2007年03月10日(土) 買い付け


年始から春にかけて、
我が家の食卓には黒豆の甘煮があがる。
おばあちゃんが数日かけて釜のような大鍋で
ちょっとずつ火加減をしながら煮込んだものだ。
おかあさんとおじいちゃんの好物で、
のどが荒れたときには煮つゆを飲むとばっちり効く。
おすそわけしたレシピも大人気の、おばあちゃんの渾身の一品。

年末、こだわりの丹波の黒豆を買いに、築地市場に行くのが恒例で、
去年おととしと私は荷物持ちでおともしている。
おじいちゃんにもらった一眼レフをぶら下げて。
大きなリュックサックを背負って。
黒豆はここ、と決めたお店で買ったものしか使わない。
おばあちゃんが品定めをする間は、
少し人ごみから離れたところでシャッターを切りながら待つ。
フォークリフトのアームがないような乗り物をパシャ。
段ボールに投げ込まれた食べ物をパシャ。
古くからの商店をパシャ。
ついでにおばあちゃんの真剣な横顔も。
豆のあとはお茶や明太子を買って、
重くて崩れても問題のないものは
私のリュックにどんどん詰め込まれていく。

お昼を場外のお寿司屋さんで食べて、
帰りは卵焼きをつまみ食い。
おばあちゃんはテリー伊藤のところじゃなく、
そのお隣の卵焼き屋さんがお気に入り。


2007年03月09日(金) 田町


おととしの夏、父といっしょに田舎の成田へ遊びに行った。
成田山のお祭り見物、
いとこのケンちゃんが山車を引く若連衆としてデビューする日だ。
天気は快晴、お祭りの喧噪、おいっさーという野太い掛け声。
黄色い法被にねじり鉢巻を締めたケンちゃんも
いつもよりきりりとして見える。
ケンちゃんの所属する田町町会の山車の進行に合わせて、
私たちも移動していく。

お父さんはもともとここ成田で生まれ育った。
渡辺家にはお婿さんとしてやって来たのだ。
この日のお父さんはいつもとちょっと違った。
東京にいるときの、仕事中とも家にいるときとも、なんだか違う。

人ごみを避けるため、参道からはずれた裏道を進む。
「こっち行こう」
私を急かしながらぐんぐん進むお父さんの顔、
なんだか少年みたい。
私たちの後ろには、小学生の男の子が3人連なっていて、
かつてのお父さんは彼らだったんだな、と思った。

若かりし日のお父さんもまた、田町の若連衆のひとりだった。
当時の若連衆の仲間は、
今は山車の上でお囃子や音頭を取る幹部になっていて、
「コウちゃん来てたのか!」「コイチじゃねえか!」
とお父さんに声をかけてくる。
みんな頭が薄かったり太っていたりするけど、
相変わらずお父さんはうれしそうな顔だ。

参道を勢いよく掛け上っていく山車を眺めながら
あの黄色い法被は俺が選んだんだよ、
とお父さんはつぶやいた。
その顔は、なつかしくも寂しそうで、
少しだけいつものお父さんに戻っていた。


2007年03月07日(水) 珈琲たいむ


おやつの時間にコーヒーをふるまうのがこのところの日課だ。
ばあばはアイロンかけを終えて家事が一段落するころ。
コーヒー飲む、と聞くと、ばあばは必ずお願いしますと言う。
ゆったりした時間は、たいてい二人ではじまる。

ちょっと前までは手動のミルで時間をかけてガリガリ。
でも今は電動のミルがあるのですぐに豆を挽くことができる。
沸かしたお湯をトポトポとドリッパーに注ぐ。
豆が泡を立てながら雲のようにふくらむ。
少しずつ、褐色の液体が落ちてくる。

匂いにつられてか、タイミングよく
お母さんが仕事部屋から出てきて、いい香りね、と言う。
体の調子がよさそうなときは、じいじにも声をかける。
じいじも言葉少なにうまい、とつぶやきながらカップに口をつける。
私もピーナッツをつまみながらコーヒーを楽しむ。

いつのまにか、4人でテーブルを囲んでいる。
思えば我が家は朝食は取ったり取らなかったりだし、
昼食でも学校や仕事で誰かが欠けていることが多い。
下手をすれば夕食でも全員がそろわないときだってあるのに、
食事以外でみんなでテーブルを囲む時間があるなんて不思議。



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