日記...マママ

 

 

「長い散歩」 - 2009年10月28日(水)

奥田瑛二監督の映画「長い散歩」をテレビで見ているうちに頭ががんがんしてきた。女の子と緒方拳との間に交わされる、切なくも心温まるやりとりもベタでとてもよいのだけど、彼らに同行する「ワタル」という青年の行く末がわたしに頭痛を起こした。

というのは、今日ちょうどわたしは、帰国子女の英語ペラペーラな男の子が突然「教室をやめる」と言い出し、引き留めるための面談をしてきたところだったのだけど、この「ワタル」という青年を見ていてなんだかやけにその生徒とイメージが重なるなあ、どうしてなんだろう、と思っていたらワタルも帰国子女だった。

どこか飄々としていてマイペースなのだけど物事の本質をさくっと見抜く眼力の鋭さなんかがそっくりなのだ。

今日は、本人の帰宅を待って夜に面談の時間を約束させていただいたのだけど、来たのはお母さんだけだった。
ふたりで考えた結果「本人の意思次第」という至極妥当な結論に至り、本人と話をさせてください、ということで、お母さんには一旦帰っていただいてすぐにおうちに電話をした。

「精神的に疲れました」と彼は弱々しく言った。
学校生活で手一杯で気持ちの余裕がない、とのことだった。

量的にも質的にも負担を減らすよう配慮する、とわたしは伝えた。
辞めてしまえばそれでおしまいで、今まで蓄積された努力の成果も、辞めてしまえば徐々に失われてしまう。それよりは低空飛行でも続けておくべきで、そうすればいつかまた調子が戻るときが来る、と。
それでも彼の気持ちは変わらなかった。

遅すぎたのだ、と思った。
彼にとって、わたしは何でも気兼ねなく相談できる相手ではなかったのだと知り、寂しい気持ちになった。

で、そんな気持ちで映画の中の「ワタル」を見ていて、寂しかったのは彼のほうだったのだろうな、と思った。
「ワタル」の姿を通して、初めて彼の気持ちに少し近づけた気がした。

わたしは彼にとても期待をしていた。
こんなに優秀な子は見たことがない、と思った。
小学生のころの彼は、確かにその気持ちに応えて楽しく教室に来てくれていたと思う。
変わったのは中学生になってからだ。
どうしたのだろう、とは思っていた。
何度も彼の努力を労い、気遣うことばをかけた。
彼は笑顔を作って「大丈夫です」と答えていた。
そのたびに彼を少しずつ追い詰めていたのだ、ということが、今日わかった。
彼の子どもらしさ、彼の人間性、ありのままの感情、そういうものを脇に置いて、ただ努力し続けることを当然のごとく求め続けていたのだとわかった。
わたしと彼との、保護者と被保護者としての信頼関係は、もうほとんど破綻しかけていたのだ。
こんなに悲しいことってないよね、と思った。
「大丈夫です」の裏にある本音を引き出すことができるのは、わたししかいないはずだった。
それをしなかったのだ。

何が「指導者」だ、と思った。
自分が中学生のころ、わたしは周囲の大人に本音を言うことができなかった。
優等生だったからだ。
もちろんそれが普通にできる優等生だってたくさんいる。
でもわたしは、突然降って湧いた「優等生」という立場から身動きが取れなくなってしまったのだ。

そういう経験をしているのに、どうしてそのときの教訓を活かさなかったのだ。
こんなに大切なことすらわからなくなってしまっていたなんて、なんてひどい大人だろう。
わたしは、成績が良くても悪くても、等しくわたしを愛してくれる大人を求めていた。当時、周りの大人はきっとそれをしてくれていたのだろう。でもその愛情がまっすぐにわたしに伝わることは少なかった。わたしは、わたしが成績優秀だからかわいがられるのだ、そうでなければかわいがられる価値はないのだと思っていた。

彼が同じことを感じているかどうかはわからない。
でも少なくともわたしは、そうやって「条件付きで」彼に愛情を注ぐ存在になっていた。

「ワタル」は孤独を乗り越えることができず、拳銃で自殺をする。
まあ焚き火を囲んで自己紹介するシーンあたりで「ああ、これは死ぬ設定だな、それもたぶん自殺」というのはばればれだったのだけど、映画のつくりの陳腐さを笑ってごまかそうとしたら涙が出て来てしまって困った。
ちょっと前までわたしもこの「ワタル」だったはずなのに、今のわたしはなんなんだ。アホか。ていうかアホだよマジで。

彼が「道半ばで辞める」という選択肢を取らざるを得なかった原因はわたしにあると思っている。
わたしには、彼が、もともと持っている前向きな気概をこれからの生活で徐々に取り戻してくれることを願うことしかできない。
後悔で涙が止まらない。
ほんと、自分の馬鹿さ加減に腹が立つというか呆れるというか、もう我ながらかける言葉も見つからない。
こんな大人に、今までついてきてくれてありがとう。
ごめん。


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