今年アカデミー賞長編アニメーション部門を征した「ハッピー・フィート」の評価はC-。これなら「カーズ」が受賞すべきだった。あれも些か退屈だけど。
前半は面白い。このアニメの特徴はスピード感だ。それは評価する。しかし後半は駄目、実に馬鹿馬鹿しい。タップを踏むペンギンを助けるために全人類が立ち上がるなんて話はありえない。人はそんなに優しくない。
ヒュー・ジャックマン、ニコール・キッドマン、ロビン・ウイリアムス…声優陣が無駄に豪華だった。そうそう、ブリタニー・マーフィがあんなに唄えるなんて驚いた。これならミュージカル映画もいけそうだ。
「今宵、フィッツジェラルド劇場で」は「M☆A☆S☆H マッシュ」「ザ・プレイヤー」「ゴスフォード・パーク」の奇才、ロバート・アルトマン監督の遺作である。かつての才気迸る傑作群像劇と比較するとこの最終作は緩い。特に天使が登場する必然性なんてまるで感じられない。だが味わい深いというべきか、人生の最終章を迎えた老人が訥々と辞世の句を述べているような、穏やかで心地よい時間がそこにはあった。評価はB-。
筆者が今回最も注目したのは唄うメリル・ストリープである。メリルはまもなく撮影が始まるミュージカル映画「マンマ・ミーア!」で主役のドナを演じることが決まっている。果たして彼女は唄えるのか!?そこでメリルがカントリー歌手を演じた「今宵、フィッツジェラルド劇場で」が試金石となった。結論を言おう。これなら問題ない。決してプロ級という訳にはいかないが、彼女の演技力をもってすれば充分カバーできるだろう。そうだな、「ウォーク・ザ・ライン/君につづく道」のリース・ウィザースプーンなみのレベルには達している。リースはあれでオスカーを獲ったので、メリルにも「マンマ・ミーア!」での三度目の受賞を期待したい。
それにしても「マンマ・ミーア!」には007ことピアーズ・ブロスナンやコリン・ファース(「ブリジット・ジョーンズの日記」「真珠の耳飾の少女」)も出演し、唄を披露するらしい。こちらも愉しみだ。
映画は視覚と聴覚を通して伝えられるメディアである。味覚とか嗅覚を媒介にして訴えることは出来ない。しかし、その至難の業を成し得た稀にみる例が「パフューム」である。評価はB。
パリの市場の悪臭、そして香水の高貴な香り。それら様々な匂いが画面を通して観客にリアルに伝えられる。サイモン・ラトル指揮のベルリン・フィルの担当するサウンドトラックも壮大で美しい。ただし、クライマックスの意表をつく展開はある意味<とんでも>系であり、評価の分かれるところだろう。筆者は受け入れられたが、これに拒否反応を示す人がいるのも肯ける。
2007年04月09日(月) |
スコットランドの黒い王様 |
今回日誌のタイトルは小説The Last King of Scotlandの邦題である。ウガンダの独裁者、イディ・アミン元大統領の主治医を務めていたニコラス・ギャリガンの視点からアミンの人となりが描かれている。
この小説を元にした映画はアカデミー主演男優賞を受賞したわけだが、確かにアミンを演じたフォレスト・ウィテカーが圧巻である。特に地の底から湧き出すような低音の声が凄い。この迫力は吹き替えでは到底味わうことの出来ないものである。子供のように無邪気にはしゃいでいたかと思うと、突然機嫌を損ねて烈火のごとく荒れ狂う。予想もつかないアミンの行動が怖ろしい。ウィテカーは「フォーン・ブース」の警官役等で知っていたが、些か愚鈍な役者という印象を抱いていた。そのイメージを一挙に覆す今回の役作りにはほとほと感心した。
物語としてもなかなか面白かった。特にこの物語の語り部であるギャリガンという主人公は救いようのない駄目人間で、最後は周囲の人々から軽蔑され見捨てられて笑えた。映画の評価はB+。
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