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2003年05月30日(金) ■ |
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◆K-BALLET COMPANY 『白鳥の湖』(全4幕) 熊川哲也、デュランテ、ペレーゴ、キャシディ、他 |
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《演出・再振付: 熊川哲也》
オデット: ヴィヴィアナ・デュランテ、 オディール: モニカ・ペレーゴ、 ジークフリード王子: 熊川哲也、 ロットバルト: スチュワート・キャシディ、
家庭教師: サイモン・ライス、 ベンノ(王子の友人): ジャスティン・マイスナー、 王子の友人達(パ・ド・トロワ):松岡梨絵、榊原有佳子、ヒューバット・エッソー、
〔舞台装置・衣装: ヨランダ・ソナベント、レズリー・トラヴァーズ〕
去年上演された大作『眠りの森の美女』の次にK−Balletが選んだ作品は『白鳥の湖』でした。 ポピュラーで誰でも知っているこの名作を、熊川版ではどのように仕上げたのか興味深く拝見しました。 何しろ、見てみない事には美術や演出も予備知識が無かったので、とにかくニュープロダクションは全てにおいて楽しみです。 会場の雰囲気は、他のバレエを観に来るときよりもワサワサとした感じで、皆本当に華やいでいました。 女性がとても多いので、化粧室行列もズラリ。もっとも、休憩は1度きりなので集中してましたが…。 《*熊川版は(1&2幕)休憩(3&4幕)という進行》
全体の印象というと、まずソナベント氏による舞台美術と衣装に目がいき、それと音楽が、かなり編曲されていたのが、あれっと思いました。曲の登場配置を変えるというより、フレーズを繰り返したり、短くしたりと...。 その部分も含め、熊川氏はストーリーの解りやすさに徹した演出を心がけているようでした。 さらに、つくづく思ったのは、進行・演出はブルメイステル版(この版好きです)を意識しながらも終始ロイヤル風でしたね。(当たり前か.) また、全編あまり悲劇的で重い雰囲気ではなく、『白鳥〜』を観た時に感じる切なさよりも、別の作品を観た時のような爽快さが残りました。 振付も見ごたえあるようにつくられていたようです。
【序章】 悲劇の予感をさせる前奏曲が流れだすと、舞台中央の紗幕を使い、オデットが悪魔ロットバルトにより「白鳥」の姿に変えられてしまうところが丁寧に描かれていました。悪魔に捕まり、くるっと回転したら、すぐ白鳥に。
【第1幕】と美術 まず美術。各パーツ金色のフレームが針金細工のように天井、左右に配されて、これは近代西洋風に見え、かなり目立っていました。 それに和紙で作った花ような飾りが付けられていたり、他にも色々細かく手がこんだ装飾が付いていました。 しかし踊る場所が無くなる程大きな装置は無くその辺は考慮されていましたね。 後の2幕では、ごちゃごちゃ飾り立てておらず、抑えた透明感のある色調で神秘的な背景でした。
しかし、ヨランダ・ソナベント女史のこの美術装置、全編に言えますが、御自分がかつてロイヤルバレエのダウエル版『白鳥〜』で使ったテイストとほとんど変わり無い様に見えます。(彼女の個性でしょうけれど)ロイヤルの『白鳥』を観た人は、そっくりと感じるのではないでしょうか。 でも“あれ”より、明るく、さっぱりとしてグロテクスさは抑えられています。 パンフによると熊川氏は、賛否のあった、かつてのロイヤルの『白鳥』美術が大好きだそうですので、そのテイストを生かしたのでしょうね。 私は、アートとしては良いと思いますが、この物語世界を描き出す風景としては、あまり好みではありません。 作品として、強くてとても綺麗ですけど、ストーリーに入り込んで観るには、邪魔に思えてしまう。(ダンサーよりも美術に目が…) でも人それぞれの好みの問題ですので、好きという人の気持ちもすごく解ります。 まぁ、バレエの代名詞のような作品で、オーソドックスな美術を選ばず、あえて挑戦的なものを選んだ事は、新しいバレエファンの裾野を広げる上でも有意義だったと思いますね。
さて、K-BALLET COMPANYは、まだ、人数的に多くは無いので、始まって直ぐのワルツも少人数です。でも、その分踊りに関しては、1人あたりのスペースが広いので、結構パワフルな振付になっていて見ごたえあります。特に男性はジャンプを多用したり、スピーディーで元気よく見せ場を多く作り出していました。
王子の熊川さんは、深いブルーのドイツ風なトップスに白タイツ、所謂王子としてオーソドックな衣装。王子らしく演技して役作りをしようというより、自然で快活、生き生きとした“熊川氏そのもの”な印象でした。好奇心もあり、和やかで明るい等身大の若者像という風に見え、高貴というより身近な感じでしょうか。 作品ごとに、王子像を演じ分けられているようにはあまり見えませんが、今後さらに演技を深めていく事に期待して観ていきたいですね。 また、会場は「彼」とこの作品を楽しもうとする空気に包まれ、相変わらずの素晴らしい踊りを目の当たりにして、観客は喜びを感じていたと思います。
この熊川版では、伝統的な王子の友人「ベンノ」が登場します。衣装は上がグリーンで普通にシンプルなもの。 均整のとれたスタイルのジャスティン・マイスナーが1幕では中心的に活躍していました。踊りもチャーミングで伸びやか、私といっしょに観劇した人は、彼を気に入っていたみたいです。(笑) プロフィールを観ると、K-BalletではFirst Soloistで、元は英ロイヤルバレエのソリストを務めていたとの事。 2幕最初、狩に向うところや、「白鳥達との出会い」の場面も王子だけでなくて、いっしょにオデットを目撃、常に王子と共にというのも、ロイヤルっぽいですね。 (余談ですが、古いロイヤル「白鳥」では、王子とオデットのグラン・アダージョも王子・オデット・ベンノの3人で踊っていたものもあります。とても重要な役ですね)
また、道化的な観客を沸かす役割で、ベテランのサイモン・ライスが家庭教師を演じていました。いや、これが良かった。演技力も素晴らしい上に、アッと驚くダンスを披露してくれますよ。
その他の登場人物、貴族達の衣装は、派手過ぎず、選び抜かれた色という感じで、綺麗でした。パ・ド・トロワがとても素敵。
【第2幕】 抑えられた色調の背景でリアルに風景を書き込んだものではありません。ボワァーとした、透明水彩の藍色やグレーなど微妙な色合いを薄く塗り重ねたような、やはり、少しロイヤルのものに似ています。
狩にやってきた王子とオデットの出会いですが、何だか、神秘的ではありませんでした。 通常良く見る《情景》の音楽にのって「白鳥」のミニチュアが水面を滑るように移動する“あれ”がなく、突然飛び込むような勢いでオデットが登場するのです。ちょっとあの入り方が…。 さらに、ロイヤル伝統のマイムによる表現。オペラ座の方もやりますけど、身の上を語る一連の表現が、どうも好きになれないのです。 デュランテのオデットは、表情や腕の動きは丁寧にされていたと思います。ただ、今回は白鳥役だけなので、どうこう言えないのですが、得意の情熱的な演技主体のバレエと違って彼女の良さを前面にアピールできたかというと、1役だけでは何とも…。 たっぷりとした演技は悪く無かったですが、オデットの切なさが後々まで響くほどの印象には残りませんでした。 オデットの衣装は、定番の白いクラシックチュチュですが、羽毛に見えるように沢山のギザギザに薄い生地が張られてすごく美しいものでした。衣装のつくりは、英国ならではで素晴らしい。
ロットバルト=スチュワート・キャシディは迫力といい、演技力といい、さすがです!! 彼が踊ったり、動きを見せるたび、何ともいえない空気感や際立つものがあり、何か違うのですよね。強面メークもバッチリ。 彼が王子役としてバリバリ演技するK−Ballet版『白鳥〜』も是非観てみたいと思ってしまいました。再演するときは是非!!
そして群舞の白鳥達ですが、やはりロイヤル風の膝丈くらいのチュチュで脚全体が見えずガッカリしてしまいました。形はふわっと裾が広がっているのではなく、丸みを帯びた形になるよう裾の部分が少しすぼまった形です。 そのフォルムは本物の白鳥の曲線的な姿を模して制作されたのかと私なりに考えましたが、やはり見慣れているノーマルでシンプルなチュチュ方が場面的には美しい気がします。あの、沢山の布を重ねた衣装は、軽やかでなく動きを観る上では何だか重たい感じです。 踊りはあまり印象に残らなかったかな。人数も多くありませんでした。
王子、オデット、群舞が揃う場面も、あまり哀愁感がただようというより、王子は物事に前向きで悲壮感はない、「任せてよ」的な大らかさを感じました。 2幕の照明はそんなに暗くなく神秘的というより、ちょっと日が暮れた程度の暗さですね。
【第3幕】 祝賀舞踏会の場面は煌びやかというより独自の怪しさが漂う雰囲気。 1幕の美術をさらに濃密にして、まるでカーニバルか狂乱の宴を連想させるものでした。 ただ、色彩はあまり鮮やかなものをたくさん使わず、シックな印象。光モノも使っているので皆、ライトに当たると、質感が変わり綺麗に見えます。
各種踊りが披露されますが、6人の花嫁候補が踊る場面で、独自の演出がされていました。王子は既にオデットに心を奪われていたのでこの“お見合い”は気がのらないのですが、女王の手前、彼女達と踊らなければなりません。
この場はまず3人の花嫁候補と暫らく普通にワルツを踊り、「何かへん…6人のはずが…」と思っていると、急に音楽が止まってしまいます。「えっ!何で」と思ったら、また始めから音楽が鳴り出し、残りの3人と、また前の3人が再び踊りだすというもの。 音楽も違和感ある途切れ方をしますし、何か流れに対して引っかかったような印象ですが、あえてそれは、受け入れがたい王子の心情を、強く印象付ける効果を狙ったのではないでしょうか。 手に持った豪華な仮面(ヴェネチアのカーニヴァルの時のような)で顔を隠し、途中で顔を見せる演出は何とも魅惑的でした。
オディール=モニカ・ペレーゴと騎士姿のロットバルトの登場。 モニカさんは、ENBで来日した時に、やはり熊川氏と組んで、『白鳥〜』を踊ったのを観ましたが、テクニックのある上手なダンサーくらいしか記憶に残っていません。 それで今回拝見して、いやぁ、こんな個性的なダンサーだった? と驚いております。 なんていうか、とても筋肉質な上半身で動きはバネのように弾む感じ、すごく機敏で良く動いているんですね。 オディールだけの登場なので、ちからが温存されていたのを一気に爆発させたかのように強烈な個性でその場を圧倒していました。それに、表情も強く威圧的で、自信に満ち溢れたオディール像でした。 役作りに曖昧な部分がなく、自分が踊りたいと思っているオディール像を、完璧にこなしていたからこそ、観客にも意図が伝わって大きな拍手を得られたのではないでしょうか。
コーダのフェッテも余裕で、軸もほとんどぶれず、安心できる技術をもった方ですね。 白鳥姿を見ていないので(前回のは忘れてしまった)、逆に叙情的な踊りが出来る方か想像が出来ないほど、今回は良い出来だったと思います。 オディールの衣装は黒一色ではなく、チュチュの表面に、白か薄い別の色が羽のように張っていました。
そして、王子のソロは、チャイコフスキー・パ・ド・ドゥの音楽を使用していました。 (私もこちらの音楽の方が好き) さすがにソロの踊りは伸びやかで、滞空時間の長いジャンプも健在です。 熊川氏の特出した技術を観た観客は、オォーとか、うわぁーとか自然とため息が漏れてました。1幕でも少し踊りますが、あれよりもこの場をメインとばかりに、たっぷり魅せてくれます。 観客も待ちに待った楽しみな場面ですよね。
【第4幕】 オディールに愛を誓ってしまった王子は、悲しみにくれたオデットを追って、再び湖に向います。 通常は長い白鳥の群舞は、ここの版では何だかとても短めになっていました。白い白鳥だけでなく、グレーも混じっています。 群舞が短い分、ロットバルトの激しい踊りが際立ち、改めてキャシディの迫力ある存在感に目が奪われます。体格が大きいこともありますが、役の表現もとても際立って素晴らしかったですね。
王子、オデット、ロットバルト、白鳥達、入り混じっての終幕は大変盛り上がっていました。最後は、舞台に設えてある崖の上から身を投げ、悲劇的に終わったかに見えましたが、エピローグで舞台中央に王子、オデットが永遠に結ばれた幸せそうな姿が明るく浮かび上がり、すっきりと爽やかな印象を残して幕となりました。
観終わって、通常のクラシックな『白鳥〜』を見た感じがしない不思議な感覚の作品。ウエットではなく、誰でも楽しめる作品という感じですね。 アート的にも面白いですし…。 哀愁、ドップリ、濃い演技が好きな方には、少しライトだったかもしれません。(私はもう少しディープ希望) でも出演者が違ったら、全く別の印象になるでしょうから、それも是非観てみたいですね。 あと、相変わらずパンフ代3,000円は高いと思いますが...
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2003年05月18日(日) ■ |
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◆《世界B・F全幕特別プロ》東京バレエ団『白鳥の湖』(全4幕) ルテステュ、マルティネス、他 |
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オデット/オディール: アニエス・ルテステュ、 ジークフリート王子: ジョゼ・マルティネス、 ロットバルト: 高岸直樹、 道化: 古川和則、 パ・ド・トロワ: 高村順子、荒井祐子、後藤和雄、 四羽の白鳥: 早川恵子、荒井祐子、太田美和、高村順子、 三羽の白鳥: 遠藤千春、大島由賀子、福井ゆい、 チャルダッシュ: 佐野志織、平野玲、太田美和、 ナポリ: 高村順子、古川和則、 スペイン: 井脇幸江、遠藤千春、後藤晴雄、木村和雄、
〔指揮:ミッシェル・ケヴァル、演奏:東京シティ・フィル〕
新国立バレエ『白鳥〜』を観に行った後、1日あけて、東バの『白鳥の湖』(東京文化会館)という、めまぐるしい鑑賞スケジュールになりましたが、バージョンが大分違っていましたし、雰囲気もかなり異なっていましたので、大変面白く拝見しました。 しかし、同じ日本の有名なバレエ団とはいえ、本当に違うものですね。しみじみ…。
実は、東バの『白鳥』は何年か前に一度観ただけでした。その一度というのが、渋谷区の助成公演(チケ代、半額くらいでした)という事で、珍しく渋谷公会堂で行われたもので、ホールもイマイチの上、あの美術と衣装で、なんだかなぁ…と思ったように記憶しています。 優雅にバレエ鑑賞のつもりが、何となくちょっぴり発表会チックで(ダンサーは別です)チープに見えてしまいました…。 装置も白鳥一直線に飛ぶ所など、シューというヘンな音が聞こえて情けな気分だったような…。でもダンサーには直接関係無かったのですけどね。
それで、今回鑑賞する上で、その時と大分変わっているのではないかと、内心期待しておりました。でもやはり、目にしたのは懐かしいあの時のままでしたけれど、会場もその時と違うし、(東京文化会館は豪華というのではないが好きなので)、なんだか可愛く思えてきました。 でも不思議、人気のある有名バレエ団なのに “あの衣装や美術”を今も使い続けていたなんてねぇ。
【第1幕】(遠くに王宮の見える庭) 《王子の21歳の誕生日を祝う為、領地の若い男女が集まって楽しく踊ったり宴を催しています》
大変シンプルな舞台装置で、人数も舞台上は少ないので、かなり広々見えます。女性のワルツの時の衣装は、イエロー、ライトブルー、ホワイトを組み合わせた色使いで『ジゼル』風デサイン。 あまり見かけない配色で、一度見たら忘れられなくなりそう。 登場するダンサーも先日見た「新国」の人達より、この衣装のせいもあってか、子供っぽいくらいに若々しく見えます。 表情は晴れやかで、可愛らしい人が揃ってますね。
次にパ・ド・トロワ、とても良かったです。高村さん、荒井さん、後藤和雄さん、テクニックも素晴らしいのですが、その観客をのせて引きつける“アピールする力”がすごく際立っていて、さすがという感じでした。 荒井さんの踊り方、ちょっと言い方がヘンですが、このトロワ特有の細かいシャキっとしたリズムの取り方と余裕ある動きが何とも好きです。高村さんの華やかさと後藤さん安定感、それぞれのソロの踊りを観るのは何と楽しいことでしょう。「東バ」のソリストは豪華ですよね。
そして忘れてはならないのは、何とも魅力的な道化役の古川和則さんのパーソナリティと演技力。 もちろんすごいテクニックを見せてくれるのですが、それよりもあの、人なつっこい表情に魅了されます。先日も『眠り〜』でキュートな「長靴を履いた猫」を演じ、そのときもイイなぁと感じましたけれど、今回は出番も多くてスーパーな踊りも堪能でき、私は大満足。 とにかく役も合っていたし、可愛らしい道化でした。
王子のマルティネスは、楽しげに宴に参加というより、いかにも静かな貴族的な佇まいで、周りとは一歩引いていたように感じました。 まぁ祝ってくれてありがたいけれど、心からは楽しんではいないよう。 けして、つまらなそうにしているのではなく、皆が楽しく踊っているのを温かい目で見守っている感じでした。 品が良くて尊敬できる人格者風というのでしょうか、周りが子供っぽい分、彼だけとても大人に見えました。 踊りの中で彼が女性を軽くリフトするところがありましたが、身長差の為か、ちょこっと持ち上げてちょこっと置いていました。 しかしホント身長が高い! 本気で高く持ち上げられたら怖そうだなぁ。
1幕終盤の全員の踊りで、通常目にするゴブレット(杯)やちょうちん?を持って踊ってなかったのがちょっと寂しかったです。小道具を使ってほしい。
【第2幕】(月光の冴える静かな湖のほとり)
ロマンティックな音楽にのせ、マルティネスのソロダンスが挿入されていました。嬉しい!! 大変見応えのある美しい踊りで、長い手足でやるせないような心情を充分物語っていました。 ただ最初のジャンプの着地でかなり大きな音を立てていましたが、その後は気をつけて丁寧に踊っていました。
それと以前見た、白鳥飛来を表すシューシュー音のする装置(一直線に勢いよく飛んでいく装置です。見ないと解らないかも)やっぱり有りました。懐かしいなぁ…(苦笑)
そして白鳥=アニエス・ルテステュの登場です。 やはり何といってもスタイルの良いこと! 彼女の「白鳥」は先日観たレドフスカヤのような心の奥底の繊細な優しさや“情”を感じさせるというより、聡明で品と誇りを持ち、自分に興味を持った王子を(マイムによる表現を使い)、なかなか簡単には受け入れません。 「この人は本当に私を救ってくれる人なの?」と深く考えてから、徐々に踊りのクライマックスに向け、だんだんと心が雪解けしていくような表現でしょうか。とても気高さを感じました。
彼女もオーバーな表現は一切せず、抑制の効いたシンプルな踊りに徹していましたね。 ただ、踊り自体、大変美しいですけれど、柔らかさはそんなに感じられず(メソッドの違いかも)、首、腕の動き、に関しては、先日観たレドフスカヤの方が私は好みでした。 少し、アニエスの方が現代的なのかも知れませんね。 そして大人っぽくて静かで精神的に強い感じに私は見えました。
四羽の白鳥は、早川さん、荒井さん、太田さん、高村さん。 実は今回、コール・ドが気になってしまい、あまり印象に残ってません。 左2人脚が細くて、右2人筋肉が付いていたなぁくらい…。 三羽の白鳥もコール・ドに私の神経が…。 遠藤さん、大島さん、福井さん、上手だったと思います。多分…。
そして問題のコール・ド。統一感があまり見られず、幻想の世界とは程遠かったです。とにかく、靴音がうるさすぎでした。 でも私は靴音について普段あまり気にした事が無かったですし、多少、しょうがないものと思ってましたが、他の踊りに集中できなくなる程、なんだかすごくて、どうしちゃったの???でしたね。 群れをなして勢いよく走って舞台を横切る、その時の音がずっと気になりっぱなしでした。
【第3幕】(王宮の舞踏会)
スペイン以外の民族舞踊はごく普通に招待されたゲストで華やかに順に踊っていきます。 ソリスト達はやっぱりレヴェルが高く、どのような踊りも上手にこなして観ていて楽しいですね。 ただ、やっぱり衣装が子供っぽいくて少し残念。
スペインは悪魔ロットバルト側に設定されてました。 井脇さん、遠藤さん、後藤晴雄さん、木村和雄さんがとっても素敵! とにかくあのリズム感と迫力。 あの音楽も好きだけど、観ていると気分もノッてきます。
民族舞踊の後、オディールのアニエス登場。 やっぱり恵まれた美しいスタイルで本当に綺麗な方ですね。 彼女のメイクは舞台化粧っぽくなく必要最低限くらいにとどめています。 そのような細かいところでも解るように、無理にオディールだから強くとか、すごく自信満々に演じるでもなく、時々こぼれる笑顔やチラッと送る目線によって共演者や観客がオディール像を感じるように作り上げているようです。 そう、あの目線のドキッとする美しさ。 私は白鳥役よりも彼女のオディール像に魅力を感じました。 フェッテは、通常のスピードくらいで、時々ダブルを入れていました。少し前にずれましたが、観客は大変沸いていましたね。
最後にオディールに愛を誓い、騙されたのが解ったジョゼ王子は、今までの優雅な雰囲気から一変、初めて解り易く感情を表し嘆いていました。
【第4幕】(もとの湖のほとり)
白鳥の群舞のあと、ロットバルトが大活躍します。高岸直樹さんがこの役を演じていますが、この東バ版は何と激しく踊ることか。顔が殆ど隠れていて、高岸さんだと意識する事は無かったのですが、よくあの衣装であんなに踊れるのかと感心しますね。 私は疲れていたのか、ロットバルトの凄い踊りと、最後にこの版でも悲劇に終わらず、《永遠に愛を誓いあって、王子とオデットは固く抱き合う》という最後だったなという記憶しか思い出せなくなっています。
たいがい私の場合、古典の「白鳥」4幕目は何か退屈に感じでしまうので、ロットバルトが激しく踊ってくれると本当にありがたい。 それか、グリゴローヴィチ版みたいに(1&2幕)休憩(3&4幕)という風に纏めるか、或いは4幕をもっと盛り上げる演出にするとかしてないと、眠くなってしまうのです。困ったもんだ...。
話がそれましたが、この時の観客は大変な盛り上がりでした。制服を着た学生さんも沢山観に来てましたね。 あの歓声と拍手はダンサー冥利に尽きるのではないでしょうか。 本当にジョゼとアニエスは嬉しそうに笑顔で応えていました。
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2003年05月16日(金) ■ |
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◆新国立バレエ団『白鳥の湖』レドフスカヤ、マトヴィエンコ、イリイン、吉本泰久、他 |
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オデット/オディール: ナタリア・レドフスカヤ、 ジークフリート王子: デニス・マトヴィエンコ、 ロットバルト: ゲンナーディ・イリイン、 道化: 吉本泰久、 パ・ド・トロワ: 遠藤睦子、西山裕子、トレウバエフ 小さな四羽の白鳥: 遠藤睦子、西山裕子、斉藤希、大和雅美、 大きな四羽の白鳥: 大森結城、前田新奈、湯川麻美子、楠元郁子、 〔指揮:ボリス・グルージン、管弦楽:東京フィル〕
レドフスカヤの「白鳥」という事に惹かれて出かけてしまいました。 会社帰りでしたが、時間前に到着し一安心。 劇場はロビーが広く開放感があるので、飲食するときにも余裕で自分のスペースが取れます。 始まる前、色々とウォッチしていると、平日という事もあってか、ビジネススーツ姿の男性や年齢が高めの落着いた人が多かったです。 若い女性客は他の公演より少ない気がしました。
ここの『白鳥』は本当にオーソドックスなセルゲイエフ版(先日お亡くなりになったドゥジンスカヤが実際に監修)でキーロフバレエで観たものとあまり大差は無いですね。 ただ、衣装や美術をそのまま移したのではなく、バレエ団のオリジナルのようです。 開場記念公演で観た『眠り〜』等はまるごと全部キーロフの美術と同じでしたので…。
【第1幕1場】(城の中庭) マトヴィエンコが登場すると、一瞬誰だか解らなかったです。 髪の色を脱色したのか、艶の無いスモーキーブロンド?にふわっと盛り上がったオールバックヘア。それに眉毛を殆ど書いていないので眉無しに見え、何か老けた印象。 せめて、艶々のブロンドにするとか、撫で付けたようなオールバックにするか、又は昔のままの方が良かったのに…。 でも演技しだすと、やはり若々しくて前よりはだいぶ逞しく見えました。 ワルツのときも引っ込まないで、脇で家庭教師と演技していたり、王子も途中踊りに組み込まれて楽しげに踊っていました。 そういえばマトヴィエンコさんは、新国立バレエ初の“シーズンゲストダンサー”として契約したとのこと。活躍が楽しみですね。
さてパ・ド・トロワを踊った遠藤睦子さん西山裕子さんは風格があるというか、プロフェッショナルな感じ。とても上手ですが、出来ればフレッシュな若手で観たかったかな。トレウバエフさんはキッチリと素晴らしく踊っていて、観客から盛んに拍手を浴びていました。 風格といえば、このバレエ団全体が、少し年齢が高そうで落ちついで見えるのですが、経験の多い人が多いという事でしょうか。 そして道化役は吉本泰久さんでした。とても活躍する重要な役で、期待通りに奮闘。 小柄な方ですが、滲み出る愛嬌がとてもよかったです。
【第1幕2場】(森の湖畔) オデット=レドフスカヤの登場。 実にたおやかな白鳥。女っぽさというのでもなく、心の奥底に芯が通っていながら、表に現われるのは孤高というより温かい血の通った白鳥姫。 王子との出会いも恐怖で逃げようとするというより、自然に受け入れていくという印象。 そして、腕と首の動きが大変素晴らしい。人の何倍も関節があるのではないかと思うほど、繊細な動きが本当に見事で、観客はただ、ボゥーと柔らかで豊かな表現力に見入ってしまいます。 この人はいつも思うのですが、過剰にやりすぎる事が無く、精神誠意、真心込めて踊ってくれますので、人の心を打つことが出来るし、見ていて心地良い気分になります。 もうこの場面は、彼女を目で追ってばかりでした。
マトヴィとのパ・ド・ドゥのリフトも凄かったです。軽がる極限まで持ち上げられていました。コンビネーションももっと踊り込めばさらに良かったと思うのですが、少し戸惑うところも見うけられました。
四羽の白鳥の踊りはステップが見事に揃っていて感心しました。コール・ド全体も統率されていて、舞台の美しい照明に映え(照明イイですよ)、美しい世界を作り上げています。この場面本当にきれいでした。
【第2幕】(宮廷の広間) 宮廷ということですが、教会のような雰囲気の背景。 ここで初めて、キーロフ版では見かけない、道化と6人の道化の女達の踊りが挿入されていました。 華やかな幕ですが、各国の踊りで気に入ったのはスペインの踊り。 スピーディーで激しく場を盛り上げていました。湯川さん、楠元さん、市川さん、貝川さん、皆素晴らしかったです。 ハンガリーの踊りに再び、遠藤さんが登場していました。トロワ、4羽の白鳥、ハンガリーと忙しいですね。とても上手なのですが、出来ればもう少し分散して、色々な方のソロパートを見られるようにキャスティングにしてほしかったですね。
さて、黒鳥オディールの登場。私は初めて自信に満ちた笑顔のレドフスカヤを観ました。 以前『ドン・キ』のキトリを踊った時も明るい町娘というより、しっとりとした雰囲気の印象があり、それでも観ている分には、すごく納得のいく役作りだと思った記憶があります。 今回はとても挑発的に華やかな笑顔で、王子を誘惑するのですが、やはり抑制を利かせながらも、踊りとしては緩急を付けてよく踊っています。まぁ「白鳥」の方が似合っているとは思いますが、初めて見る彼女の側面にワクワクしながら鑑賞できました。 フェッテは、音楽がすごく速くて、それでもダブルを入れていたと思います。 マトヴィのソロも安心して観ていられるほど貫禄がついてきましたね。
それとロットバルトのイリインが怖いくらい衣装が似合っていて演技も抜群。いい人が所属してますね。このような人がいると、全体に厚みが出るのではないでしょうか。
【第3幕】(夜の湖畔) この幕の前の休憩がどうもイヤだ。一気にやってほしいといつも願ってますが、たいがい休憩20分取るようになっている。 さて、ここもキーロフみたいに黒鳥や2羽の白鳥が登場します。まったり音楽の群舞が眠気を誘いそうですが、何とか耐え、オデット、王子、ロットバルトの戦い場面。 演出も凝っていて、打楽器の音に合わせて雷鳴が激しく光り、そのたびにオデットは打撃を受け苦しみます。何度かの雷鳴の後、やっと王子は悪魔ロットバルトの片羽を捥いで、悪魔を倒しハッピーエンドの夜明けを迎えるのでした。
あまり身長は高くないけれど、コール・ドはきれいに揃っていたと思います。照明も微妙な色合いが美しかったです。ソリストは上手かもしれませんが、あまりにも手馴れた感じで、表情もあまり好みではありませんでした。レドフスカヤは素晴らしかった。他の演目も観て見たいです。マトヴィはまず髪型を直してね。踊りは安定して良かったです。
最後に一言。 観客の中に前回来た時もうーんと思う人がいましたが、今回も気になってしまいました。 女性一人に対しても何でもずっと“ヴラヴィー”と叫ぶ人、(それだったらまだ、一般的なヴラヴォーで徹してね)や特定のダンサー意外に一切拍手しない人もいたし、舞台進行中お喋りが止まらない人も…。気が削がれました。勘弁してほしいです…。
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2003年05月10日(土) ■ |
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◆《世界B・F全幕特別プロ》東京バレエ団『眠れる森の美女』(全3幕) マラーホフ、セミオノワ、他 |
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オーロラ姫:ポリーナ・セミオノワ、 デジレ王子:ウラジミール・マラーホフ、
リラの精: 福井ゆい カラボス: 大島由賀子、 妖精たち: 西村真由美、太田美和、武田明子、小出領子、長谷川智佳子、 四人の王子: 木村和夫、後藤晴雄、芝岡紀斗、後藤和雄、 宝石の精: 門西雅美、武田明子、早川恵子、長谷川智佳子、 フロリナ王女: 小出領子、 青い鳥: 大嶋正樹、 白猫: 高村順子、 長靴を履いた猫: 古川和則 〔指揮:ミッシェル・ケヴァル、演奏:東京シティ・フィル〕
開演時間ぎりぎりに、上野の東京文化会館へ到着。 ここには『ジュエルズ』の時以来で、私の一番好きな劇場です。 さて、私は東京バレエ団の『眠り〜』は初見ですが、版のつくりが短めになっていると聞いていましたので満足できるか不安でしたが、他と違うところを考えながら、結構楽しく拝見しました。
美術の印象は、鮮やかな色合いで、子供の頃に見た絵本のような感じ。 森のシーンは色々気になりましたが、ゲストの素晴らしさも堪能できましたので観に行って良かったですね。
“東バ”版『眠り〜』は、他版と幕の進行が違っています。 通常よく観る版は、 プロローグ=《命名式または洗礼式》 1幕=《16歳の誕生日、ローズ・アダージオ、針に刺され眠ってしまう》 2幕=《100年後、デジレ王子が狩りをしに森へやってくる。そこにリラの精が現われ、オーロラ姫の幻を見て心奪われ、姫のもとに向う》 3幕=《オーロラ姫と王子の結婚式》
東バ版は、 通常版のプロローグ部分が1幕となり、2幕にオーロラ姫の16歳の誕生日。 そして3幕は、デジレ王子が登場する、森での“幻の場面”(通常版2幕)と、“結婚式”(通常版3幕)の場をつなげて上演しています。 ですので、森の場面などだいぶ省かれていて、王子役は出番が少ない気がしました。もったいないですね…。
【1幕】
所謂プロローグの場面、色彩豊かな宮殿の大広間。 美術も妖精たちの衣装も華やかな色合いで、おとぎ話の世界を作り上げています。 この日の出演者は若手中心のようで、妖精を踊るダンサーたちは踊る喜びを身体全体で表現していました。 小さなミスはありましたが、元気いっぱいという感じ。 リラの精の福井ゆいさんは少し緊張しているように感じました。 踊りも雰囲気もまろやかでフワッとした印象の方。 初々しいのですが、出来ればもう少し威厳を表現してほしかったと思います。 ストーリーでは、後々も精神的支柱にあたる役ですので…。
妖精たちの踊りの後、手下に担がれて悪の精カラボスが登場。 特に気味の悪いかつらや衣装ではなく、この版の大きな特徴であるチュチュを着た女性ダンサーがカラボス役を演じていました。 黒い蜘蛛の巣模様のチュチュに、赤いアイシャドーで怖めのメーク。 カラボス役の大島由賀子さんはテクニックも素晴らしく、踊りに迫力とスケールを感じました。 また、一緒に登場した手下の男性ダンサーもたいへん豪快な踊りで、大きな見せ場になってますね。
【2幕】
2幕が開くと、いきなり「花のワルツ」。 1幕で妖精を踊ったダンサーもここに参加していました。 (糸巻きを持った娘達が捕まり、王妃の慈悲によって許されて→「花のワルツ」へのエピソードは無し) 王、王妃、式典長の3人が見守るだけなので、舞台上が寂しい気がしました。
さあ、そして待ちに待った(『眠り〜』の場合は特に…)主役のオーロラ姫、注目の18歳、ポリーナ・セミオノワの登場!! びっくりするほど圧倒的なスタイルの良さと、小さな頭、伸びやかで美しい手足、若さ溢れ元気なというより、大変上品で年齢よりも落着いて見えます。そして容姿が大変美しい。 背が高い人にありがちな迫力というよりは、優しげな雰囲気です。 安定感もありますし、まさに主役を踊る為に生まれてきたよう。 マラーホフが惚れ込んだのが納得できますね。 パンフによると、ボリショイ、キーロフ等のオファーを断ってマラーホフのいるベルリンと契約したとのこと。 踊りも品良く、リズムにピタッと合っていましたしバランスもきれい。 まさしく生まれながらの“姫君”に見えました。 細かいお芝居はそれほどみられませんが、まだデビューして間もないこの時期のフレッシュな彼女を見られた事は喜びですね。 これからの成長を見守りたくなりました。
「ローズ・アダージオ」の時に登場する四人の王子達も、姫に心奪われ、競って気に入られようと芝居っけたっぷりで演じていました。 皆、「東バ」が誇る実力者たちなので、踊りもしっかりしていて、安心して観ていられます。 アダージオ後、通常は女官か姫の友人が踊る場面も、四人の王子の踊りが挿入され、スピード感と迫力が増しますね。 でもこの幕、全体にもう少し人数をかけてもいい気がします。 ドレス着て立っている人を配置するとかねぇ。 「花のワルツ」ももう少し衣装を工夫&男性を増員でお願いしたいです。ちょっと寂しい…。
【3幕】 (第1場)
3幕でようやくマラーホフ王子と対面できました。(ヘアはいつもより金髪に見えた?) 《村の娘が花を摘み戯れている。そこへデジレ王子が狩の途中で通りかかる》 娘達はすぐに立ち去り、憂いの表情を湛えた王子マラーホフの見せ場である、メランコリックな森の幻影の場面になりました。 さすがにマラーホフの演技は、その場の世界に浸りきった風情で、踊り以上に演技で魅せてくれます。歩いているだけでも王子様だわ。
ただ、「東バ」版のこの場面、あまりにも“簡易”という感じ。 舞台を彩る美術の絵がへたでショボイ。(森という感じでもなかった)
王子にお付きの人がおらず、唐突に一人きりで現われるのが不自然に映ってしまう。(したがって、他の版では登場する伯爵夫人とかは出てきません)
リラの精がオーロラ姫の幻を見せる場面での“コール・ド無し”は折角美しい舞台にする要素なのにもったいなかったです。 ロマンティックなメロディーにのせ、リラの精と森の精(コール・ド)が登場し、王子が幻のオーロラ姫に触れたくてもなかなか触れられないもどかしさ…。 やっぱりこの場面ではコール・ドが必要だと思うのですが…。
こうなったら、たっぷりと主役たちの美しさを堪能するしかない、とばかりアダージオを観ましたが、リラの精の終始ふわっとした幸福そうな表情が気になって意識がそちらの方へ…。 いくら善良の精だからといって、いつも同じ表情というのはなぁ。 王子を導くのであれば、深みや威厳を感じさせるとか、何かやり方があるのではないでしょうか。でも踊りはまろやかで可愛らしい雰囲気の人でしたけど。 そういえばオーロラ姫は1幕の時の衣装でした。
《そして「パノラマ」の音楽にのり、姫の呪いを解きにリラの精に導かれ旅立ちます》 ここで何名かの、紅葉した木々を思わせる衣装を着た“森の妖精?”(胸に葉っぱが付いていた)が登場し王子と踊りながら移動していました。 (なぜ、先程の幻の場面でこの人たちを出さなかったの?ここで登場させるくらいなら…)
(第2場)
《オーロラ姫の眠っている城に到着した王子。カラボスとの戦いに勝利し、姫にくちづけして眠りから覚ます》 戦いは結構あっさり勝利していました。カラボスも痛手をおったようには見えませんでしたが、最後に“蜘蛛の糸”(昔、ゴダイゴがよく投げていたやつ。ワカリマス?)を投げつけ、元気良く?立ち去っていきました。 そして姫が眠りから目を覚ましたら、あっという間に結婚式の場面。
(第3場)
特にお目見えみたいなゴージャスな始まり方はせず、【宝石の精たちの踊り】から。 ここは女性ダンサー4人で踊るヴァージョンです。 たまに3人で踊るところもありますが、衣装も華やかで、“ダイヤモンド、サファイヤ、金、銀”と揃っている4人バージョンの方が私は好きですね。 1幕で妖精を踊った2人も再び登場。皆、きびきびとした踊りで、テクニックを生かして充分に魅力を発揮していたと思います。楽しく拝見出来ました。
【青い鳥のパ・ド・ドゥ】にはやはり1幕で妖精も踊った小出領子さんと大嶋正樹さん。 これが、結構素晴らしい。特に、大嶋さんのジャンプの高さには目を見張りました。 それにとても柔らかく伸びやかで、見ていて気持ち良かったです。 プロフィールを見たらワガノワバレエ学校に2年間在学し、ルジマートフを育てた事で知られるG・セリュツキー氏に師事し、ペテルブルグのマールイ劇場(日本ではレニングラード国立バレエ)で約1年踊っていたとの事。なるほどね…。
【長靴を履いた猫のパ・ド・ドゥ】は、他で見たときはあまり面白いと思えなかったのですが、「東バ」の高村さん、古川さんの表情豊かでキュートな演技が楽しかった。 マスクを被るところもありますけど、表情が隠れては魅力が伝わりませんよね。ここのは可愛くて良かったです。
【オーロラ姫とデジレ王子のグラン・パ・ド・ドゥ】 マラーホフの経験豊かなサポートを受けてポリーナは益々輝いていました。 そして日本デビューという大きな舞台に立っても、とても落着いていて無理に力が入りすぎることなく観客に満足感と喜びを与えてくれました。
マラーホフは演技という部分ではさすがに見事に演じていました。ですが正直、このパ・ド・ドゥでは、サポートは優れていると思うのですが、お疲れではないかと考えてしまうほど、いつもの生気が見られません。 確かにパンフに書いてあるインタヴューを見ても、日々の多忙ぶりが載っていましたので、体調面がそれほど優れていなかったのでは? 踊りを終えた時の表情が何とも言えず、晴れやかさが見られなかったですし気になりました。 でも、良くわかりません。私が個人的にそう思ってしまっただけなのかも…。
ですが公演自体はとても満足していますし、お2人の共演を見ることができて本当に良かったと思っています。 また「バレエ・フェス」の時にマラーホフさんにはお会いできますが、どうか近いうち、ポリーナさんの舞台を再び観る事が出来ますように…。(願)
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2003年05月05日(月) ■ |
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◆松山バレエ団 こどもの日特別公演『ジゼル』ハイライト版(15:30の部) 佐藤明美、石井瑠威、他 |
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 お話: 森下洋子 プレゼンテーター:村山寿実 SJB(School of Japan Ballet)
ゴールデンウィーク最後の日の温かな午後、通いなれたオーチャードホールへ。 「こどもの日」に毎年Bunkamuraで行っている松山バレエ団、『こどもの日特別公演』は、子供に生のバレエの素晴らしさを伝える企画として定着しているようです。 松山バレエは私が初めてバレエを観たバレエ団ですが、その後2度位しか拝見しておらず、今回は久々でした。 上演されたのはハイライト版でしたが、ほぼ全幕版と比べても遜色無く、1幕と2幕、削られている部分が気にならずに観る事が出来ました。
このバレエ団の皆さんが、芸術を人々に届けたいという“熱”や“一生懸命さ”が大変伝わる公演でした。確かに素晴らしい一体感。 しかし私の目からは、バレエ団独特の雰囲気や演出について、正直、つらいと思うところ、気になる部分などが感じられてしまいました。
11:30〜と15:30〜の回があり、私は後の方。 子供達に観てもらいたいと企画意図の為、観客は普段の公演で見かける時より小さな子供さんが多かったです。 きちんとホール側から、子供でも観やすいように、高さがでるクッションの貸し出しもされていました。行き届いた心遣いですね。 グッズ販売コーナーでは、森下さんのアップ顔写真が転写されたTシャツ等が売っていました。(着るにはちょっと勇気がいりますよねぇ)
さて、始まると幕から、学校の制服のような服装のプレゼンテーターとよばれる若い司会者(バレエ団かバレエ学校の生徒)が登場し、ストーリー説明や、森下洋子さんにインタヴューを行っていました。 それが(プレゼンターが)聴いていて恥ずかしくなるくらい“青年の主張”のようなテイスト。 頑張って一言一句覚えたのでしょう、原稿に書かれた決められた言葉を、間違わず独特の笑顔で話されていました。 森下さんのインタヴューは時間にして少しだけ。バレエの素晴らしさと『ジゼル』を踊れて大変幸せという趣旨のことなどくらい…。
その後、SJB(バレエ学校の生徒)がバーレッスンと基本動作を、豪華なクラシックチュチュ(ティアラ付き)姿で見せてくれました。 あの生徒達全員の作られたような笑顔の表情にビックリ。 衣装もレッスンを見せるだけなのですがかなり豪華でした。
美術も凝っていてポルタイユまで用意おり隙なしという感じですね。 これは好きですし良いと思います。他のバレエ団も古典を上演する時など真似してほしいくらいです。
『ジゼル』ハイライト版(テープ演奏)
ジゼル: 佐藤明美 アルブレヒト: 石井瑠威 ヒラリオン: 鄭一鳴 ミルタ: 小菅紀子 ペザント:倉田浩子、久保阿紀、鈴木正彦、石井瑠威
ハイライト版では、どこの場面が抜けていたのでしょうか。 この松山(清水)版『ジゼル』は全幕を観ていないので正しいかどうか解りませんが、多分バチルド姫達一行が最初の登場に絡む場面の、ジゼルの家で飲み物など接待を受けるところ、首飾りをバチルドから貰うところくらいしか、足りない部分が思い浮かびません。 本当はもう少し圧縮されていたかもしれませんですが、先に述べたようにストーリー上は気になりませんでした。 ジゼルのソロもバチルド姫がその場に登場してなくても、きちんとありましたし…。
ジゼル役の佐藤明美さんは、背丈もありスタイルも大変美しく充分主役の輝きがありました。 ただ、1幕目は、このバレエ団全員に感じる事ですが、過剰な演技、(清水氏の演出指導だと思うのですが)身体が弱く純真な乙女という意識からか、物凄く恥ずかしがったり、ナヨナヨともたれかかったり、首をすくめてみたり、昔の少女文学に出てきそうな乙女という感じ。 でも何度も言うようですが、彼女だけではなく団員全員がこの調子でした。
狂乱の場では髪が殆ど乱れませんでした。 演技はそんなにオーバーではなかったですが、周りの娘達や母親役の方がかなり…。 でも2幕は良かったと思います。腕の動きの美しさや技術の確かさ、特にソロの時の踊りは、観客から自然と拍手が沸き出てきて、私もとても感心しました。 それとアラベスクの姿勢が上半身スックと起き上がった形で、あまり前傾にならないのが特徴でしょうか。 あと、先程の解説によれば、最後、ウィリ達からアルブレヒトを救ったジゼルの“愛”によって、アルブレヒトだけではなく村全体まで浄化するそうです。(すごいなぁ!)
アルブレヒト役の石井瑠威さんは体格や身長など申し分なく、ノーブルな役がいかにもお似合いという印象です。 しかもこの版では、ペザントの踊りにも登場し活躍してました。 他の男性ダンサーは女性ダンサー程、気になる“あの表情”にはなってなかったですし、踊り自体は皆高いレベルで迫力があり良かったと思います。
1幕には男性達だけで踊るパートも挿入されていましたので、より華やかさが増して楽しめる作品に仕上がってました。 ヒラリオンも1幕2幕とも活躍する役どころになっていますし、演じた鄭一鳴さんの存在感も光ってました。 そしてペサントを踊られたベテランダンサーの力量にも感心しました。
〈その他の印象について〉
まず衣装ですが、主役級以外の出演者は何種類もの生地を重ねたかなり華やかなつくりです。 クーランド大公は古典歌舞伎の衣装かと思われるほど派手ですし、ジゼルの母親ベルタなんて村で生活しているようには見えない立派な感じでした。 実際に踊る村娘達も小花のプリントした布を何枚も重ねているので、とてもスカート部分がふくらんでいます。 それと隅々まで手を抜かないというか、抜けないというか、ヘアアクセサリーに至るまで全員バッチリ凝ってました。
2幕のウィリの衣装は地色が白ではなく、グレーベージュでライトには映えづらいのですが、ラインストーンがちりばめられて、(頭も花冠ではなく煌くラインストーン)「白鳥の湖」の花嫁候補のようです。ミルタはもっと派手に光り物が輝いていました。 ジゼルだけ白のシンプルな衣装で、ライトに映えて浮かび上がって見えます。たしかに一番綺麗に見えました。
舞台美術に関しては衣装の凝ったテイストそのままで、隙間を埋めつくし、ぬかりない感じ。シンプルというものの反対を、これでもかとばかり見せてくれます。 1幕のジゼルの家にはタワワに沢山の葡萄が実っていたり、収穫祭の小道具やら、2軒の家セットが大きいとか、空いたスペースがない感じです。 そこでダンサーが踊るのはかなりきつそう。 端はセットがある為、中央部に集まってコール・ド達が踊ってました。
2幕セットはついては納得出来ませんでした。 ジゼルの墓の後ろに巨大な装置が置いてあり(とても邪魔)、左右に分かれて立つウィリがよける形で分断されていました。したがってコール・ド達は全体に右よりになってしまう。 踊りやフォーメーションの美しさを見たいのに踊るスペースが狭くて、中央部でこじんまりと踊るなんて。
後は1幕でのダンサー達の表情とか、何とかならないのかなぁ…。 疑問に思う方はいらっしゃらないのでしょうか。出来ればもっと自然な感じにするとか…。 まぁ、松山バレエ団の個性といったら個性でしょうけど、どうも私には...。
でも踊りなど良かったですし、色々発見があって面白かったです。 とても温かな雰囲気というのが伝わってきました。
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