女性の罵り
 きつとあの人は安心したかつたのだ。
 僕の手の屆かぬ樣に全ての状況を運び、其の上で安心材料を得たかつたのだ。

 何度も何度も彼を言葉の刃で傷付けて、それでも不安だつたからこそ彼女は僕で確かめやうとしたのだ。
 僕は手を出せぬと思つたからこそ、彼女は高位からの物言ひで僕を罵り、態々彼の現状を告げたのだらう。
 さう、僕は手を出さない。元々彼に執着などしてはゐないのだから。

 それだけあの人は不安なのだらうか。
 そんなに彼は彼女を不安に陷らせるに足る行動を取つてゐるのだらうか。

 彼女と彼を氣遣ひながら、ちやんと僕は惡役になつた。
 これでいいのさ。これで。
2003年12月25日(木)


 適得其反
 あるサスペンスドラマの一場面でこんなのがあつた。
 疲れ果てた表情を浮かべて眞夜中に歸宅する夫。部屋では電氣を點けて趣味の作業をする妻が居り、夫は妻に「まだ起きてゐたのか?」と驚きの聲を上げる。妻は「貴方を待つてゐた譯ぢやないわ。」と作業の爲に起きてゐたのだと言ひ、「風呂は?」と訊く夫に「何度同じ事を訊くの。今迄沸いてなかつた事なんてないでせう?」と聲を荒げて妻は答える。夫はなんて厭味な女だらうと内心思ひながらも妻の父の權力を畏れ、妻のご機嫌取りをしやうとする。

 嗚呼、違ふんだ。彼女は待つてゐたんだ。夫が歸つてきた時の爲に食事を用意して風呂を沸かして、夫の歸りの遲さ故に疑いで心が溢れさうになりながらも夫の爲に待つてゐたんだ。
 「貴方を待つてゐた譯ぢやないわ。」なんてのは唯の強がり。彼女は夫を待つてゐたんだ。
 如何して其れが夫には判らぬのだらうか。

 如何して彼には判らぬのだらうか。と、ドラマの夫の姿に知人の姿を重ねてみてしまふ。
 「あいつが俺と別れるのを嫌がるのは意地を張つてゐるだけだ。俺とあいつの間には愛情なんて無い。」と知人は妻の事を口々に言つて回つてゐる。
 さう、知人の妻は意地を張つてゐる。夫の爲に毎日自分の仕事時間を削つて家事全般をこなし、次々事業に失敗する夫の爲に自分の親に頭を下げて資金援助をして貰うのは夫の事を思ひ遣つてゐるからだ。全ては夫への愛ゆえに。なのに彼女は夫には素直に愛情を傳へられず、顏をあわせる度に夫に罵聲を浴びせてしまふ。

 如何して彼には判らぬのだらうか。
2003年12月17日(水)


 平々凡々
 平凡な人間になりたいと思つてゐた。
 小説やドラマの設定にも對抗出來る樣な、複雜な家庭環境なんぞ望んでは居なかつた。
 僕は地味な目立たない人間になりたかつた。

 ほら、中高生の頃にクラスに一人は居ただらう。
 地味で目立たなくて、周圍に「あれ?いたの?」と言はれてしまふ人が。
 そんな人に僕はなりたかつた。

 途中までは成功するのだ。
 いつだつて途中でほんの少ししくじつてしまふのだ。
2003年12月08日(月)


 ゆらめきの中で
 餘り體調の良く無い時、僕は視界がぼやける。ゆらゝゝと地面が搖れて見える。
 でも、そんな時に限つて僕の眼は見てしまふのだ。僕の知人の彼氏が僕の見知らぬ女のコと腕を組んで人込みの中に消えていくのを。

 以前も、酷く氣分が惡いのを我慢して街中で友人の買ひ物に付き合つてゐる時に、別の知人の彼女が知人以外の男と手を繋いで歩いてゐるのを見てしまつた事がある。
 今回も前回と同じ樣にしやう。

 今日の僕は體調が萬全では無く視界がおかしい。だから、知り合ひに似た人が知り合ひに見えてしまつただけだらう。
 あれはきつと赤の他人なのだから、僕は餘計な事を知人には言ふまい。

 だけど、僕は彼女の味方であり續けやう。
2003年12月06日(土)


 三更踏月來
 偶に頭の中が誰かの名前でいつぱいになる。
 オンラインでもオフラインでも何でも良いから、其の名の主を捕まえて「如何して僕を見捨てたのですか」と詰問したくなる。

 そんな事をして何になるのだ。
 何もならぬとは判つて居る。
 心と體の距離が更に増すだけだと知つてゐる。

 ねえ、如何して僕を見捨てたのですか。
 貴方は今誰の事を想つてゐるのですか。
 僕の存在なんてもうお忘れなんですか。

 噫、クダラナイ。
2003年12月03日(水)
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