思考過多の記録
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2005年10月08日(土) 蔑まれるべき者の天下

 村上ファンドの村上世彰氏という人物を、僕はよく知らない。今年の前半に世間を騒がせた例のニッポン放送の問題で、ホリエモンの陰で暗躍した人物として名前が挙がっていた。そのとき、どこかのニュースで記者会見だか講演会だかの模様が放映されていて、その横柄で明らかに態度が悪い応対の仕方に、うっすらと嫌悪感を覚えた。
 その後、ホリエモンの方は例の刺客騒動に至るまでメディアに露出し続け、これまた年齢の割に横柄な態度と物言いに、こちらはあからさまに嫌悪感を覚えたものである。彼が目の前にいたら、間違いなく「そこに座れ!」というだろう。



 そして今、村上氏の名前はまたもメディアを賑わしている。阪神の株を買い集め、気が付けば筆頭株主になっていたという、例のあれである。僕は投資という名のマネーゲーム=博打には全く疎いので、村上氏のやり方が巧妙だったというくらいのことしか分からない。ああいう手法はビジネス的には「あり」なのか「邪道」なのか正しい判断は出来ない。そもそも資本主義の市場というのは「金を持っていれば何でもあり」だから、村上氏の行動は責められないというのが「妥当な」判断なのか、そうはいっても市場には一定のルールがあるべきもので、その点で言えば村上氏の行動は非難に値するというのが妥当なのか、経済の世界に棲息する人々の間の「常識」がどちらなのか、正直僕には分からないのである。
 だけど、僕達普通に「労働力」を一定時間提供して、その対価として賃金をもらって生活している(勿論、自営業者でも第1次産業従事者でも基本的には同じことだ)人間にとって、村上氏やホリエモンのような考え方と行動は何か胡散臭いものとして忌避されるべきものであろう。何か具体的に額に汗して「労働」をするわけでもなく、大金を右から左へ動かして一儲けなどというのは、まっとうな職業、いや、まっとうな生き方である筈もない。本来ならば、お天道様の下を我々と並んで大手を振って歩くことすら許されない、そんな惨めな存在なのである。



 ところが、今や彼等はスーパースターだ。額に汗して働く人々の間にも、彼等を賞賛し、羨望の眼差しを向ける人が少なくない。特にホリエモンなどは、中学生にも「ホリエモンみたいになりたい」と言わしめる程である。先の総選挙でも、亀井静香氏への刺客として立候補した彼に投票した人は相当数に上った。
 しかし、村上氏や堀江氏の発言をよくよく聞いてみると、彼等が考えているのは株主=出資者の利益であり、従業員や一般の国民(庶民=労働者)のそれではない。彼等が求めているのは、限りなくフリーハンドの状態での「競争」ができる社会であり、それによって得られた利益を、自分と自分の会社、そして出資者である株主の懐に「還元」できる仕組みである。勿論、国に収める税金は安ければ安いに越したことはない。そして、そこに組み込まれる我々の階層の人間は、「搾取の対象」としての労働者であり、「金を吸い上げる対象」としての消費者として立ち現れる。何のことはない、「持てる者」の利益を上げるために身を削って「貢献」させられるだけの存在なのである。



 額に汗してまっとうに働く我々は、彼等のような存在によって、稼ぎをピンハネされているのだ。そのことに気付かず、働かなくても金儲けができる「才能」のある人間として、庶民は彼等を羨み、尊敬し、自分達もそうなりたいと願う。そして、自分達が搾取する側に回れる日を夢見て、搾取の仕組みを温存し、また賞賛しさえする。
 我々の階層の人々は、本当のお人好しか、単なる馬鹿である。
 こういう状況が続く限り、村上氏やホリエモンの笑いは止まらない。そして、彼等はこれからも株式市場から浮かび上がった泡銭の札束で人の頬を叩きながら、やりたい放題の「経済活動」を続けるだろう。



 しかし、今一度確認しておくべきである。
 まっとうに働いてまっとうに生活する。人間としてのこの当たり前な生き方を放棄し、金に魂を売った村上・堀江のような輩は、決して尊敬されるような存在ではないのだ。彼等が寄って立つところの経済活動を支えているのは、まさしく我々まっとうに働き、全うに生活する人間なのだ。僕達が働かなくては、投資家の手元に資金が回りはしない。彼等は自分達では何ものも生み出せないのである。
 そして、僕達がまっとうな職業によって稼ぐ金は、彼等の手にする金に比べれば微々たるものだが、彼等が日々手にする大金はどす黒く汚れている。そして、そのことに後ろめたさを感じず、むしろ自分達こそが主役だと思いこめる程、彼等の精神も真っ黒に汚れきっているのである。



 彼等のような職業があること自体を、僕は否定しない。しかし、僕はそんな職業を選んだ彼等を侮蔑する。
 不労所得者、蔑まれるべき存在。
 しかし彼等は、金の力で世の中を逆さまにしてしまった。
 基本的には金のこと、そして自分自身の利益しか考えない彼等に、多くの人々は自分達の現在と未来を委ねようとしている。


hajime |MAILHomePage

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