みゆきの日記
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2005年11月16日(水) ダメダメ

日本から戻ってきても、しばらく柴田さんのことが頭から離れない。
ずっと連絡を断っていてそんな自分を誇りに思っていたのに、
メールを送ってしまいたくなる気持ちを抑えきれなかった。

なんだかいろいろやらなくてはいけないことは多いのに、
あぁ、、今日も何もできずにもうすぐ11時。
洗濯たくさんしようと思ったら洗濯機の調子が悪いし。
とりあえず、お風呂にゆっくりつかってみることにする。


2005年11月14日(月) 返信

みゆへ

こちらこそ、本当に久しぶりに変わらぬみゆの顔が見られて嬉しかったです。
誕生日にお逢いできたのも、何か運命的なものを一人で感じてます。

実は一昨日カナダから戻ってきて、FLUではないのだけど風邪を引いたようです。
もっと元気なときに逢えればと思う一方、ほとんどオフィスにいることも少なく、
よかったと思ってます。

子育ては大変でしょうが、また機会があったらお会いしましょう。
みゆもお元気で。(がんばれよ!)

柴田



柴田さんらしいメールだなと思った。
私の記憶の中にいる柴田さんとぜんぜん変わらない。
そのことがとても嬉しかった。

「俺は長生きするタイプじゃない」

柴田さんは昔よくそんな風に言っていて、私は柴田さんと会わなくなってからも、
時々そのことを思い出して不安になった。
柴田さんがもしどこかで死んでしまっても、私は知らないでいるだろう。
もう人生は重ならないのだから仕方がないと割りきっても、
もしそうなったら私は後悔するのではないかと思えた。
今、柴田さんが私にメッセージを送ってきてくれたことを奇跡のように思う。
これは、柴田さんからのメッセージなんだなぁってそう思うだけで嬉しかった。

私もまた返信した。
長生きしてくださいとかそういう内容だったと思う。
次のメールはバンコクから届いた。


2005年11月13日(日) メール

銀座で買い物をしているときも、家に帰る電車の中でも、
ずっと柴田さんに送るメールの文章を考えていた。

「会えて嬉しかった」

ただ、そのことだけを伝えたいと思った。

柴田さんと最後に話をしたときのことを、私はよく覚えていた。
それは、結婚式を翌日に控えた日の午後のことで、
私はトモユキと二人で南国の新しい家で過ごしていて、
突然私の携帯電話が鳴ったのだった。

「柴田です。」

あまりに意外だったので私は驚き、でも平静を装って話した。
トモユキは、テレビに目をやっている。

「ご結婚おめでとう。奥山さんから聞いたんだよ。
 よかったな。」

「ありがとうございます。
 わざわざ、すみませんでした。
 奥山さんにもよろしくお伝えください。」

私はできるだけよそよそしく、敬語で話して、
そしてすぐに電話を切った。
トモユキには、

「前の会社の人。奥山さんから聞いてわざわざ電話くれたのよ。」

そう言った。
私のよそよそしさに、きっと柴田さんは嫌な気持ちで電話を切ったのではないかと思った。
でも私は間違っていない。
柴田さんのことはとても好きだけど、どうすることもできないこともある。
私にはもっともっと大切なものがあるのだ。

今も、その気持ちは変わっていないのに、
今日会えて嬉しかった、その気持ちを伝えたいと思っている自分がいる。
ただそれだけのことだけど、それがすべてのきっかけとなるのかもしれない。
どうしてもかたくなに避けて通るべきことなのかもしれない。
かつての私はこういうことを何度も繰り返してきたのではなかったか?
結婚して4年間、昔の恋人はおろか、男性の友だちとのつきあいもメールのやりとりさえも断って、
トモユキだけを見てきたのに。

結局私はこんなメールを送った。

「今日はお仕事中お邪魔しました。
 久しぶりに、柴田さんのお元気そうなお顔が見られてよかったです。
 これからも、お元気で。」

返信はすぐに来た。


2005年11月12日(土) 優しい目

柴田さんに5年半ぶりに再会したその日、話をしたのはほんの10分ほどだった。
オフィスだったから、周りに人がたくさんいて、私は終始敬語で。

「久しぶり。お変わりにならずに。」

「ご無沙汰・・・してます。」

「お一人?」

いきなり聞かれた。緊張のあまり、私は意味がわからない。

「えっ?」

「お子さんは」

「ああ、ええ。一人です。」

「おいくつになられたの」

「3歳です」

「もう3歳か・・・早いな。」

柴田さんは、案外私の近況をよく知っているようだった。
私だって、知っているけど。
情報源は同じ人だ。
私の元同僚。彼女も同席している。

「ここも変わったでしょう。
 XX君は今日からアメリカ、XXはシドニーに去年から行ってるし、
 XX君はXX連れてタイだよ、社長でね。
 俺くらいですよ、こんなに長くいるの。」

「で、でも、柴田さんだって・・・」

「もう4年半。帰国してね。
 ちょうど松嶋さんと入れ違いくらいじゃないかな。」

「もう4年半もたつんですか・・」

柴田さんが帰国した年のことはよく覚えていた。
そうだ、あれって2001年だったから4年半だよね。

「そうだよ、もう45。今日誕生日だから。」

「えっ今日誕生日なんですか?おめでとうございます。」

本当は柴田さんの誕生日を私ははっきり覚えていた。
殊更に驚いてみせる自分がわざとらしいな、と思う。

柴田さんは相変わらず、滑らかに話し続けている。
澱みなく次々と唇に上せられる言葉は、久しぶりに会った元部下に対する、
ごく一般的な世間話でしかなくて、私は少し焦るような気持ちになる。
同席している元同僚が、時々口を挟み、会話はスムーズに流れていく。
柴田さんに会ったら話したいことがたくさんあったような気がするけれど、
この流れの中では、なにも思い出せない。
何より私は緊張していて、ほとんど話すことすらできなかった。

「それじゃ、どうも。
 また、機会があったら寄ってください。
 お元気で。」

ほとんど一人で話していた柴田さんが、こう話を打ち切って立ち上がったので、
私は退席するより他なかった。
ほとんど何も話すことができなかったことが少し心残りだったけど、
柴田さんは変わらず、元気で精力的で、魅力にあふれていたので、
やはり会えてよかったと思った。

柴田さんの目を見たら、目がすごく笑っていた。
よそよそしい丁寧な言葉で話しながら、なんて目が優しいのだろう。
少し胸が熱くなった。

元同僚とも別れ、一人、銀座を歩きながら私は何を求めて柴田さんに会ったのだろうと思った。
今日ならメールを送ってもおかしくない。
また会いたいと思っているの?
二人きりで会いたい?
メールでもいいからつながっていたい?
そういう感情も、もうあまりないような気もした。

お元気でご活躍なら、それでもう十分かな。
そんな風にも思っている。


2005年11月11日(金) 再会

柴田さんに会った。
衝撃的な再会?
まったくの偶然ではないけれど、約束したわけでもなく、
とにかく、私の前に変わらない彼の姿があった。

偶然にも、今日は柴田さんの誕生日だった。
もう、そんな年齢なんだ、と不思議に思う。
5年半ぶりの再会とは思われないほど、ちっとも変わっていなかったから。

「変わらないね。」

と、柴田さんは言った。


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