その昔、きみの声が好き、と言ってくれた男性がいた。 その昔、きみの顔が好き、と言ってくれた男性がいた。 その昔、きみの芝居が好き、と言ってくれた男性がいた。 その昔、きみのほっぺが好き、と言ってくれた男性がいた。
全員、程なくして、あたくしの前からは去っていった。
その昔、きみの価値観が好き、と言ってくれた男性がいた。 その昔、きみの言動が好き、と言ってくれた男性がいた。 その昔、きみの突拍子もない行動が好き、と言ってくれた男性がいた。 その昔、きみのどうしようもない想像力が好き、と言ってくれた男性がいた。
全員、今でも親友と呼べるほどの、よき友人であり続けていてくれる。
そんな中、ぷよ2はこう言った。
「俺は夕雅先生の匂いが好き。」
あたくしもその瞬間、気付いたのかもしれない。 「匂いが好き」ということは、全部を受け容れていてくれる証拠なんだって。 だからこの人が伴侶になった。あたくしの前からは去らなかった。
あたくしには、ぷよ2の好きなところと嫌いなところが同じくらいあって そりゃ、もう、我慢ならないことや愛しくてたまらないことも混在して、 故、どこが好きなのかっていうのがわからない(笑)。
でも、ぷよ2が言うのと同じように、あたくしもぷよ2の匂いが好き。
考え方とか価値観とか、美的感覚とか主義主張なんて、流動的で、どんな頑固者でも いつかは何かに影響されて少しずつ変わっていく。 匂いもそうなのかもしれないけれど、一緒に暮らせば暮らすほど、愛しくなるのかもしれない。
嗅覚が他の人よりも鋭いのか、あたくしは匂いに記憶がグワッと入り込んでいて、 例えばセブンスターとか、例えば皮の使い込んだ香りとか、例えば木蓮のすがしい香りだとか、 例えば雪の水分だとか、ありとあらゆるものの匂いが記憶の凡そを構築している。 無駄に昔のことを覚えているのも、その匂いが漂ってきた瞬間に、忘れかけてたものが グワッとフラッシュバックして甦ってきてしまうのだ。 そのフラッシュバックに、新しい記憶を塗り重ねたりして今日まで生きてきた。 セブンスターは、それこそあっちゃんの匂いだったけれど、今では違う。 既に自分のものになっていたり、或いはぷよ2のものだったりする。
確かに、自分の表面を良く観察して「そこが好き」といってくれる人にとって、 あたくしはそれだけで存在価値があったのかもしれない。 あたくしの価値観や意識に迎合して、面白いヤツだと思ってくれた人にとってもそうなのかもしれない。 しかしその中に、「匂いが好き」と言ってくれた人はほとんどいなかった。
あたくしは、香料の入った化粧品や香水は一切つけない。 唯一、シャンプーがあたくしを取り巻いている付加価値的な匂いなのかもしれないけれど、 あたくし自身、あんまりそこに重きを置いてはいない。 不自然な清潔感の象徴:石鹸の匂いも周囲に漂わせていないし、 どちらかというと、食べた物そのものの匂いがあたくしには残っているのかもしれない。 その証拠に、わりとニンニク料理を物凄く思い切ってやったりする(笑)。 部屋に染み付くことや、後先のことを考えていないこのあたくしのそんな匂いまでを、 好きだと言える、あのオトコには脱帽する(笑)。
でも、時には他人の力を借りて、自分の存在価値たるやを確認したくなるのが、人の常。 仕事がパタリと来なくなった瞬間に、病状が悪化していったと考えると、非常に辻褄が合う。 占い主義ではないのだけど、あたくしのホロスコープやその他資料を見渡すと、 丁度30〜35歳くらいが、何物にも邪魔されず、シンプルで穏やかな暮らしが出来るんだそうだ。 確かにシンプル。確かに穏やか。 この結果を導き出してくれた人は、確か23のあたくしを見て、こう予測した。 当たってるだけに、占いの存在を否定できない(爆)。 加えて、その前の時期に当たる、24〜30歳までが稀に見る激動、波乱、落下の運勢というのも 既に通り越して当たっているだけに、ますます存在価値は否定できないというわけ。 結婚を経て、名前が変わるというのまで予測していたことになり、 アレだけ総画波乱運だったあたくしの名前も、すっかり波乱からは逃れた、穏やかな数字になり、 ビックリするほど安定してきている。 嗚呼・・・・今までの人生、何だったんだろう、一体(爆)。
ただ、コレだけは言える。 寸分たりともの無駄はなかった。 やり直せるとしたならば、3〜4歳まで遡ってやり直したいが、根本同じだとしたら、 きっと興味を持つものも同じだろうし、受ける影響も同じだろう。 やり直しをしたとて、きっと、同じ道を選択するんだと思う。 そして、「もし生まれ変わったら・・・・」なんてことは言わないけれど、 伴侶には、結局、ぷよ2を選んでると思うんだよな(笑)。
某のど黒飴のCMに出てくる、「と●くろちゃん」にそっくりなぷよ2なんだけど、 あたくしの存在を絶対、否定しないから、あたくしは安心して生きていけるんだ。 それ以上でも、それ以下でもない、「匂い」というあるがままの存在価値で。
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