「一生一緒に居樣ね。」
彼女がそう云つたのだと聞いた途端、「嗚呼、凄いね。」と溜息を吐くやうに言葉が僕の口から滑り出てきました。
其の科白は僕が本當の意味では口に出來無い科白でしたから。
今の僕には決して謂へ無い科白でしたから。
對象者によつては餘りに重い意味合ひを持つ其の類の科白を僕は押付ける事が出來無いし、押付けられても受け入れるだけの自信が無いのです。
いや、本當は此れは言ひ譯。
押付けた後に對象者が感じた重みに潰されて離れて行つてしまふのが怖くて謂へ無いだけなのです。
2002年08月30日(金)
息を詰めて讀んでゐました、僕が一昨年からずっと見守り續けてゐた美しい女性の其の日記を。
彼女の頑迷さが捻くれ振りが内に籠る言動が僕は僕のものと似てゐる氣がして彼女から目を放せず、かといって其の類似故に接觸も出來ずに居たのです。
僕が自分と似た愚か者を疎ましく思ふ樣に彼女は僕を疎ましく思ふかも知れ無いと思ふと如何しても僕は接觸出來ませんでした。
まことゝゝゝまことゝゝゝまことゝゝゝまこと…眞、誠、信、愼、實…其ればかりが日記に在って…。
眞實って何處に在るのでしたつけ?誠實さは何を産み出せるのでしたか?信じると決めた其の心が頑ななものに變化してしまふのは當然の成り行きなのですか?
彼女の選擇と迷ひと決斷の結果。あの結果は僕の結果に成り得るかも知れ無いのです、彼女の經過がさうであった如く。
追ひ詰めて、傷付けて、責めてばかりで…思ひ遣りに缺ける己を知り乍ら素直には爲り切れずに上手く思ひを傳へられ無い。其れが彼女だけだとは僕には決め付けられませぬ。
きつと僕は同じ道を辿り、少しでも距離が離れたら僕は君の所爲だと僕の弱った部分を見せ付けるでせう。
感情は外に出る事無く僕の中で縺れ、其の縺れを解して表に出さうとすればする程僕は感情を表せ無くなり惡循環に陷ります。
戀愛下手な人間ほど想ひが深く、そして想ひを胸に詰まらせた儘腐り易いから。
2002年08月24日(土)
別に避難場所を作り上げてから逃げた彼女を罵る氣は無いよ。
唯、其の避難先が僕にとって酷く大事なものであっただけ。
寶物を幾人かの腕から奪い取り手にした氣分はどんなものだらうか。
酷く乾いた氣分になり虚しさと焦燥を感じては居無いだらうか。
其の氣持ちをうまく自分の中で彼女は消化出來得るだらうか。
衝撃に何とか耐えた今、僕は亦自分より他人を氣遣ふ振りをし始めてゐる。
僕が感じた虚しさと類似した虚しさを抱える結果を選んだ彼女を心配する振りをして、一番僕が考へて居るのはどうせ自分の事なんだ。
2002年08月15日(木)
晝過ぎに少年のサイトを見て紅く染め變へられた蝶が何を示すのか考へて居ました。
詩を讀んで、掲示板を見て、矢張り今も僕は書き込む勇氣が無い事實を目の當たりにして固まって居ました。
夜更けに僕が信じ掛けてる人から僕が信じてゐたコの状態を聞きました。
そのコのその現状もそのコと少年との關係も僕は薄々判ってゐた筈なのに衝撃を受けました。
信じるって何を?誰を?如何?
僕と彼女は本當によく似てゐたのですよ。ですから類似を訂正し無くて可かったのです。
僕と彼女は本當に共通點が多かったのですから。
2002年08月14日(水)
三年前の秋、君がああ云つてくれたから僕は無理矢理自分の氣持ちを引き剥がして君から顏を背けられたのです。
君が、其の時の僕の有り餘る自尊心と利己心を知り盡くした君が、僕の弱點を突いてくれたから僕は自分を押し止める事が出來たんです。
今更「あれはお前の爲だつた」なんて言葉の意味を細かく解説し無くて好いよ。
僕は言葉を發した意味も君の意圖も何もかも讀取つた上で君に感謝しながら距離を置かうとしたのだから。其の感謝の氣持ちを嫌惡に塗り替へる樣な事を今更し無いでくれ。
君の事が好きでした。君の心以外の部分が好きでした。
君に會ふ度僕は僕自身を擦り減らして、自分が君を好きである理由と向き合つてました。
お盆には實家には歸ります。
でも、君には會ひませぬ。
2002年08月09日(金)