウシュヴィッツの生き残りなのです。

歴史の足跡を辿る中、神妙になったりハイテンションになったり怒ったり。様々な感情の発露を見せるベンジーより、私はデヴィッドの台詞が深々と心に残りました。アウシュビッツの生き残りとして、子供の頃ポーランドからアメリカに渡ったお祖母ちゃん。生来の頭の良さを武器に、メキメキ頭角を現します。デヴィッドはお祖母ちゃんのような一世を、「一世はがむしゃらに働き、二世にはその金で教育を受けさせ、三世は地下でハッパを吸う」と言います。三世のハッパは、「それ、俺の事?」と、ベンジーが言う通り、彼への皮肉ですが、犯罪ではなく真理も籠っている。三世になると、その国にほぼ同化し、先達の苦悩や苦労は慮らない、というところでしょうか?

これはユダヤ人に限らず、国籍の違う国に根を張る人々の、共通の話しです。自身もユダヤ系アメリカ人であるジェシーの、本心であり憂いであるのかと、思います。このツアーは、様々な境遇を生きるユダヤ人たちの集まり。普段自分の「血」には無関心のはずの二人が、この旅で、自分たちの「リアル・ペイン=本当の痛み」は、どこから来るのか?ルーツから遡りなさいという、祖母心だったのでしょう。兄弟はいない(多分)二人には、二人しか解り合えない感情があるはずだから。

旅を終え、家まで送るというデヴィッドに、ベンジーは丁寧に断ります。熱く抱擁する二人。私は、また二人の付き合いは無くなると思います。でも何となく疎遠になった今までとは違い、心の拠り所にお互いが存在するはずです。

様々なプロットを詰め込んで、みんな綺麗にまとめて、何と90分!ジェシー、やるなぁ。アメリカの様々なアワードでも、脚本と助演男優賞に受賞&ノミネートされているようです。色々な角度から、自分に重ねて観られる作品です。お祖母ちゃんの、素敵な置き土産でした。


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