傳言
 傳へたい事があつたから、僕は虚構の世界を構成する駄文の合間に言葉を次々潛り込ませた。
 あの頃は彼が、女性にしか見え無い彼が居たから僕は傳へたい事が山程在つた。口頭で傳へる譯にはいか無かつた。彼は隱喩を好み、美しく儚いものを愛しこそすれ、直接意思を傳へる下品な遣り方を好ま無かつたから。

 あの頃は彼が居た。
 下品な原色遣ひの衣服を嫌い、淡い色合ひの物を好み、枯れても萎れぬ薔薇を愛し、薔薇の如く見目麗しい自身に醉い癡れる彼が。

 あの頃は居た彼はまう居無い。
 傳へたい事はまう傳へ終えた。
2003年05月28日(水)


 見切り
 見切り時を知ら無い譯では無い。
 だが、見切るのも見切られるのも今は厭なのだ。

 最惡の事態を何時だつて想定して自分の中でシユミレートし續けてゐる。
 必ず僕の元には僕の望まぬ光り輝く未來が訪れるであらうから。
2003年05月25日(日)


 會者定離
 盛者必衰會者定離。

 月の滿ち缺けの如く、盛えては衰え、衰えては盛える。
 波は退くばかりでは無く亦寄せる。
 會ふ者は離れるが定めと雖も離れた者に再び會ふも定め。

 途絶えた縁は再び密に繋がり、曇空は晴れ上がり青空になるのだ。
2003年05月16日(金)


 望んだもの
 誕生日に花の一輪でも渡してくれる男が欲しかつた。

 そう僕が告げたら君は僕を嘲うだらうか。
 夢見がちな愚か者が此處にも居たのかと僕を指差して大笑ひするだらうか。

 僕の誕生日を通常とは違ふ日として扱つてくれる人が欲しかつた。
 突き詰めると唯其れだけの事なのだ。
2003年05月05日(月)
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