J (ジェイ)  (恋愛物語)

     Jean-Jacques Azur   
   2006年02月12日(日)    時の流れがレイとの記憶をセピア色に変えるまで、

J (3.秘密の恋愛)

12. 夏の海 (5)


・・何故なのか。
当時の私にはわかりませんでした。
今思えば、それは未練だったのかもしれません。

この盆休みを明ければ、レイは会社を辞める。
決まっているこの事実は覆ることはないのだろうけれども、
しかしそれを望んでいない私の深層の心が私を動かして、
私の行き先を決めていたのでしょう。

もしかしたらレイにひと目逢えるかもしれない。
偶然を装って行き会うかもしれない。

行き会って、、どうする?
どうにもなりません。

どうにもならないのに、、。
私はレイに近い海を向かったのです。

この行動は私の深層の心にある未練が私を動かした、としか、
当時を振り返り私は言いようがないのです。


・・純朴に私を信じ愛してくれている友美さん。
その友美さんを前にして後ろめたい思いをする私。
レイを忘れなければならないのは百も承知でわかってた。

だがそれはすべて私の心のうちの問題だったのです。
時の流れがレイとの記憶をセピア色に変えるまで、
私は記憶の海を行ったり来たりして仕方ないでしょう。

誰に知らすこともなく。
・・誰に知られることもなく、。

辛かろうが苦しかろうが、
私はひとり記憶の海に漂うよりなかったのです。。

・・

景色は見たことのある防砂林に変る。
このあたりの角を折れればレイの実家がある。
どこかに目印のタバコ屋さんがあったはずだな。(参照こちら

・・でもそこで曲がるわけにはいかないよ。
私は海水浴場の案内を見つけ、それに従い海へと向かう。

海に近づくほどに道路は混んできました。


   2006年02月11日(土)    友美さんは普通に聞いているだけ。

J (3.秘密の恋愛)

12. 夏の海 (4)


「・・うん、そうだね、。」
私はレイの名を聞いて一瞬ドキリとしましたが、
言葉を探して、とりあえず肯定だけしました。

友美さんは普通に聞いただけ。
夫の会社の部下について普通に話題にしただけ。
私とレイの間には上司と部下の関係以外何もないのですから。

「レイちゃん、新盆で大変でしょうね。」
友美さんは話を続ける。

「・・うん、そうだね、。でも、お姉さんもいるし、。」
「あら、そうだったかしら、。」
「うん、結婚されてて、お葬式ん時会ったのだけれど、、
 人のよい旦那さんだったよ、。」(参照こちら
「ふーん、、。」

私はレイの母の葬式の時の様子を交えながら、
友美さんにレイの家族のあらましを話す。

「・・レイちゃんには、彼氏はいるのよね?」
「・・いるみたいだよ。」
「どんなひと?」
「・・知らないよ、。」

友美さんは普通に聞いているだけ。
もと自分が働いていた会社の後輩の話を普通に聞きたいだけ。
レイを知る友美さんにとっては普通に興味を持っただけ。

なのだけど。。
この話題は私には辛い。

辛いし・・。
後ろめたい。

後ろめたい?
だいたい、なんで俺は、!
レイの実家に近い海に向かっているんだよ?


   2006年02月08日(水)    レイちゃんの実家の方よね、○×海岸って、、?

J (3.秘密の恋愛)

12. 夏の海 (3)


7月の半ば、つい一ヶ月も満たない前のあの夜に、
レイの母親は亡くなったのでした。(参照こちら
その夜、私はレイを乗せ高速を飛ばして、
このインターで降りた。(参照こちら

あれからたった一ヶ月も満たない間に、
なんといろいろなことがあったことだろう。
レイの母の死、お葬式、これからのこと、。
そして、一千年の夢一夜。。

私は自分では意識していなかったのですが、
頭の中ではその間の出来事を思い巡らしながら、
運転をしていたのです。

「どこの海?・・アハ、ユキが砂で遊べるように、せっかくだから、
 砂浜のきれいな海がいいかな、って思ってね、。」と私。
「ふうん、初めてゆくとこ?」と友美さん。
「○×海岸、、行ったことなかったっけ?」
「○×海岸!ああ、あそこね、知ってるわ。うん、きれいな砂浜よね。
 ユキ、○×海岸だってよ〜、楽しみね♪」

友美さんはそう言ってユキに語り掛ける。
ユキはよく分からないであろうにもかかわらず、
「まるばちゅかいがん〜、いぇーい!」と、
うれしそうに奇声をあげる。

私は、ふふっ、と笑みを浮かべ、
バックミラー越しにふたりの顔を見て、
「いいだろ〜?」と語りかける。

友美さんはうんうんと笑みながら頷いて。。
ふと気がついたように私に聞く。

「そう言えば・・レイちゃんの実家の方よね、○×海岸って、、?」


   2006年02月07日(火)    そう、私には家族がある。

J (3.秘密の恋愛)

12. 夏の海 (2)


「純一さん、おにぎりの具、シャケとたらこでいいかしら。」
「暑いから生のたらこは心配だな、焼いたほうがいいよ。」
「そうね、あと、おかずは何がいいい?」
「やっぱさ、海、って言ったらラーメンだからさ、
 あとでラーメンも食べたいから、、簡単なものでいいよ。」

友美さんは、そうね、と言っていたのに、
当日の朝は4時前から起きてたっぷりのお弁当を作るのでした。
娘のユキと3人、団欒のひと時を楽しみにして。

2歳になるユキもまだ見ぬ海に小さな胸をときめかせ、
興奮してかやたら早起きをし、
言葉もまだうまく話さないのに盛んにはしゃぎました。

そう、私には家族がある。
唯一無二の掛け替えのない大切な家族がある。
そしてその家族にとって私は、
なくてはならない存在なのでした。


荷物を積み込んで。
ハンドルを握り高速に乗る私。
少し早めに出たせいか、思ったより空いている。

後部座席に乗る友美さんはユキを抱き、
海の歌など歌ってやって、
車中は行楽気分で楽しげな雰囲気に溢れてる。

車は高速をまっすぐに東に進み、
あるところで車線を変え高速を降りました。

あれ?という表情で友美さんが聞く。
「どこの海に行くの?」

私はふと急に、ハンドルを切ったのです。

この道はあの夜通った道。
でした。。(参照こちら


   2006年02月06日(月)    12. 夏の海

J (3.秘密の恋愛)

12. 夏の海 (1)


そしてすぐに盆休みになりました。

母が亡くなったばかりのレイは実家で新盆を迎える。(参照こちら
その際に会社を辞める話を父親とすることになっている。
これからのことはもう決まっているのだ。(参照こちら
さぞお父さんも安心されることだろう。

ふたりが一夜の夢を見たその夜(参照こちら)以来、
レイと私は一切その話はしていまませんでした。
ただひと言、休みに入る前日に、レイは私にぺこりと頭を下げ、
「いろいろとありがとうございました。」
と少し神妙な顔をして挨拶をし、
私は、ん、っと微笑んで、
「お父さんによろしくね。」と声を掛け、
それだけでした。

盆休みがあければ、
正式に上にも話さなくてはならないけれども、
今はまだ誰にも知らせていない、レイの退職。
盆休み前には、私の胸にのみ留めて、
会社は休みに入ったのでした。

私はと言えば、家族を伴い短い旅行を計画していましたが、
その前に私と友美さんの親元に、
義理を果たしに出かける用もありました。

休みに入ると私は、その日から忙しく動くのでした。

・・

妻の友美さんの実家は海沿いの街にありました。(参照こちら
ただまっすぐ車で行けば約2時間ほどの距離。

しかし、。少ない盆休みです。
ただまっすぐに行くのも芸がない。
少しでも夏を楽しみたい、そう思った私はその日、
海水浴をしてから友美さんの実家に行くことにしました。

友美さんは快くそれを了解してくれました、、。


   2006年02月05日(日)    これで一夜の夢は終わったのです。

J (3.秘密の恋愛)

11. 一夜の夢 (43)


私はもう一度、。
もう一度だけ、レイと交わりたかったよ・・。
レイとひとつに結ばれたかったよ・・。

これでもう、。
終わりなんだもの・・。
もう一度、夢を見たかったよ・・。

だけど、!
だけど、
それは、できなかったよ・・。


(・・いや、なんでもない、、シャワー浴びてきて。。)
(・・うん。。)

レイは素裸のまま起き上がり、
私に眩しい裸体を見せて恥ずかしそうにちょこっと笑み、
脱ぎ捨てられていた自分の下着を拾い身を隠しました。

そして、私の下着も拾い、
ベットの上に置いてくれてから、
バスルームへと消えました。

私はその一部始終をだまってみていました。
もう二度と見ることはないであろう、
レイの肢体をこの目に焼きつけようとして。

これで一夜の夢は終わったのです。
これから私とレイは来た道を別々に戻って離れてゆく。
遠く一千年の彼方にまで。
私にはそう感じられていました。。

・・

数時間後。
私は喫茶店で時間を潰してから会社に出社しました。
レイは一度自分のアパートに戻り着替えて、
先に出社していました。

「おはようございます。工藤さん。」
「や、おはよう、レイちゃん、、。」

レイはにこやかにいつもながらのレイでした。
私はと言えば、ちょっぴり、照れたようになりましたが、
普段と変らぬレイに寂しくも思いながら、
努めて普通に振舞いました。

何一つ変らない、レイと私なのです。
これからも、これまでも、何一つ変らない上司と部下。

夢は一夜にして終わったのだ。
もう私とレイが愛を語り合うことはない。
まして交わることなどないのだ。

そしてレイは会社を辞める。

それだけのことなのだ。。


(11. 一夜の夢、の項 終わり)


   2006年02月04日(土)    深く長く口付けたのち、、レイは私に尋ねる。不安げな顔をして。

J (3.秘密の恋愛)

11. 一夜の夢 (42)


突然に唇を重ねる私。
レイは唇を薄く開き応える。
昨夜の余韻のままにとろりとしたキス。

“私自身”の望みを知り、
レイの身体全体がにわかに火照る。
一度覚えた身体の記憶は二度と忘れない。
互いが求め合うように呼応して熱してゆく。

“レイ”は熟れ、“私”は猛る。
再び天上の世界へと私たちの魂は向かう。。

けれども、、。

だめだ、
一夜の夢は終わったのだ。
私たちの“意識”は現実を離れない。


深く長く口付けたのち、、
レイは私に尋ねる。
不安げな顔をして。

(・・くどうさん、、今、何時?)
(・・もう、5時近くなる、、)

レイは、そう、と頷いて。

(・・くどうさん、・・大丈夫?)
(・・何が?)

(・・おうち。。)
(・・大丈夫だよ。)

レイはまた、そう、と頷いて。

(・・でも、もう起きなくちゃね。)
(・・う、うん。。)

レイは起き上がろうとする。
私の腕の中からレイがでてゆく。
私はとてもさびしくなって・・。

(・・待って、レイちゃん・・。)
(・・?)


   2006年02月03日(金)    抱きたい!だが、だめだ!一夜の夢は終わったのだ・・・!

J (3.秘密の恋愛)

11. 一夜の夢 (41)


私はレイをみつめる。
すやすやと私の腕の中で眠っている。
私に身を預け安心しきっている表情がわかる。

(・・レイ・・)

みつめていると堪らなく愛しい気持ちになる。
愛しくて愛しくて愛しくて・・

・・ああ、だめだ!
昨夜の余韻が身体中に残っている。
君をみつめているだけで、もう、俺は・・!

(私の“私自身”がむくり起き上がる!)

夢でなく現実にレイ、
君を俺のものにしたい・・
もう一度、確かめるように君と交わりたい・・


抱きたい!

だが、だめだ!

一夜の夢は終わったのだ・・・!


ああ、だけど、、
だけど!
裸の君を抱いていて“俺”は我慢できないよ。。

堪えかねてぎゅうっときつく抱きしめる私。
目を覚ますレイ。

(くどうさん・・?)
(・・レイ、、ちゃん、!)


   2006年02月02日(木)    ふっと目を覚ますと私の腕の中には生まれたままの姿のレイ。

J (3.秘密の恋愛)

11. 一夜の夢 (40)


そう・・
これは夢。
一千年の一夜の夢。
愛し合う男女がひとつ溶け合って見る至上の夢。

これが夢ならば私はこのまま眠ってしまいたい。
永久に眠ってしまっても私は構わない。
こうしてレイとひとつに夢のまま、
私はこのまま眠りたい。


そして・・
私は本当にそのまま眠ってしまいました。

レイの中で果てた私は夢をみたまま、
本当に眠ってしまったのです。

レイに包まれ安らかに。。

・・

数時間眠ったのだろうか。
ふっと私は目を覚ます。
私の腕の中には生まれたままの姿のレイ。

幻か夢か。
白桃のような豊かな乳房も露わに、
すやすやとレイは寝息を立てている。

薄明かりの中、
目を凝らして時計を見る私。

午前4時を過ぎている。

・・私まざまざと昨夜の出来事を思い出す。


俺は、、。
・・抱いたのだ、、。

俺は、、。
・・レイの中で果てたのだ、、。

果てた?
・・なんてことを!

俺は、、!
・・なんてことをしたんだ・・!

しかし、、夢?
・・夢なのか?

すべては、、。
・・夢だったのか?

だが、、。
・・現実に今俺の腕の中には、、。レイがいる。。


(・・レイちゃん・・)


   2006年02月01日(水)    私たちは絶頂を迎え、天上の世界へと昇りつめた。

J (3.秘密の恋愛)

11. 一夜の夢 (39)


レイの体内から大量の蜜液が、
熱く熱したマグマのように溢れでる。

突然と“私たち”が動き始める。

一気に頂点まで登りつめる様に、激しく!


身も心も溶けるような快感。

もだえあえぐレイ。

悦楽の極みに達して。

頭が真っ白になる私。



あ。

ああっ ・・



・・ソノシュンカン。

私の身体から魂が抜け出ました。
レイの身体から抜け出たレイの魂とともに、
私の魂は天に昇った。

私たちは絶頂を迎え、
私たちの魂は身体を離れて至福の境地、
天上の世界へと昇りつめた。

きらきらとまばゆい光が降り注ぎ、
私とレイの魂はひとつに融合した。

意識を超えた夢中にあって、
私は安らかなる開放感に包まれる。

私は、、
果てました。

そこで果てたのです。。


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