”BLACK BEAUTY”な日々
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2006年04月05日(水) 再生 その壱

木材をその材料とするギター、ベース等は弾き続ける事で自分はただの木のカタマリではなく、楽器であることの自覚を持ちはじめるという話を聞いた事がある。

Thrill Freaksが解散してから早いものでもうじき1年が経とうとしている。
俺以外のメンバーは新しいバンドに加入し、あるいは新しいバンドを立ち上げ、ライブ等の活動を始めた。
自分の場合は、しばらく音楽に触れる事なく、ただ月日が過ぎ去っていくのを傍観する日々が続いていた。

去年の夏頃、愛器レスポールがただの木のカタマリに戻りそうになった頃、遅まきながら新しいバンドでの活動を欲する感情が芽生えてきた。
インターネットでメンバー募集のサイトを覗いてみると、ギターヴォーカルを募集しているバンドは皆無だった。逆にギタリストを募集しているバンドは多く、しばらくは歌う事よりもギターを弾く事を優先させることにし、気になるバンドのメンバーにメールを送ってみた。

最初に返事が来たのは「ガレージパンクにダンス的な要素を足したバンド」だった。
これは結構面白そうだ。最近のプライマルスクリームみたいな感じなら俺の好みと近いかもしれない。

週末にそのバンドからメールが来た。
「今日の夕方、スタジオで練習するので、よかったらお越しになりませんか?」

練習場所は中野だという。中野=西東京=本格派という実に安易な期待を胸にスタジオに向かった。

スタジオに到着すると、ロビーのテーブルに3人が座っていた。
一人は顔色の悪い神経質そうな男性。別の一人はショートカットの実に人の良さそうな男性。最後の一人はどう見ても高校生としか見えない女の子だった。
すると顔色悪い君が立ち上がり、「石川さんですか?」と尋ねてきた。
「そうです」と答えると顔色悪い君が残りの二人を紹介してくれた。
予想通り、女の子は高校生だった。

俺は当然の事ながら、この女の子がボーカル担当だと思った。誰が見てもそう予測しただろう。
ところが女の子はスタジオに入るとマイクではなくスティックを握っていた。彼女は女子高生ドラマーだったのだ。
顔色悪い君はギターボーカル、人の良さそう君はベース担当だった。
さらに驚いた事に、女子高生ドラマーはドラムを始めてわずか3ヶ月だという。

それから3時間は練習と言うよりも苦行に近い趣があった。ピストルズの「アナーキーインザUK」のメインのリフ2小節をBPM90で延々と繰り返すのだ。
聞けば、最初はBPM60からはじめて、今90でやっているとの事だった。

ジョーストラマーは「パンクは楽器を手にしたその瞬間から演奏する事ができる。それがパンクの素晴らしいところだ」的なコメントを残しているが、残念ながらそれは嘘だったと言わざるを得ない。

苦行の如き3時間が過ぎた後、メンバーと一緒に喫茶店に行った。
男性メンバーは女子高生ドラマーの努力と将来性に賭けてくれないか、と懇願する。しかし彼女がアナーキーインザUKを完璧に叩けるようになるまで一体どれほどの時間を要するのかと思うと俺は気が遠くなっていった。
メンバーと別れた後、その日のうちに加入辞退をメールで伝えた。
レスポールの重さが身に染みた。次いってみよー。



JIN |MAIL TOThrill freaks offcial web.

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