ブルーにこんがらかって...月人

 

 

TRAIN−TRAIN - 2001年05月07日(月)

私が貴方の存在を初めて知ったとき、貴方は中国残留孤児だった。
その次は弁護士の卵だった。
坂本竜馬もいた。
暫くして、若き日の江戸川乱歩の貴方を見た。ステージの上の「貴方」は銀幕の世界の住人で、私はそれをブラウン管の向うから見ていた。
それから、ステージに立つ貴方を見ることが多くなった。……ブラウン管を通して、ではあったけれど。
そこには坂本竜馬がいた。
竜馬に憧れるツアーコンダクターがいた。
土方歳三がいた。
図書館の館長さんがいた。
自動車整備工場の社長がいた。
星と、アンドロイドのおばあちゃんが好きな少年がいた。
誰よりも仲間が好きで、けれど誰の事も信じきれなかった哀しい志士がいた。

ステージでない場所でも貴方を見ることが多くなった。
宮本武蔵がいた。
警察官がいた。
愛する人を失くした元精神科医がいた。
何にでもなれる。何でもできる。
貴方をひとことで表すとしたら。

「役者馬鹿」が、いちばんふさわしいと思う。
これは私なりの最大級の賛辞。

「役者をやっているから、自分はここにいていいんだという気がする」
全身全霊を込めて貴方は演じる。
その声が、表情が、しぐさが、観客を揺さぶる。
その存在にどうしようもなく惹かれる。

貴方の存在を知ることがなかったら、と考えてみる。
貴方が出演依頼を断っていたら。あの芝居に出ていたら。
貴方の写真が雑誌に載らなかったら。
貴方がオーディションに落ちていたら。受けなかったら。
貴方が芝居を観に行かなかったら。
貴方があのポスターを目に留めなかったら。
背後に連綿と繋がる過去の一場面、あの日あの時、確かにあったいつか。
それが現在に繋がり、貴方の存在を知りえた。
もしも貴方を知ることがなかったら。
私は今、いったい何をしていただろう。
何を考え、誰と出会っていただろう。
何も考えてはいなかったかもしれない。誰にも出会えなかったかもしれない。
或いは、ここにはもういなかったかもしれない。
貴方にとって、貴方の周囲の人々にとって、ここまで決していいことばかりではなかったかもしれない。
けれど、私は、貴方の存在を知りえたことがただただ嬉しい。ただただありがたい。

貴方はステージの上に。カメラの前に。私は客席、或いは銀幕、ブラウン管の前に。
例え願ってみたところで、交錯することなど生涯無いんだろうと思う。それはそれで構わない。
ただ、そこに貴方がいるということに、深く深く、感謝したい。

誕生日おめでとう。
上川隆也さん。





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