エンターテイメント日誌

2004年10月30日(土) 三谷幸喜セレクション <ギャラクシー・クエスト>

映画「笑の大学」公開を記念して、現役では世界最高のコメディ・ライター、三谷幸喜さんの話題を。

今年の夏、フジテレビの肝煎りで開催された<お台場映画王>において、<三谷幸喜セレクション>というイヴェントがあった。そこで三谷さんが選んだ映画が「私の愛したブルネット」と「サボテン・ブラザース」そして「ギャラクシー・クエスト」である。

筆者は昔からスティーブ・マーティンが大好きなので(特に「オール・オブ・ミー」は最高!)、勿論「サボテン・ブラザース」は観ていた。これは三谷夫人・小林聡美さんもお気に入りで、ある週刊誌の<私が選ぶ一本の映画>というコーナーで「サボテン・ブラザース」を挙げていたのが印象的だった。「踊る大捜査線」に登場する"スリーアミーゴズ"がこの映画からの引用であるというのは、今や常識である。

「私の愛したブルネット」と「ギャラクシー・クエスト」については全く知らなかったので今回「ギャラクシー・クエスト」のDVDをレンタルして観てみた。

観て驚いた!抱腹絶倒の面白さ!!そして最後にはほろりと感動させられる。さすがに2000年度に「マトリックス」や「シックス・センス」を押さえてヒューゴー賞(世界で最も権威のあるSF賞)を受賞しただけのことはある。筆者の評価は謹んでAAを進呈する。

映画には<お助けもの>というジャンルがある。野武士の横暴に苦しむ農民たちが浪人を傭兵として雇う黒澤明監督の「七人の侍」がその代表作である。そして「七人の侍」はハリウッドで「荒野の七人」となった。これらをパロディにして助っ人が実は偽者だったというプロットにしたのが「サボテン・ブラザース」とピクサーのCGアニメ「バグズ・ライフ」である。「ギャラクシー・クエスト」はその延長上にある。しかし「ギャラクシー・クエスト」が独創的なのはそこにSF要素を持ち込んで、同時に「スター・トレック」のパロディとしても成立させてしまったことにある。兎に角、練りに練られた脚本が素晴らしい。

映画は徹頭徹尾コメディなのだが、全編を通奏低音のように貫くのはSFへの無償の愛である。特撮を担当するのも「スター・ウォーズ」のILMだったり、クリーチャー造形がなんと「ターミネーター」「ジュラシック・パーク」のスタン・ウインストンだったりと細部まで一切手を抜くことがない。奴らは本気だ。ハリウッド特撮工房の総力を結集して創り上げたというその姿勢に凄みを感じる。

だからこそ映画のクライマックスでSFオタクのファンたちを集結させ、「君たちは世間に恥じる必要は全くない。今のままで良いんだよ。」というメッセージが高らかに奏でられる瞬間、映画を観る者を未曾有の感動に包むのである。

「エイリアン」のシガニー・ウィーバーや「ハリー・ポッター」のスネイプ先生ことアラン・リックマンが嬉々としてコメディを演じている姿も微笑ましい。

最後に三谷さんの名誉のために述べておくと、フジテレビで放送された三谷さんのドラマ「合い言葉は勇気」も<偽助っ人もの>で「ギャラクシー・クエスト」そっくりなのだが、三谷さんが映画を初めて観たのはドラマ執筆後とのことである。



2004年10月25日(月) 全米でバカ受けしたThe Grudge=ハリウッド版<呪怨>

筆者が初めて清水崇 脚本・監督による東映のオリジナル・ビデオ「呪怨」のことを取り上げて、これがすこぶる面白いと語ったのは2002/8/30の日誌である。実に二年以上前の話だ。

その後「呪怨」は映画になり、「呪怨2」も製作された。それを契機として「死霊のはらわた」「ダークマン」「スパイダーマン」の監督サム・ライミに見いだされ、清水監督はハリウッド版「呪怨」、The Grudgeでこの度遂に全米デビューを果たすこととなった。

主演はサラ・ミッシェル・ゲラーだが、何と舞台は日本のまま。プロデュースを努めたサム・ライミはオリジナルの持ち味を損ないたくないと考え、キャスト全員を日本に送り込んだ。素晴らしい決断である。

だからあの加椰子も猫少年こと俊雄くんも日本版のキャストのまま。想像するにこれは「呪怨3」と言っても良いような構成になっているのではなかろうか?その予告編はこちらで観ることが出来る。

さてThe Grudgeは先週末全米興行成績ランキングで見事初登場第1位を獲得!しかも4000万ドルを売り上げ、2位の「シャーク・テイル」の1430万ドルを大きく引き離した。製作費は1000万ドル以下の低予算映画であり、配給元は「週末の売り上げが2000万ドルまでいけば万々歳だね。」と語っていたくらいだから、これは驚異の大成功であろう。アメリカのBox officeに激震が走った。

日本人が監督した実写映画が全米第一位を獲得するのはこれが初の快挙である。清水監督は正に日本にいながらにしてアメリカン・ドリームを手中に収めたのである。



2004年10月23日(土) 自らの肉体をモンスター化した女優とオスカーの鉄則

これは前回の日誌からの続きである。

「モンスター」の評価はC+である。痛い映画だ。観終わった後残るのはどんよりと重くのし掛かる疲労感だけ。嫌いな映画ではあるが、クリエイター達の気迫がひしひしと伝わってくるし、嫌々ながらも映画の持つ力は認めざるを得ない、そういった心境である。

シャーリーズ・セロンの演技、というよりもむしろその<肉体改造>は圧巻である。今回は製作にも名前を連ね、並々ならぬ意欲・決意が窺われる。「私は奇麗なだけの女じゃないのよ。」という魂の叫びを、筆者はしかと聞き届けた。南アフリカからやって来て、ハリウッドの頂点に登り詰めた女優根性は伊達じゃない。

確かに凄いとは想うのだが、しかしその一方でせっかく天から授かった美貌を犠牲にして、ここまでする必要はないんじゃないかという気もする。「めぐりあう時間たち」で付け鼻をしてオスカーを受賞したニコール・キッドマンの時も想ったのだが、美人女優が本来の美しい姿のままではアカデミー賞を受賞できないというあり方に問題があるのではなかろうか?「ムーラン・ルージュ」のニコールにこそ、オスカーは授与されるべきであった。

レニー・ゼルウィガーにしても、彼女が下品な南部訛を喋ってオスカーを受賞したあの下らない「コールド・マウンテン」なんかよりも、「ザ・エージェント」とか「ブリジット・ジョーンズの日記」「シカゴ」における彼女の方がよっぽどコケティッシュで魅力的である。コメディが過小評価されているのが諸悪の根元なのである。ヒュー・グラントが怒るのも無理はない。(彼はオスカーにノミネートすらされたことがないのでは?)

話は「モンスター」に戻るけれど、セロンが恋に落ちる相手役のクリスティーナ・リッチは自分の胸が大きいことを気に病んで、乳房を小さくする”貧乳”手術を受けているのだが、今でも十分豊満な胸だったので安心した(←なんのこっちゃ!?)。しかしながら肉体改造したセロンの醜いぶよぶよヌードは拝めたが、リッチの方は今回もガードが堅く、サービス・ショットがなかったので残念。「私は胸だけの女優じゃないのよ。」ということなのだろう。

ま、こういう卑しい発想は男の性なのでいかんともし難く、女性読者は広い心でご容赦下さい。おしまい。



2004年10月17日(日) アカデミー賞で演技賞を受賞する方法

この度はシャーリーズ・セロンがアカデミー主演女優賞を受賞した「モンスター」について語る予定ではあるが、まずその前置きとしてオスカーを受賞するための鉄則について触れておこう。

まず、コメディでは非常に獲りにくいということ。古くはチャップリン、ボブ・ホープから最近ではスティーブ・マーティンやジム・キャリーまで、多くの名コメディアンたちが受賞するチャンスがない。オスカーの演技賞を受賞するためにはまず社会的問題意識のある深刻な映画に出演することが手っ取り早い近道である。

それから従来よりオスカーを受賞しやすい役を確保するということも大切だ。具体例を挙げよう。

・アル中…「失われた週末」のレイ・ミランド、「リービング・ラスベガス」のニコラス・ケイジなど

・娼婦…「バターフィールド8」のエリザベス・テイラー、「コールガール」のジェーン・フォンダ、「誘惑のアフロディーテ」のミラ・ソルビーノなど

・身体障害者…「奇跡の人」のパティ・デューク、「マイ・レフトフット」のダニエル・デイ・ルイス、「セント・オブ・ウーマン」のアル・パチーノ、「ピアノ・レッスン」のホリー・ハンター、「愛は静けさの中に」のマリー・マリトン(この人は本物の聾唖者)など

・精神障害者…「レインマン」のダスティン・ホフマン、「フォレスト・ガンプ」のトム・ハンクスなど

・性格異常者、犯罪者…「ミザリー」のキャシー・ベイツ、「羊たちの沈黙」のアンソニー・ホプキンスなど

・同性愛者…「蜘蛛女のキス」のウイリアム・ハート、「フィラデルフィア」のトム・ハンクスなど

つまりフツーの人を演じたのでは目立たないし、なかなかオスカーは獲れないということだ。突出した"熱演"こそ人の目を惹き、票を集めやすい。

こうやって見ていくと「モンスター」でセロンが演じたのは、正にアカデミー賞を受賞するためにあるような役である。「同性愛者」で「犯罪者」そして「娼婦」と三拍子揃っているからである。

長くなりそうなので続きは後日。乞うご期待。



2004年10月11日(月) 追悼;クリストファー・リーブ

俳優クリストファー・リーブの訃報が届いた。享年52歳。余りにも若すぎる死である。死因は心臓発作とのこと。

リーブは1995年に乗馬大会出場時に落馬し、脊椎を損傷。首から下が麻痺し一時は自発呼吸も出来ない状態となり再起不能と囁かれた。しかし、その後奇跡的回復をして車椅子生活をしながらアカデミー賞授賞式やトニー賞授賞式などにも登場し、元気な姿を見せてくれた。また映画監督に挑戦したり、1999年にはTVでヒッチコックの「裏窓」リメイクに出演したりもしている。

リーブの代表作と言えば世間的には「スーパーマン」(1978)になるのだろうが、筆者がこよなく愛するのは幻想映画不朽の名作「ある日どこかで」Somewhere in Time (1980)である。これは奇跡の映画である。甘美でいて、そして切ない。ジョン・バリーの音楽も極上。もし貴方が未見なのだとしたら己の不明を恥じなさい。そう言いきって、些かも躊躇しない。

昨年、ファンの強い要望に応え、漸く「ある日どこかで」日本版DVDも発売されている。ユニバーサルがDVD発売に踏み切ったのはここのサイトに集まった人々の地道な運動の成果である。

いまやカルト映画の代名詞ともなった「ある日どこかで」にはINSITEという熱狂的ファンの国際ネットワークがある。詳しいことはこちらの日本版ホームページを見て欲しい。ここのGuest Bookには次々とリーブの訃報を聞いたファンが集まり、書き込みをしていっている。

生涯にただ一度だけでも、このように沢山のファンから愛し続けられる作品に出演できたリーブは、本当に役者冥利に尽きるだろう。

是非この機会により多くの人々に「ある日どこかで」と一期一会の邂逅をして欲しい、そう願うのみである。さて、そろそろ僕もDVDを引っ張り出してきてリーブの追悼を始めようか・・・



2004年10月09日(土) 香港マフィアはシチリア島の夢を見るか? <無間序曲>

インファナル・アフェア「無間道」は掛け値なしのA級香港ノワールであった。さてその続編「無間地獄」である。

今回はアンディー・ラウとトニー・レオンという二大スターが出演しないこともあって地味な感は否めない。日本では興行的にも振るわず既に上映は終了してしまった。しかし、その内容はなかなか充実しており、一作目ほどのインパクトや完成度は望むべくもないが、それでもB+の評価は進呈したい。筆者は十分愉しめた。

ただ少々残念だったのは前回、耽美派撮影監督クリストファー・ドイルが映画に参加していたお陰で、スタイリッシュで引き締まった映像に魅了されたのだが、今回ドイルの名前がクレジットから外れたために映像が比較的平板になったきらいがあることである。

「無間序曲」について深作欣二監督の「県警対組織暴力」を彷彿とさせるという批評を複数見かけたのだが、筆者が一番この作品に色濃く影を落としていると考えるのはコッポラの「ゴッドファーザー PartII」である。一作目よりも過去を遡るという構成、父親の死でファミリーのトップに立たされた者の苦悩。兄弟が全て黒社会に生きているのではなく中には堅気もいるという設定、さらに家族写真の場面や車のエピソードなど「ゴッドファーザー」を意識しているのは明らかである。

新たに登場するボス・ハウ役の呉鎮宇(フランシス・ン・ジャンユー)が素晴らしい。また、前回よりも見せ場が増えたサム役の曾志偉 (エリック・ツァン)が渋くていい味出している。実質的に彼が今回の主役と言っても過言ではない。欲がなく、決して前面に出ようとしないおとなしいサムが運命に翻弄され否応なく黒社会のトップに登り詰めざるを得なくなってしまう過程が克明に描かれる。しかし映画のラストで花火を見つめる彼の顔に笑顔はない。漂うのは哀愁のみ。

実はサムも、そしてウォン警部(後に警視)も無間道=無間地獄に墜ちた人間だったということが本作で明らかになる。進むも地獄、退くも地獄。そして周囲を見渡しても、ただ地獄の亡者たちが徘徊するばかり。そういう虚無感漂う面白さがこのシリーズにはある。正にこれぞ、ノワールの神髄である。



2004年10月02日(土) ミュージカル映画「オペラ座の怪人」公開迫る!

当サイトでは日本では何処よりも早く、アンドリュー・ロイド=ウェバーが作曲したミュージカル「オペラ座の怪人」映画版について取り上げてきた。まず今年1/3の日誌(←クリック)を見て貰いたい。

今年12月に北米で公開される映画「オペラ座の怪人」が来年のアカデミー賞で受賞確実なのは歌曲賞(ウェバーの新曲)。かなり可能性が高いのが美術賞と衣装デザイン賞。チャンスがあるのが作品賞・監督賞・主演女優賞などである。ダークホースとして俄然急浮上している。映画公式サイトはこちら。予告編・スチール写真・ポスター・壁紙などかなり内容が充実してきた。

主役の怪人役についてはまず映画の企画当初の1990年には舞台のオリジナルキャストであるマイケル・クロフォードが候補となり、その後、ジョン・トラボルタ、アントニオ・バンデラスなどの名が浮上しては消えていった。最終的にはジェラルド・バトラーに落ち着いたのだが、実はロイド=ウェバーが土壇場まで希望していたのはヒュー・ジャックマンだったそうである。しかしジャックマンは既にブロードウェイ・デビューである舞台「ボーイ・フロム・オズ The Boy From Oz」の出演が契約済みだったためにスケジュールの調整が出来ず、断念せざるを得なかった。まあ、そのお陰でジャックマンはトニー賞ミュージカル部門の主演男優賞を受賞したのだから本望だったのかも知れないが、それにしても惜しい!ジャックマンが「オペラ座の怪人」に主演していればアカデミー主演男優賞も夢ではなかったのに。

その代わり、ジャックマンは「オペラ座の怪人」に続いて、ロイド=ウェバーが作曲した舞台ミュージカル「サンセット大通りSunset Boulevard」(ビリ・ワイルダー監督の名作を下敷きにしている)映画版の出演がほぼ確実な状況にあるので、筆者はSunset Boulevardでジャックマンは念願のオスカーを受賞するだろうと確信している。ジャックマンは既にオーストラリアで「サンセット大通り」の舞台を踏んでいるのである。ちなみに「サンセット大通り」ブロードウェイ版でサイレント映画時代の大女優ノーマ・デズモンド役を演じ、トニー賞を受賞したのはグレン・クローズだが、映画版ノーマの候補として噂になっているのは「キャバレー」のライザ・ミネリで、監督はマーティン・スコセッシとのこと。もしこのプロジェクトが実現すれば豪華な凄い映画になりそうである。ちなみにこの噂についての情報源はこちらである。

劇団四季は汐留の劇場「海」のこけら落とし公演だった「マンマ・ミーア!」に引き続き、来年1月から「オペラ座の怪人」再演を決定した。東京では同時期に「キャッツ」再演もスタートしている。狙いは明らか。それまでミュージカルとは縁もゆかりもなかったが、映画「オペラ座の怪人」を観て舞台版や他のロイド=ウェバー作品も観たいと考える一見さんを引き込み、相乗効果を狙おうという寸法なのである。流石やり手のビジネスマン、浅利慶太代表、えげつない 抜かりない。まあ、その勢いに乗って長年の懸案事項である舞台「サンセット大通り」日本初演も実現して下さいな。


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雅哉 [MAIL] [HOMEPAGE]