2005年08月11日(木)
女の園に隠された秘密


聖心ウルスラ学園の激闘虚しく、創部4年の野球部たちは甲子園の厚い壁に阻まれ、球場を去った。
まぁそんなことよりも、あの球場で、カトリック系の学校の校歌が流れる方が珍しいから、
思わず聞き入ってしまったわ(苦笑)。
まだまだ女子高の名残が強烈にする歌詞を見ていると、それを少年たちが必死に歌う姿と
上手に重ならなくて、そういう危うさ、初々しさが、逆にあたくしを釘付けにした。


うちの地元にも、中高一貫の私立カトリック系女子校があるけれど・・・・とはいえ、
ホントの地元ではなく、川を渡ったところにあるもっと大きな街なんだけど、
この学校の内情を知っている人というのをあたくしはあまり知らない。
現在、昔は女子校だった私立がどんどん共学化されて、残る私立女子校はそこだけになってしまった。
ただ、実際に高校受験を控え、進学の際にとりあえず私立を受ける時の選択肢の中にはあったけれど、
現実的な話、そこへ進学していった同級生がいたかどうかということすら、
情報として入ってこないくらいに、ベールに包まれてしまっている。
ご近所の誰それがあの高校に行ったらしいよ・・・・という噂までは飛び交うものの、
本当なのかどうなのか、誰も最後まで追究しようとしないのも、考えてみれば妙な話だ。
カトリックを宗教としてではなく、教育の要として取り入れているところは多々あれど、
さすがド田舎・・・・どうも宗教というカタチには足を踏み入れにくいらしい。


今では、名古屋の中高一貫女子校御三家と並び称されるくらいに、隣県その他からも
問い合わせが多数あるそうだけれど、実際地元では、意外と影が薄かったりする。

↑ガチです!

訳詞が2番までついているのですが、内容も相当のもんです。
いつかここが共学化されたら、ウルスラに匹敵するくらいのインパクトがありそうだけど、
名古屋の私立女子校御三家が共学にならないのと同じくらいの可能性で、
ここも揺るぎないかもしれない。


今でもたまに思う。
女ばかりを集めて、何を教育するんだろう?って。
15の頃のあたくしは、その疑問が払拭できなくて、体裁でも絶対に女子高は受験すまいと思った。
で、18になってみてもやっぱりその気持ちは変わらなくて、女子大行くくらいならと思いはしたものの、
2校だけ、女子大の願書は出した(爆)。体裁を受け容れるだけの幅は身についたらしい(爆笑)。
同時に、女性としての適材適所が何であるかが分かり始めてきた時期でもあった。
今でこそナリを潜めたが、当時は更に輪をかけて、怖いもの知らずで何でもアリだと思ってたし(笑)。

当時の教師にも言われたのである(中学の時も、そして高校の時も)。

「オマエさんは女子校には向かない体質をしているかもしれないなぁ・・・・。」

こういった具合で、環境的にも女の園は除外されていったのである(苦笑)。
そうやって共学の高校に行ったわりには、3年次、女子クラスにまんまと入れられてしまうのだけど。
つまんなかったわけではないけれど、こりゃ、学校全体がこんなだったら思いやられるな・・・・と
感じたことはある(笑)。日常的最低限の羞恥心を養うには、この体制は確実に不向きだと。


まぁ、そういう経緯を経て今に至るわけなんだけど、別段、男子校、女子校を蔑視しているわけでも
否定しているわけでもない。
その中で揉まれることによって、もがき苦しんできた人を大学に入って以降、
結構周囲から聞かされたので「お気の毒に・・・・」と思うことがわりと頻繁にあったというだけ。
誰に出身校を言っても憚ることのない、有名なところを卒業していても、
その校名が邪魔をして生きにくい・・・・そんな人にも出会ってきた。


同じ大学に、所謂、女子校東大御三家といわれるところから何でかこっちに来てしまった
変り種の女の子がいたんだけど、彼女がある日、つるむメンバーが全く違うあたくしに声をかけ、
「ちょっと話を聞いてくれる?」と喫茶店に誘った。
彼女とサシで話をするのは、この時が実質初めてだったかもしれない。
彼女は、おもむろに写真週刊誌を取り出して、「この記事を読んでみて」と、あたくしに渡した。
そこには彼女の母校である高校のネタが特集記事として掲載されていて、
知られざるトップ進学校の実態・・・・みたいに銘打たれて、あれこれと書かれていた。
彼女も、コレは事実だから仕方がないと認めてはいたんだけど・・・・。


「コレがね、まぁ『世間の目』ってヤツなのよ。」

「でもちょっと意外^^」

「え? 何が?」

「共学でとると思ってた(笑)。」

「だって、この学校の中では宛ら男装の麗人だったもん。このタッパでしょ?
で、私って目立ちたがり屋だから色々やるから、後輩から手紙とかチョコとかいっぱいもらってた。」


「あぁ♪ それならわかるかも。・・・・でも、どうしてあたしにこんな話するの?」

「それはね・・・・。」



男装の麗人・・・・身長170cm超の彼女は、舞台の上でも、踊っていても、とにかく見映えがする。
共学と違って男子生徒がいないから、大柄の女子生徒で目立つ存在となると、大いにあり得る。
特に彼女の場合、女子高出身という肩書きがついただけで、それがすごく似合うような気もしたし。
彼女は少しだけためらったけれど、意を決したように語り始めた。


「夕雅はこっちの高校事情を知らないと思ったから。で、その上でどう感じるか聞いてみたいと思ったの。
少なくとも関東近県の子たちは、皆、この高校のことを知っているわけだから、
どうしても色眼鏡で見られちゃうし、どうしてここを出たのに六大行ってないのかって言われたら
自分でも、この学校の看板にしがみついてるような気がしてきてね。」


「ふ・・・・む・・・・」

「それにホラ、私、一浪して予備校に通ってたんだけどね。
その時のクラス分けでさ、目指す大学によってランクがあるのよね。
同じように一浪して入ってきた●●いるじゃん? 彼と一緒のクラスだった時に、正直、
私はショックだった。」


「どうして?」

「あの高校出てたらね、あの予備校では間違いなくトップクラスに入れられるのよ。
●●の出身校を聞いて、『どうしてこんなヤツらと一緒に授業を受けなきゃいけないんだ!?』って
瞬間的にムッと来ちゃってね・・・・プライドばっかが邪魔しちゃってさぁ。
ここに来てからもしばらくそんなのが続いてたんだよね・・・・。」


「そうかぁ・・・・そうだったんだね・・・・。頭がいいとそういう悩みもあるんだね。」

「頭がいいとか悪いとかじゃなく、どっかで捻じ曲がっちゃったみたい。
ここではそんなプライド、通用しやしないのに・・・・皆のこと、どっかで見下してた。」


「ここに書いてあるのって、全部ホントだって言っとったよね?」

「あぁ・・・・ほとんど間違いない。」

「じゃあ・・・・サエコ
(仮名)がたとえ奢り昂ぶってしまったとしても、
それはサエコのせいじゃないんじゃない?
現にこうして、自分の醜い部分を曝け出せるのって、時間かけたからって出来るもんじゃないと思うし。」


「・・・・地方から出てきた夕雅のことも、見下してたかもしれない。」

「あはは♪ あたしは高校の時から落ちこぼれで、ここに入れたのも奇跡やもん。
田舎の県立で進学校っても中堅クラス。サエコのとことは比べ物にもならへんよ♪
自分でもわかってる。確実に底辺を支えて平均偏差を下げてる側やってことくらい(笑)。」


「イヤなヤツだよね・・・・私。」

「そうかなぁ・・・・?」

「・・・・・・・・??」

「もっとタチの悪いのなんていっぱいおるよ。あたし、東京来て、良かったなぁ♪」

「何で?」

「サエコみたいにさぁ、ホントにトップの学校行ってた人に田舎やと会えへんし。
地元の県立から地元のちょっと名前の知れた女子大行って、それが妥当に一流って勘違いしとるヤツ、
結構おるもん。地元ではちやほやされるからいい気になって、他人を見下しとることにも気付かんの。
サエコの話を聞いた後やと、ホント、そういう子たちが恥ずかしく見えるわ(笑)。」


「なんか、いいなぁ・・・・夕雅は。」

「何でよ?」

「帰る場所がある。」

「うん・・・・そうだね・・・・そうかもしれないね。」

「東京生まれ、東京育ちってさぁ、時々不便なんだよね(苦笑)。」

「サエコはさぁ・・・・自分の学校、好きなんでしょ?」

「うん・・・・好きだし、楽しかったし。でもそこから出ると他に縋るものがなくて
情けなくなるよ。自分の方ができるのにって他人のことを見下すような真似して、で、焦るし。
ここまで来るのに周りの人を不愉快にさせたと思うとさぁ・・・・やりきれなくなっちゃって。
この記事が出て、初めて自分の姿を突きつけられた気がして、ちょっとイヤだったんだ。」


「(雑誌見ながら)でも、ホントにすごいとこだったんだねぇ・・・・サエコの学校。」

「ほとんど全員が東大目指してるよ。」

「サエコ、燃え尽き症候群にならなくて良かったじゃん♪」

「そうか・・・・そうだね(笑)。」

「楽しかったんやから、母校を悪く言ったらアカンて♪」



そうしてこの後もあたくしは彼女から、この有名進学校の中がどんな様子だったのかとか、
高校時代にあった面白い話とかを聞くことが出来て、ちょっと得した気分だった。
ここまでトップクラスの人間が同じヤードに立っていること自体が、俄かに信じられないというのも
確かにあったけれど、それでも、見下されていた過去の事実には何でか腹は立たなかった。
彼女は写真週刊誌を差し出しながら、本当に恥ずかしそうに、スラリとした長身を縮こませていたのだ。

彼女は普段から本当に溌剌としていて、長身に対するコンプレックスもほぼ皆無だったし、
寧ろ、その恵まれた肉体を余すことなく存分に利用しながら生きているようにも見えたから、
正直羨ましかったのだ。
それに加えて、この時明らかになった彼女の学歴を目の当たりにして、
こりゃ、鬼に金棒というのかもしれない・・・・と妙に感心してしまったことを良く覚えている。
確かに、学歴が人間を左右するなんて昭和的な考え方は、それこそ奢り昂ぶっているかもしれないけれど
彼女はこの大学に辿りつくまでに、他人以上に努力をして、きちんと己を磨いてきたんだから、
それを非難してはならないと思った。
培われたプライドも、彼女の実力と努力がそうさせているものだと思ったし、
そのプライドは、時に捨てなくてはならないかもしれないけれど、持ってて無駄なものでもないと思う。

ただ、彼女は自分の予想以上に育ってしまったその高いプライドを持て余して、
この時だけは身動きが取れなくなってしまったようだった。
自分の母校を出して会話をすると、ともすれば「それって自慢話かよ?」と相手にもされないという
とても厳しい現実が、数年間にも渡って、彼女を苦しめ続けていたのだろう。
だから、話相手としてあたくしを選んだ・・・・と、彼女はそう言っていた。
事実、写真週刊誌を見るまで、サエコの高校がどんなところだったのかも知らなかったわけだし。


ここから彼女がどうなっていったのかというと、卒業するや否や世界に飛び出し、
あちこちを転々としてはたまに帰国。
大好きなダンスをやりながら、昔の看板にとらわれることなく、1個の人間として
伸びやかに生きているというのを風の噂で聞いた。


グワッと悩みぬいた人というのは本当に強いんだなぁ・・・・そう思った。
自分のいるべき居場所をきちんと見極めるのには、とても時間がかかるものだけれど、
彼女に刻まれた過去が、これほどまでに彼女の青春に重圧をかけていたとは。
彼女の言う「世間の目」に逆らわないように生きていくのも、またその逆をいくのも非常に難しい。
何を以って「いい学校」とするのかはわからないけれども、
自分の母校をいい意味で愛すればこそ、そこにプライドが生まれ、生きる縁にもなる。
レベルの高低に関係なく、それは同じことなんだなと思った。

↑愛校心はあるよ♪

隣の芝生は青いというが、やっぱりあたくしの場合は女子高にいかなくて正解かな・・・・と思ったり。
昭和の公立で、ビシバシやられた雑草のようなこの育ちも、満更悪くないと思っている♪

あさみ


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