”BLACK BEAUTY”な日々
Paranoia Days INDEX|Did The Old Boogie|Wanna Do The New
Boogie
バンドへの加入プロセスにおいて、前に記したようにいきなりスタジオに赴き、セッションするパターンもあるが、もう一つのパターンがある。
それは「お互いの音源を交換して、まずは話をしましょう」というパターンだ。
このパターンも結構多かった。待ち合わせ場所は新宿か渋谷。 待ち合わせ場所に到着すると、あらかじめ教えられた相手の携帯に連絡する。ネットつながりで知り合いになっているため、相手の本名を知らない事も結構多い。
だから「あの、モビルスーツ第25号さんですか?はいジンです。あ、服装ですか?Gパンに黒いTシャツを着て、肩から鞄をかけてます…あっ見えましたか?今右手上げます…あっこっちも分かりました。どうもです」
なんか同性愛テレクラの待ち合わせ場面みたいで、このやりとりは結局慣れることはなかった。
新宿も渋谷もすぐ近くにマックがあるので、まずはそこに向かう。 席に着くと簡単な自己紹介をした後、それぞれの音源を交換する。
そしてここから、実に奇妙な風景が展開される。 大の大人二人がテーブルに向き合ったまま耳にヘッドフォンをし、互いに一言も発する事なく目を合わせることもなく30分近く無言のお見合いをするわけだ。
けれど心の中では色んな独り言が浮かんでは消えていく。 「『オイラの心は野良猫ロック』ってどんな心だよ。あっなんかボーカルが『オイオイオイ』を連呼してるぞ。きっとライブだとここで客を煽るんだろうな。でも盛り上がる客はいつもの常連さんだけなんだろうな。痛いよなーそういうの」
相手もきっと同じように独り言を言ってるだろうと思う。 「『信号を七つ無視したエンジェル』てどんな天使だよ。違反してんだからとっと警察行けよ」 「『8ビートのリボルバー』ってチバユウスケかっつうの。あ、そう言えばこの人千葉から来たとか言ってたな。まあでもそれは関係ないか」
こうして約30分の無言のお見合いが終了し、お互いの意見を交換する。
まさか心で思った事をそのまま伝える事などできないから、まずは「カッコイイですね」と無難に切り出す。その後は「スネアはグレッチですか?ああやっぱり。独特の響きですよね」とか「一発録りですか!どうりで緊張感があると思いましたよ。ギターは何使ってるんですか?あっやっぱりレスポールですか。ハムバッカーの音、俺大好きなんですよ…」
肝心の楽曲についての話し合いが一向に始まる気配すらない。
やがて「俺、こういう音楽結構好きですよ」 相手も「俺も求めてたサウンドに近いです」
無難に話し合いが終了すると、店を出て駅へ向かう。
そして別れ際に必ずこういうやり取りが展開される
「じゃあ、他のメンバーにも話しとくんで、数日後また連絡します」 「分かりました。じゃあ連絡待ってますね」
この一連のお見合いを10人くらいとしただろうか. [その後の連絡」が来たのはただの1回もなかった。
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