J (ジェイ)  (恋愛物語)

     Jean-Jacques Azur   
   2003年09月28日(日)    オレはそんな下心があってレイを出張に出すんじゃないぞ!

J (3.秘密の恋愛)

1. 総合職 (16)


今思い出せばそれは羞恥心であったのでしょう。
オレの心の奥底には何かそういう下心があった、の、か。

堂々たる人生を歩むことがモットーの私にとって、
こうした下心は忌み嫌うものでありました。
真っ直ぐに、人に後ろ指を差されることなく、常に自分で納得できる、
自分に対して堂々と胸を張れる、青き道を歩む、
これが私の信条であり、私の生きる指針でありました。

そうした私にとってこうした猜疑の目に晒される事は本意ではなかった。
だから、カッと頭に血が上った。
何だと!と思った。


、、、しかし、
やはりそれは自分では認めたくないことを指摘されたために起きた羞恥心であった、
そのように思われてならない、今は、ですが。


・・


「お言葉ですが。専務。それは私の品格を疑っての問いかけですか?」

私は感情を抑えつつ、けれど厳しい口調で聞き返しました。

私の険しい表情に専務は語気を荒げて言い放つ。
「君、私に意見する気か、おい、」

ぐっと私は専務を睨み、専務は何だという目で睨み返す。

部長が咄嗟口を挟む。
「専務、すみません、あとで私がよく言い聞かせます、
 そら、工藤、何故に樋口君が出張に必要なのか、君、説明したまえ。」

営業担当専務がそれに続けて言う。
「早く説明しなさい、君はそのためにここに来たんだからな、」

(いつもながら優しい上司達だ、)


私はすうっと息を吸って熱弁を振るいはじめました。

よくもここまで舌が回るものだと自分でも思うほどに、
最初から最後まで息も切らずにとうとうとレイの出張の意義を説明しました。


オレはそんな下心があってレイを出張に出すんじゃないぞ!

こら、聞け!

こう言う理由なんだ!

私は熱意の塊となって説明しました。


話し終えた後一切の質問もなく、私はその席を後にした。


会議室を出た私は何故か消沈していました。

何故か、、、。



   2003年09月27日(土)    工藤クン、ちょっと生意気過ぎるぞ、

J (3.秘密の恋愛)

1. 総合職 (15)


「樋口さんのような若い子を出張に出すなんてどういう了見なんだね。工藤君。」
「は、、、、」

私が一番心配していた問題にこの経理担当専務はメスを入れる。

この保守的な会社にあってはたとえ総合職といえども、
女子社員の出張はなかなか認められないものでした。
そのため表向き男女の差別がない筈なのにも関わらず、
女性は下に置かれがちでその職分もおのずと制限されていました。



私は正面突破を試みるよりも迂回してこの問題を崩していく腹でした。

まずレイを総合職にする。
それが第一歩。
そして差し迫った必要上から出張を認めて貰う。
既成事実を積み重ねる。
やがてそれが了解事項になる、、、。

、、、今思い起こせば姑息で幼稚な策略です。


そこに経理担当専務はメスを入れた。
それも常務会の席上で、いきなり、私を呼びつけて。

私はシドロモドロになり、言葉に詰まりました。

ちらりと部長の顔を見る。

部長もしかめっ面をしているばかりでした。


困った。


経理担当専務は、ほうれ見ろ、といわんばかりの顔。
工藤クン、ちょっと生意気過ぎるぞ、人事に口出しするなんて10年早いわい、
と顔で言っている。

とつい経理担当専務は口を滑らした。

「君、樋口君を出張に連れて行くのは、君の個人的な好みじゃぁないのかね、」


カッと私の頭に血が上りました。


何だと!



   2003年09月23日(火)    高卒で総合職に就いている者はごく僅かでした。

J (3.秘密の恋愛)

1. 総合職 (14)


私の書いた稟議書は常務会に諮られました。
そこでいくつか質問があり私はその席に呼ばれ答えることになりました。
私は部長の後をついて会議室に入りました。

私の上司の営業部長は仕事においては自分にも部下にも厳しい人でした。
なんとかしよう、なんとかやってやろう、そういう気概がある人でしたので、
やる気のある社員に好かれていました。
私もこの部長にはなんでも相談し、そして部長は常に私を支えてくれました。
私は部長から全面的に信頼を得ていたのです。

レイについて、能力、資質、職務態度等については全く問題はありませんでした。
そのことについては実績が正直に物語っていました。
私はそれらをきちんと数字で表して稟議書に添付しておきました。

人事部長が渋い顔をしたのは、レイの学歴だけでした。
レイは高卒でした。
総合職は大卒以上と取り決めがあるわけではありませんが、
実際に高卒で総合職に就いている者はごく僅かでした。
そのため特に厳しい査定を求められていたようでした。
また彼女は21歳、この先何年勤めるのだ、そんな下世話な問題もありました。


ともかく。
ここを乗り切らないと。

私は気合を決めて、あらん限りの熱意で、あらゆる努力をしたものでした。


ところが。
私が常務会に呼ばれたのはそうしたことについて聞かれるためではなかった、、、のです。
それらについては私の上司、つまり部長の説明で事足りていた。

私が聞かれたこと。
それは出張のこと、だったのです、、、。


・・

経理担当専務が開口一番私に言いました。
(この男、なんにつけ難癖をつける男でした。)

「工藤君、駄目だよ、出張なんて、え?、君、」

「は?」

経理担当専務の目の奥には悪意が見えました、、、。



   2003年09月22日(月)    叩けよさらば開かれん、

J (3.秘密の恋愛)

1. 総合職 (13)


その晩、友美さんに会社の女性社員の人間関係のことを尋ねて見ましたが、
案の定はっきりとは話してはくれませんでした。
何も聞いても「うーん、」と言葉を選びながら当り障りのないことを述べました。
ただそうした友美さんの歯切れの悪い物の言い方から察するに、
レイの危惧するような派閥やイジメ(参照こちら)が起こり得ると想像できました。


確かに。
営業部内にもお局さんと言われる人がいるなぁ。
でもその人とオレは仲が良い。
そんな人をイジメルような人には見えないけれど。

ま、大概表に出ていることの多い営業職のオレには、
日中の社内の人間関係なんて凡そも分ってはいなんだろうが。

いくら考えたってその場に直面しない限りにはなんとも言えないな。
イジメられるのがイヤなので、なんて断わりの理由にはならないだろうに。

、、私はそう結論を出しました。


・・


翌朝、出社したレイに私は聞く。
「よく考えた?」
「はい、でも、」
「でもはもういい、君、僕の言うことを聞け、」
「はい、」
「これも君が入社する際に面接で僕が話したことだが、」(参照こちら
「、、、」
「たった一度の人生なんだから、さ、
 自分が望まない道に流されるように進まないこと。」
「、、、はい。」
「もし、イヤだな〜、と思ったら、はっきりそういうこと。」
「、、、はい。」

「どうだ、イヤか。」
「、、、」
「イヤではない、だけど、不安、ということだろ、」
「、、、ええ、」
「じゃぁ、オレに聞けよ、どうしたらいいか、」

レイはにっこりしました。
そして、
「工藤さん、私、どうしたらいい?」と聞きました。

ふふ、いつものレイにもどったな。

私は笑みを浮かべこう答えました。
「前に進め、だ、よ。叩けよさらば開かれん、だ、」

レイは吹っ切れたようにニコッとしました。
そして、
「はい、叩けよさらば開かれん、ですね、了解です、」
と言いました。


さあ、稟議書とやらを書くか。



   2003年09月20日(土)    そうだ、オレはレイとの約束を果たすんだ、

J (3.秘密の恋愛)

1. 総合職 (12)


「僕は君を3年でものにする、と言ったはずだ、」(参照こちら
「、、、」
レイは黙って聞いている。

「ちょうど丸3年、経った、」
「、、、」
レイは下を向いている。

「と言うことだ、」
私はそう言い切って、話を仕舞いにした。

私の心に言い聞かせるように。


そうだ、オレはレイとの約束を果たすんだ、
シナリオはこういうことだったんだ、
これで、いいんだ、、、


少し間を置いて、
「でも、まあ、来年まではアシスタントを兼務してもらうよ、
 君の後任の社員が入ってこないと僕も困ってしまうからね、」
と私は付け加えました。

それを聞きレイは幾分ホッとした表情になりました、が、無言でした。


「話は以上だけど、何か他にあるかい?」

レイは首を少し傾けてから、やっと口を開きました。
「いえ、ないです、、、けど、」
「けど?」

「、、、いえ、いいんです、、、でも、」
「でも?」

「、、、」

レイは再び無言になる。

「まあいい、一晩考えてみるか、僕も友美さんにさっきの話を聞いてみるよ、」

レイは下を向き、コクリと頭を下げました。



   2003年09月19日(金)    「やです。」とレイ。

J (3.秘密の恋愛)

1. 総合職 (11)


「総合職になると何でもひとりでやらなくっちゃいけないんですよね。営業も。」
「うん、基本的にはそういうことになる。」と私は答える。
「やです。」とレイ。
「や?、なんだ、や、っていうのは、嫌だ、っていうことかい?」と私。
「はい、」とレイ。

、、、なんだなんだ、レイの奴、何言っているんだよ。
こんなにいい話なのに。


「何が嫌なんだ、これまでと変わりないじゃないか。」
「変わります。今までは工藤さんの下でくっついていればよかったのよ、
 これからは、そうもいかなくなるんじゃないですか、」
「いや、立場上は今まで通りだよ、君は僕の下にいる、」
「違うわ、今まではアシスタント、これからは部下、じゃないんですか、」

、、、うん、そういうことだな。
総合職になってアシスタントってわけにはいくまいか。


「そういうことになる、か。いいじゃないか、それで。」
「それで、って、、、。」レイは私の顔を見る。

少しの間を置いて、
「それでいい。」
と私は突っぱねるように言いました。



その時、ツっと私の心が痛みました。

ああ、これで私とレイの二人三脚は終わるんだ、、、。

長いようで短かった3年間、、、。



   2003年09月18日(木)    工藤さんは分かっていなんです、

J (3.秘密の恋愛)

1. 総合職 (10)


会議室に入り向き合って腰掛ける。
いつもの光景だ。
私は右手をテーブルに置き左手でタバコを咥える。
レイは背筋をしゃんとして私の言葉を待つ。

「レイちゃん、前からたまに言っていたことなんだけどね、
 君に総合職になってもらおうっていう話さ、部長に相談したよ、正式にね、」

レイはきょとんとした顔をして「へ?」と素っ頓狂な声。

「へ、じゃない、はい、だ、まったく。」
「はい、すみません。」

一呼吸おいて。

「でね、君の意思をキチンと確認してから僕は稟議書を書くことになった。」
「はい。」
「いいね?」
「へ?」とまた素っ頓狂なレイの声。
「へ、じゃない、はい、だ、それとも何か不服でも。」
「、、、あ、はい、、、。」

しばしレイは考えている。

なんだ、レイは何を考えているのだ、こんないい話なのに。

「何だい、忌憚なく言って、僕と君だけの話として聞くから、ね、」


しばらくしてぼそっとレイは言う。
「自信、ないです、」

「んー、それは大丈夫、君はしっかり仕事ができている、他の誰よりも。
 そうみんなが認めているよ、今のままで十分、自信を持っていいよ、」

「そういうことじゃないんです、私だけ特別にそうなることが自信ないんです、
 社内には事務職の先輩社員の方がたくさんいます、有能な方ばかりです、
 そういう人たちがいるのに、私だけ、っていうのも、」

「ああ、確かに、だけど、君のように表に出て仕事ができる人はいないよ、
 そしてほとんどの人が定時に帰っちゃうじゃないか、
 君はいつも僕たちと同じ時間まで同等に仕事をこなしている、」

「工藤さんは分かっていなんです、女子社員って結構派閥があったりイジメがあったり、
 友美さんに聞いてみてください、私が言っていることがどういうことなのか、」


(友美さんにね、だけど彼女は敵を作らない人だ、
 聞いても分からない話のようだけれど、、、)


「つまり、君が特別職になるとイジメにあうと、」
「、、、言えないです、そんなこと、」
「うーん、ま、その件はちょっと考えるよ、友美さんにも聞いてみる、その他には?」


レイはまた少し考え、口を開きました。



   2003年09月17日(水)    レイは私にタメ口を利くことすらありました。

J (3.秘密の恋愛)

1. 総合職 (9)


「レイちゃん、話がある、」

私はレイをつかまえてさっそく話すことにしました。
これはいい話だ、すぐに伝えて意思の確認をしたほうがいい。
そう思ったのです。

レイはいつもの調子で、「はい、なんでしょう、」とにこやかに返事をしました。

「あー、ここでは何だ、ちょっと会議室へ行こう、」
「あ、はい、」怪訝そうな顔をするレイ。
「なに心配するな、いい話だ、」
「何か持っていったほうがいいですか?」
「いや、何も必要ない、話だけだから、」

会議室へふたりきり、よく打ち合わせで使うのでとりたてて珍しいことではありません。
書類を作るためにレイと私は何時間もふたりきりでこの会議室に篭ることもありました。


3年のうちにレイは成長しました。
入社当時のレイと違い、営業部の雰囲気にも慣れ、
物怖じすることもなく自分の意見も言うようになり、
表に出て人に接することにより社交的に振舞うことも覚え、
仕事を自分のものとできたことから自信も持ち、
なんでも進んでことに当たる有能な社員に育っていました。

ただし。
私の前だけでは相変わらず、入社当時のレイでした。
私の一挙手一投足を注視し、私が次に何を考え何をするかを必死で捉え、
私の指示には従順に従う私のアシスタントとしてのレイでした。

とはいえ、堅苦しい関係では決してありませんでした。
確かに入社当時は年齢的な開きもありましたし、
上司と部下です、話す言葉は敬語が主だっていたものです。

それが3年間毎日一緒に仕事をしているうちに、
そうした上下関係はふたりの間に薄れていきました。
立場は上司と部下、仕事中はパートナー、そんな感じです。

レイは私にタメ口を利くことすらありました。
もちろん冗談めいた時にです。
ふたり以外の第3者がいる場合はキチンと礼節をわきまえていました。


そうしたレイは私にとって気安い存在でもありました。

どこまでも私に敬語を使う私の妻の友美さんにはない気安さ。



、、、だからと言ってどうということはないのですが。



   2003年09月16日(火)    当のレイちゃんは何て言っているんだ、

J (3.秘密の恋愛)

1. 総合職 (8)


部長は私の心のうちを知っていました。
私がレイを総合職に職分を変えさせたいと考えていること。
そして今回それを実現させようと心して出張の相談をしていること。

部長が私の心を読むように言いました。
「今回だけ、っていう、その特別な計らいじゃ、納得せんのだろ?」

私は口元だけニヤリとし、目は厳しい目のまま、
「当然です、このイベントは年4回あるのです、
 それ以外にもこの種の出張は常日頃からあります、
 今回に限ったことでは有りません、
 私は樋口さんを総合職に抜擢したいのです、」
と返答しました。

「、、、うむ、分った、」
「、、、ではご了解いただけるのですね。」
「バカ、俺が決裁できることではない、人事部長に相談してやる、
 最終的には社長決裁だ、君も最後まで自分の意思を通すんだぞ。」
「は、はい、」

「、、、そう、まず稟議書を書け、そこからだ、」
「はい、、、、どのように書けば、いいのでしょう?」
「バカ、自分で考えろ、、、、たく、レイちゃんをだな、どうして必要なのか、
 君が今考えていることを社長以下の重役に納得させられるように書くんだ、」
「は、はい、」

・・返事をしながら私は、(でも、一歩進んだぞ、よかった、)と思いました。


部長が続けて言いました。
「ところで、当のレイちゃんは何て言っているんだ、
 彼女の意思は確認しているんだろうな、」
「と申しますと?」
「総合職になる、となると仕事も男と同じにこなさなければならない、
 いや、仕事は彼女はできるからいいとしてもこれまで以上にキツクなるだろう、
 それと、出張だが、遊びに行くわけじゃない、責任も大きい、
 そういうことを彼女に説明して彼女の意思も君と同じくしておかないと、」
「はい、」
「ということだ、ま、レイちゃんとよく相談してから稟議書を書けよ、分ったね、」

「分りました、」


・・


レイの意思。

私はよかれと思って部長と掛け合ってきました。
しかし彼女にキチンとそのことを伝えてはいませんでした。

レイが総合職になること。
実は私は可能性が低いと弱気に考えていたのです。

なので冗談でこそそういうことをほのめかしたことはありましたが、
過度に期待を持たせてもいけないと思い殆ど内密にしていたのでした。



いよいよの段になって、レイの意思はどうか、か、、、。


私は髪の毛をくしゃくしゃっとして天井を仰ぎました。


   2003年09月15日(月)    泊り掛けの出張に彼女を連れて行くのは会社の規定上問題がありました。

J (3.秘密の恋愛)

1. 総合職 (7)


「そうか、大阪ね。うーん、出張か、、、。」
部長は腕組みをして唸りました。

「はい、大きなイベントですし、私ひとりではなんとも、」
「鏑木くんじゃ駄目なのかい?」
「鏑木さんでは無理です、販売もするんですよ。商品知識を持っていて、
 かつ、販売能力がある人間じゃないと。」

「他の営業の者は?、他部署に応援を頼むとか。」
「部長。お言葉ですが、今回のイベントは特別なんです。
 関西圏の市場でどれだけ当社の商品が販売できるか、今回にかかっているのです。
 頭数だけ揃えればいいってもんじゃないのです。」

「うーん、そうか、しかし、会社の規定がな、」
「そこをなんとか、お願いしたいのです。樋口さんの力が必要なんです。
 よろしくお願いいたします。」

私は頭を大きく下げました。
部長は腕組みをしたまま考えている。


6月に大阪で販促のイベントがあり、
私は数名のスタッフを連れて出張することになりました。
そのメンバーに私は樋口レイを加えることを部長に申し入れたのでした。

レイの立場は事務職でした。
泊り掛けの出張に彼女を連れて行くのは会社の規定上問題がありました。
しかし、彼女の商品知識、販売能力は他の営業社員に勝るとも劣らないものでした。
私は今回のイベントには彼女の力がどうしても必要でした。

そしてこれを機会にレイを総合職にしてしまえ、
と私は密かに考えて一歩も引かぬ決意で部長に掛け合っていたのでした。


部長が口を開きました。
「で、他のメンバーは誰と言ったっけね、」
「宮川と安田を連れて行きます、矢崎もと考えたのですが、あいにく彼は別の出張です、
 それで一番商品知識を持っている樋口さんが必要なのです。」(スタッフの参照こちら
「、、、そうか。」
「なんとかなりませんか、いや、なんとかして戴かなければこのイベントは失敗します。」
「、、、。」

部長は目を瞑り再び黙りました。

私もまた部長の次の言葉が出るまで黙って待ちました。



   2003年09月14日(日)    彼女は制服を着なければなりませんでした。

J (3.秘密の恋愛)

1. 総合職 (6)


つまり私には妻があり、レイには彼氏がいる。
そしてそれぞれうまくいっている。
私とレイとの間に恋愛感情が入り込む余地はまったくなかった、のです。


・・

事務職として採用されていたレイの職分は本来は限られたものでした。
それがレイの仕事上の行動に足枷になることがありました。

まず彼女は制服を着なければなりませんでした。
ですから急の外出にはいちいち着替えてからということになりました。

その外出も限られた範囲にしか動くことができませんでした。
あくまでも私の補佐としてしか認められなかった、
言わばお使いみたいなものに限定されていたのです。

しかし、表向きはお使いでも私はレイにお使い以上の仕事を頼みました。
彼女はもともと接客の資質をもっていたようです。
客先にでるとレイはキラキラとその才能が光りました。


それなのにレイの給金は一般の事務職と変わりません。
不平不満は一切彼女は言いませんでしたが、
私は上に立つ者として大いに気を遣ったものでした。


私は何度か部長に相談しレイを総合職として会社に認めてもらうよう尽力しました。


++


第3章はここから始まることになります。

(なんだ、まだ始まっていなかったのか、、、!( ̄▽ ̄;))



   2003年09月13日(土)    レイには付き合っている男性がいました。

J (3.秘密の恋愛)

1. 総合職 (5)


21歳になったレイはすでに大人でした。
もともと大人びた顔立ちで発育のよい豊かな身体つきであったレイ、
社会に出て数年、入社当時のあの幼い面影は消え、
女性としての魅力を醸し出してきた、そんなレイでした。

とは言え、始終一緒にいる私から見ればレイはレイでしたが。


始終一緒にいる私とレイ。

そう、妻である友美さんよりもレイといる時間のほうが長い。
私の一日の大半はレイといる。
レイもまた彼女の一日の大半は私といる。

しかし私とレイはただの上司と部下、それだけの関係。

それだけの関係に過ぎませんでした。



レイには付き合っている男性がいました。
それがどこの誰だかは決して私は聞きませんでしたが、
レイはそういう人がいることを私に伝えてくれていました。

多忙な毎日です。
デートするにもママならぬ毎日です。
レイは何事も仕事を優先してくれました。
が、私はレイのために必ず余裕な時間を取るように心がけました。

レイの彼氏に恨まれても困ったもんですから。


そのレイの彼氏、と言う人物。
それは私の結婚式のあとに知り合ったという人物とは別人です。(参照こちら

あの時知り合った人物とレイは数ヶ月で別れた、と私はそう聞きました。

ただし、レイを女にした人物であったことだけは間違いありませんでしたが。



   2003年09月12日(金)    まるでレイちゃんは工藤の会社での奥さんだな。

J (3.秘密の恋愛)

1. 総合職 (4)


レイは私にとって仕事上のパートナーとしてなくてはならない存在になっていました。
私はレイに対して全面の信頼を置けました。
何も言わずともレイは私の思うように仕事をしてくれました。

レイも私に全面の信頼を寄せてくれていました。
仕事上の問題について全て私に相談をし困った時は私に頼りました。
私とレイは息も気持ちもぴったりとして仕事をしていたのです。


同僚によくヒヤかされたものです。
「まるでレイちゃんは工藤の会社での奥さんだな。」
「工藤はいいな、家じゃ奥さんによくしてもらい、会社じゃレイちゃんによくしてもらい、。」
などとあからさまに。

そう言われても私はなんとも動じませんでしたが。



私のレイへの恋愛感情はもうすっかりなくなっていました。
3年前に封印した恋愛の情は風化していたのです。
私はレイを見ても部下として以外に何も感じませんでした。

レイに恋人があるとかないとか、
レイがプライベートでどこでなにをしていようが、
私にとってまったく興味が沸かない事柄になっていました。

私は仕事をし、仕事上で私はレイを必要とし、
レイは私にとってなくてはならない存在でしたが、
私からみるレイは恋愛とは縁のないものになっていたのです。


レイもまた私に対してはそういう態度で接していました。



上司と部下、それ以上も以下もない、普通の関係。

それが私とレイでした。




   2003年09月11日(木)    彼女はあくまでも事務職として採用されていた。

J (3.秘密の恋愛)

1. 総合職 (3)


仕事の業績は伸び、家庭は落ち着き、私は飛躍の時期にありました。
飛ぶ鳥も落とす勢い、という言葉が当に合いました。
何をやってもうまくいく、人は私に集まり私のために動きました。

私は前だけを見て生きていられたのです。


社内の環境も随分と変わりました。
いや、刻々と変わっていく時期でした。
業績の向上とともにスタッフを増やし、
その度に体制を組替えていました。

私は少数精鋭で纏めていくように心掛けていました。
猫の手を借りたい時でも応援は求めましたが、
専属のスタッフを軽々しく増やすことは望みませんでした。

そのため当初からいるスタッフはプロとして高度な仕事を否応なく求められ、
事業が拡大してゆくにつれその仕事量は膨大に膨れ上がってゆきました。



レイはそうした私の下で着実に仕事を自分のものにしてゆきました。

3年経った今、彼女は私とほぼ同様にすべての仕事をこなせるようになっていました。
ないものはただひとつだけ、彼女の社内的なポジションだけでした。


彼女はあくまでも事務職として採用されていた。

大卒の男性社員より仕事ができたとしても評価は低い。


私はなんとかならぬかとよく部長と相談したものでした。



   2003年09月10日(水)    私と友美さんは普通に夫婦生活を営んでいました。

J (3.秘密の恋愛)

1. 総合職 (2)


仕事が忙しいからといって私は家庭を顧みない、ということではありません。
時間があればその時間はすべて家族のために費やしました。
たまの休日には必ずお弁当をもってどこかへ出かけました。
誰の目からも仲のよい好感の持たれる家族、を私は演出したものです。

それは何より友美さんへの愛情の表現になりました。
友美さんは私の中で生きる、そういう夢を持っていました。(参照こちら

私はいつでも友美さんといられる時は、
友美さんの居心地のいい過ごしやすい世界を作るのです。
すると友美さんは心から喜んでくれる、
そして私はその表情を見ると生きている喜びを感じる、
私と友美さんはそういう夫婦関係が成り立っていたのでした。


長女の雪子は私にとって宝の存在でした。
私は雪子を「ユキ」と呼び可愛がりました。
ユキは普段あまり接しない私にあってもよくなつき、
愛くるしい笑顔は疲れた私の慰みになったものでした。


ユキの出生後、私の友美さんに対する性的能力は復調しました。
もとより、正常な能力を有していた私だったのです。
ただ、妊娠した友美さんに“女性”を感じなくなっていた、
それだけだったのかもしれません。

ですから、
私と友美さんは普通に夫婦生活を営んでいました。


普通に。です。


   2003年09月09日(火)    =3.秘密の恋愛= 1. 総合職

J (3.秘密の恋愛)

1. 総合職 (1)


3年の月日が流れました。

私は33才になりました。

その間私の部署の事業は飛躍的に成長していました。
イタリアのデザイナーと契約、主にアクセサリーの直輸入販売が当たり、
全国の百貨店に展開し次いで衣料品も手がけようかと事業は拡大していきました。

私は営業の責任者として全国の百貨店を回り売り場を拡大、
販売の先端に身を置き直接接客することもしつつ、
年に数度仕入れにも同行しイタリアに出張するといった、
そんな多忙な日々を送るようになっていました。

部下も増え私は課長補佐という立場になっていました。
けれど仕事上の権限は役員に近いものを与えられつつありました。
なぜならその事業は私がなくては成り立たないものになっていたからです。


友美さんとの結婚生活は恙無く良好でした。
もともと家庭的な友美さんは家の一切をきちんとしてくれていました。
ほとんど家にいない私にとってこの上もない出来た妻でした。

当時私は休みなく働いていました。
というより休んでいられなかったのです。
朝早く夜は午前様、もしくは帰らない、月に10日は出張し、
海外出張の時は1週間ほど家を空けました。
まるで母子家庭だね、と笑って友美さんと話していたものです。

それでも友美さんは不平ひとつ言いませんでした。
私は家庭のすべてを友美さんに預け仕事に専念していました。
そんな私を妻として支える、それが彼女の幸せのようでした。
子どもの雪子とふたりしていつも優しい笑顔で私を迎えてくれました。


私は幸せでした。



   2003年09月08日(月)     INTRODUCTION (2) : 参照 : 忘備録

J ( INTRODUCTION 参照 & 忘備録)(2)

   第二章が終わった時点でのINTRODUCTIONです。
   主に第二章でのあらすじに沿ってご紹介いたします。
   第一章が終わった時のINTRODUCTIONも合わせてご覧下さい。(参照 こちら )


1. AUTHOR

   Jean-Jacques Azur

2. CAST

   main+++

   工藤純一:主人公(私)。第二章が終わった時点で30歳。5月生まれ。
         中規模の輸入商社の営業係長。婚約者友美さんと10月に結婚。
         心を寄せていた新入社員のレイへの想いは結婚を機に封印した。
         友美さんの妊娠により一時性的不能におちいるが(参照 1 )、
         新婚旅行の夜酔夢を経て初夜を無事に果たす。(参照 1 2 3 4 5
         しかしその結果か友美さんは切迫流産になってしまう。(参照 1
         翌年4月父の急逝の悲しみの最中、(参照 1)長女雪子が誕生。(参照 1
         第三章の始まる時点では33歳になる。

   樋口レイ:ヒロイン。新入社員。第二章が終わった時点で19歳。3月生まれ。
         工藤純一の部下(アシスタント)。客先の評価も高い。
         身長160cm以上、日本人形のような目鼻立ち。
         豊かな胸、締まったウエスト、均整のとれた体型。
         純一の結婚を契機に髪を染め大人の女性に変貌する。(参照 1 2
         純一の結婚式の前後に彼氏ができたらしい。(参照 1
         結婚後の純一とはただの上司と部下の関係になる。(参照 1 2 3
         第三章が始まる時点では21歳。
         
   友美さん:工藤純一の妻。第二章が終わった時点で22歳。6月生まれ。
         元総務部社員。結婚の為退社。
         優しく柔和な性格(参照 1 )でありながら芯も強い。(参照 1
         中肉中背、普通の日本女性の体型。(参照 1
         純一との結婚式のあと切迫流産になるが翌年無事長女雪子を出産。
         第三章が始まる時点では25歳。

   長谷部健二:友美さんを呼び捨てにする男。(参照 1
         友美さんの幼馴染で小学校(参照 1)及び高校も一緒。(参照 1
         純一はこの男に度々ジェラシーを覚えるが(参照 1)、
         結局真実を友美さんに聞けないままに第二章は終わっている。

   レイの結婚相手:第四章以降に登場。

   sab+++

   杉野佳菜:レイと同期の新入社員。総務部。(参照 1 2

   安田:レイと同期の大卒の新入社員。業務部。(参照 1

   部長:営業部部長。工藤純一の上司。

   矢崎:純一と同期の同じセクションの同僚。同じ年のフィアンセがいる。(参照 1
      (第三章が始まった時点では既に結婚している。)

   鏑木さん:純一の同じセクションの先輩。純一の一回り年上。
          8才年下の奥さんがいる。(参照 1

   宮川:純一の同じセクションの後輩。第二章が終わった時点で25歳。(参照 1

   友美さんのお母様:純一の義母。第二章の時点で47、8才。(参照 1 2
               純一とは相性が悪い。毅然とした女性。

   友美さんの実家:家族。(参照 1)家の様子。(参照 1

   純一の両親:父は第二章の終わりで癌で死亡。(参照 1

   雪子:純一と友美さんの子ども。第三章が始まる時点で2歳。




3. 忘備録

   + 友美さんに対する新しい存在認識

   + 君が結婚する時は僕がよしと言った時だ

   + 私は純一さんの中で生きるの、それでいいの

   + 恋愛に過去は関係ない

   + その時友美さんは私を見ていなかった、レイは見ていた

   + レイは私と目があってすぐにそらした

   + 高校時代の友美さん

   + 目の前にいる愛しい友美さんを信じ愛する

   + 明け方に見た気色の悪い夢

   + 純一が結婚指輪を外した理由

   + 純一が結婚指輪をしない理由

   + 純一と友美さんの新婚生活の様子

   + 父の入院の報せ

   + もってあと3ヶ月

   + 第三章への布石 私はそこにレイの名前を認める




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<作者・Jean-JacquesからのMESSAGE>

私の稚拙な文章をいつもお読み下さいまして有り難うございます。

この日記は私の長年温めてきた恋愛の物語を纏めたいがために、
思うに任せて書き綴っているものであります。

ライコスにて第二章を書き終えてから早1ヶ月が過ぎました。
長らく休筆していて申し訳ありませんでしたが、
その間、構想もまとまり身辺的にも落ち着きを取り戻しました。

明日より、第三章“秘密の恋愛"を書いていこうと思います。

これまで同様、毎日欠かさず書き続ける所存ですので、
是非、これまで通りお読み戴きいただけますとうれしいです。


今日は第三章に入る前に、自分なりに整理をさせていただきました。
今後とも宜しくお願い致します。

                              03/09/08  Jean-Jacques


   2003年09月01日(月)    お詫び


今日再開の予定でしたがもう少し時間が必要のようです。

お詫びしてお知らせします。

よろしくおねがいいたします。


03/09/01 JeanJacques Azur


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+他の作品へのリンク+・『方法的懐疑』(雑文) ・『青空へ続く道』(創作詩的文章)