昨日、あづみが何気なく漏らした一言が、ずっと頭の中でグルグルしている。
「夕雅、あんた、いい母親になると思うよ。」
いい母親って、何だろう。 そればっかりを考えていた気がする。 彼女の子供がどれだけぐずっても、あたくしは笑顔でいられた。 子供だもの、意思の疎通のために泣くんだもの、そのリズムをわかってあげられたらきっと素敵・・・・ この程度にしか考えてなかったんだけど、
「虐待したくなる母親の気持ちっていうのもわかんなくもないけどね(笑)。 だけど、こんな小さな子を叩いたところで、何にもならないと思うのよね。」
あづみは笑いながらスンナリとそう言った。とても率直で素直な意見。 だけど、彼女はジュニアがぐずっても、怒り出したりしない。 前の晩だって、散々ジュニアに振り回されて、とても疲れているだろうに、それを顔に出さず、 ニコニコと笑っている。
あたくしにそんなことができてしまうだろうか。
彼女のジュニアのお相手は、今日一日限りのことだから、どんなことだって辛抱がきく。 劈くように激しく泣いている赤ん坊を、疎ましく思ってしまう瞬間だってあるだろう。 そして、「完全」を求めてしまうだろうから、きっとすごく些細なことで苛々したりするのかもしれない。
自分の子だったら、そういうのも全部乗り越えられるのだろうか? 彼女のように笑って、ぐずる子供の要求をきちんと満たすことができるんだろうか? 母親像がないのに出産や育児なんてムリムリ・・・・そう言った、やんちゃな医者もいて、 あたくしはその言葉に相当凹んだんだ。 そして、ムカついた。
あづみの目には、どんなふうにあたくしのことが映っていたんだろう。 あたくしの心を見抜いてはいなかっただろうか・・・・。
「ミカ(仮名)が子供を産んだ時にね、産むや否や、まず手脚の指が5本あるかどうか確かめたんだって。 あたしなんか、ダンナに言われるまでそんなところにまで気が回らなかったよ(笑)。」
「うん・・・・でもそれはさぁ、もうこの子を1つの命として受け止めてたからなんじゃない?」
「ま、あたしが脳天気すぎるんだけど(笑)。確かに手とか足とかがなかったら、 さすがのあたしもヒイたかもしれないけど、生まれてきてくれただけでそれでいいやって思うもんね。」
「あたしだったらどうだろう? 今、初めて考えたよ。手脚がないとか、指が足りないとか。 妙に完璧主義なところがあるからさぁ、あたしも。」
「ミカがそうみたいやよ。自分が思うとおりに育てたくって、それから逸れると 結構イライラきちゃうみたい。 小さいことでイライラしてると、やってられないからさぁ、子育ては。」
「あ・・・・多分、あたしも今のままだとそうなっちゃうかもなぁ(苦笑)」
「そうかなぁ・・・・? 夕雅だったら大丈夫だと思うよ^^」
「とりあえず、あづみを見習うことにするわ♪(笑)」
あたくしが「おかあさん」になる時は、きっとまだまだ先のことだろうけれど、今のままでは思いやられる。 何を以って「いい母親」なのか未だ全くわからない。 毎日、毎日、泣いて主張を繰り返す我が子のことを、あんな笑顔で対峙できたら、 きっとそれはいい母親なのかもしれないけれど・・・・あたくしには正直、自信がない。 けれど、その時はきっとやってくるんだ。
あたくしにも同じように、そんな笑顔を溌剌と出せる日が来るのかな・・・・。 もし、そうなれたら、きっと子供より、あたくし自身が幸せだなぁ・・・・♪
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