2003年01月26日(日) A smiling face like a flower
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本屋にはいろんな人がやってきます。 学校帰りの女子高生。 待ち合わせのカップル。 自宅待機中の中年のおじさん。 料理本を買ってゆく主婦。 とにかく本当にいろんな人が、やってきます。 たくさんの人の接客をしていると、 やっぱり印象に残るお客さんが出てきます。
その人は40代の女の人で、 「週間朝日百科 世界100都市」を毎週買って行ってくれます。 「袋はご利用なさいますか?」と聞くと、 一瞬分からないような顔をしてからこっくりうなずいて、 「あーあー」と言いながらお金を出しました。 これがいちばんはじめに接客したとき。
しばらくして、定期購読のファイルをめくっていると 「耳が不自由なお客様なので、入荷の際の連絡はFAXで」 というメモがはさまったページを見つけました。 書名はやっぱり「世界の100都市」。 ちょっと予感はしたけれど、本当に耳の不自由な人だったんだ。 耳が聞こえなかったり、目が見えない人に対して、 なんとも思わないわけじゃありません。 もし自分がその立場だったら、と思うと しまいには「いやだなぁ」って思ってしまう。
でもね、その人の接客をして、すごく感じることがあったんです。 笑顔がすばらしい。 「どうもありがとう」っていう代わりに、 最後にニッコリ笑って帰っていくんだけれど、 その笑顔が本当にすばらしいんです。 笑顔がすてきな人ってたくさんいるけれど、 その人たちの笑顔よりもきっと何倍もすてきな笑顔を作れる人。 言葉を発することができない代わりに、 目や笑顔で気持ちを伝えようとするでしょ。 多分、その力がとっても強いんだと思うんです。 だから、他の人に対してよりも口を大きくパクパクさせて、 「ありがとうございました」って言うようにしてるんだ。 毎週その人の接客ができるのは、ちょっとした楽しみになりそうです。
登校日をかんちがいして、学校に行ってしまった。 今日は本当はセンター試験の採点の日だったみたい。 だから、大学が決まっている私は行かなくてもよかった日。 もし行かなくてもいいってことを知っていたとしても、 私はたぶん学校に行っていたんじゃないかなぁ。 学校に行って、みんなに会いたかったから。
「まちがえて来ちゃったよ」という私に「アホ」というさじお。 英語193点・全体8割超のしょうこの快挙を、ふたりでやったーって喜んだ。 「ナベさん、おれやべーよ。数学34点だったんだけど」とヒソヒソいう小黒くん。 気象予報士志望の慎吾くんに、天気予報図入りの凝った年賀状のお礼を言った。 教室を間違えている上に30分遅刻している高須。 ベンチにいた三原くんとおはようってあいさつし合った。 甲田ちゃんがセンターの応援メールを「ありがとう」って言ってくれた。
みんなみんな楽しくてやさしくて大好きな人ばかりで、 そんなみんなと大好きな学校で会えることがうれしい。 そんなうれしさを味わえるのも、あとちょっとなんだ。 みんなのいきいきとしたしぐさや言葉、そして瞳を、 ずっとずっと心の中にとどめておくんだ。 時がたって私もみんなもおじさんおばさん、 ひょっとしたらおじいちゃんおばあちゃんになっても、 今をあざやかに思い出していたい。 そう思える今を過ごせていること、それだけでもう十分すばらしく思えた。
ちょっと前のある日、友だちの誕生日にプレゼントをあげた。 私はプレゼントにはかなり時間を費やして選ぶタイプ。 もちろん、このときもデパートを何度も上がり下がりした末、 使い込むと色に深みが出てくるという革のブレスレットを選んだ。 受験をこれからに控えている子なのでお守りの意味合いと、 卒業後も忘れないでいて欲しいという気持ちを込めて、選んだ。
ずいぶん昔の秋、おじいちゃんとおばあちゃんが 京都へ旅行したときに、ふたりはおみやげを買ってきてくれた。 老舗・十三やのつげ櫛だった。 使い込むと髪の毛の油で櫛がいいあめ色になるんだよ、 っておばあちゃんが教えてくれた。
どうやら、私は使い込むといい味が出るものが好きみたい。 そこにはたぶん、ものを大切にしたい、自分に合ったものにしたい という気持ちがあるんだと思う。 それと同じように、私自身も長く生きれば生きるほど、 経験を積めば積むほどにいい味の出る人間に なりたいなぁって思ってるんだ。
やきいも屋さんが通る度に 「やきいも今シーズンはまだ食べてないなぁ、食べたいなぁ」 と思いつつ食べずじまいだったのですが、 今日やっと食べました。 最近はやきいも自体も高いんですね。 それに、あの新聞紙で作った紙袋じゃないんですね。 おじさんが大きい方のいもを選んでくれたのがうれしくて、 思わず「やったー」と口に出してしまいました。 信号待ちをしていると「おねえさん!」と おじさんに呼ばれたのでトラックまで戻りました。 すると、おじさんがとびきり大きいのを半分にして、 「半分はおれが食べるから」と言ってもう半分を私にくれました。 おじさんが「ソース」と言ってつけたチューブのバターが やきいもの黄色の上でとけてつやつやして、 とてもおいしそうだった。 夜半でもう寒かったけれど、おじさんが呼び止めたせいで 信号を2回渡りそこねたけれど、 やきいもの甘みとおじさんの親切のおかげで 心はホクホクあったか。
バイトをするようになって、いろんなことに気づく。 たぶんそれはこれからもっと増えていくはず。 中でも、きっとずっと忘れないだろうと思うのは、 「笑顔っていいなぁ」ってこと。 本にカバーをかけてあげたり、本を探してあげたりすると、 「ありがとう」と言ってくれる人やほほえんでくれる人が多い。 そういうことがあるから、かっこつけやきれいごとじゃなく、 働いていることに充実感を感じられる。 おばあちゃんがお金を出しまちがえて照れ笑いするときなんて、 最高にかわいらしい。 お客さんがバイトの私にあったかい気持ちをくれるなら、 私からもそういう気持ちをあげたい。 だから私は最後の「ありがとうございました」のあいさつに ありったけの心をこめる。 『ゼクシィ』を買って行った人には「おめでとう」とお祝いしながら。 『B-ing』や『ガテン』を買って行った人には「がんばれ」と応援しながら。
新年会で遅くなった今日の帰りの山手線の中、 池袋から駅員さんに抱えられて男の人が電車に乗り込んできた。 床でどっかりと寝ころんだその姿を見て、 すぐに、酔っ払いだということが分かった。 私は「やだなぁ」と思って知らんぷりしてしまったんだけれど、 後から来た人が「大丈夫ですか?」って聞いてあげたり、 近くに座っていた女の人が席をゆずろうとしたり、 下車する駅ではまた別の人が体を支えて階段を上ってあげたり、 落とした携帯電話を拾ってあげたり、 親切な人がたくさんいることに感動した。 そして、人はまわりの人に助けられながら生きてるんだなぁって改めて実感した。 そんな助けを出さなかった自分を少し恥ずかしく思いもした。 これからは親切をたくさんあげられる人になるんだ。
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