2005年01月30日(日)
きみの笑顔は忙殺の果てに


瞬きをするのも忘れてそこにいる掃除の時間、教室の隅


目の前をこっちを見ながら横切ってきみの笑顔は忙殺の果てに




疲れきっていたのは15歳。
疲れ始めたのは・・・・12歳、13歳くらいからだろうか。
12歳というと小学6年生。年間いくつもの委員を掛け持ちして、
最大同時に4つの委員を抱え込んで、正に忙殺の日々を送っていたこともあった。
それでもまだまだ小学6年生。責任の発生はあるものの、いざという時は先生がいる。
最大4つの別件仕事を並行させられたのも、所詮12歳レベルの仕事だから・・・・というのもある。


これが中学に進学すると、途端に仕事の質が変わってくる。
気を抜くと明らかにミスをしてしまうようなハイレベルなことを要求される機会も
徐々に増えてきた。
13歳と15歳が同じ学び舎にいる・・・・けれど、小学校を卒業したての13歳(12歳)と、
そろそろ大人への助走を確実に始めようとしている15歳とでは、考えていることや
実践結果のレベルが格段に違う。たった2年しか生まれた年が変わらなくても、
この時期の差は、他のどの年代よりも大きい。
13歳は15歳とほぼ同格のものを求められ、当初は困惑しながらも、それについていこうと
必死に足掻く。そうやって力を付けていく。学力もそうだが・・・・「人間力」みたいなもの。


あたくしは小学校を卒業した日、あらぬ誤解から、同級生とちょっとしたトラブルを起こし、
まぁこっちは、誰の目から見ても明らかな被害者なわけなんだけど、
卒業式のその日に改めて学校へ呼び出され、担任と学年主任がいる前で、
事情聴取みたいなことをされた。
その日のうちに、加害者の少女からは謝罪の電話が入ったが、中学へ進学したら・・・・
と考えるだけで、頗る気が重いのであった。
小学校では目立ちすぎたんだな・・・・ちょっと優等生にも疲れてきたし・・・・。
中学に入ったら、目立たないように大人しくしていよう。
一番気楽なはずの春休み、あたくしは家からほとんど出ずに、13歳の誕生日を迎え、
そうして中学へ入学していった。


入学式当日。
早速、学級委員を決めなければならなくなった。
あたくしにとっては、最も気が重い議事なのである( ̄∇ ̄;)
同じ小学校の子たちは全員同じ中学に来ているので、あたくしのそれまでの素行は
隅々にまで知れ渡っていたから、立候補者がいない場合、どうしても白羽の矢が立ちやすい。
・・・・と思っていたら、違う小学校から来た、大沼(仮名)という太った少女が
元気よく挙手をした。・・・・おぉ。こういうキャラは非常に助かるなぁと思っていたら、
この中学では「学級4役」というのを決めねばならなくて、学級委員の補佐として
書記・会計というのが選出される仕組みになっていた。
男子の学級委員は、あたくしと同じ小学校からの委員常連の少年が皆の推薦でしぶしぶ許諾。
教卓のまん前に座っていたあたくしが、すぐに先生に見つかって、書記を勝手に任命され、
会計には、男女比と出身小学校の比がちょうど2:2になるようにと、大沼と同じ小学校から来た
シンが誰かの推薦で選ばれた。


これが、あたくしとシンの実質的な最初の出会いでもあった。


なるべく面倒なことは避けたかったので、あたくしはクラスの中に6つ編成される班長にすらならなかった。
まだ、互いの特徴、性格、得意なラウンドを知り得ない同士なので、先生がランダムに班長を選び、
そして、副班長も同様にして選んでいった。
これにも確固とした根拠があって、小学校の頃の素行調査票みたいなものが存在するのであろう。
先生がランダムに選んだ班のメンバーは、学力的にも体力的にも、
加えて、個性的にも非常にバランスが取れており
あまりの情報漏洩振りに、13歳にしてのけぞった記憶がある( ̄∇ ̄;)


あたくしはシンの班と同じになり、俗に言うやんちゃな厄介者の少年の世話を同時に言い渡された。
この少年は、授業中に勝手に脱走するわ、遅刻早退の常習犯、無論成績も芳しくない上、
現代でいう「授業妨害」のようなことも平気でやるような、当時は稀有な存在であった。
この少年が行方不明になると、シンも教室を飛び出して捜索にあたり、
その間あたくしはというと、勝手に授業が進行しても大丈夫なように、
やんちゃな少年のことはともかく、シンが授業に遅れないように、
きちんとノートをとり、フォローにフォローを重ね続けた。

この時は、まだ、シンのことを取り立てて好きではなかった。
あのやんちゃな少年の世話をとことんまで見続ける、そのお人好しなところには、正直、呆れたけれど
根が優しすぎるんだなぁ、きっと・・・・くらいにしか思っていなかった。


授業の進行もそうだったけれど、やがて、どんどんとあたくしの仕事も増えていき、
部活も忙しくなっていった。脱走少年の素行も相変わらずで、手を焼いていた。
そのうち、あたくしは、家でも学校でも上手に気を抜くことができなくなっていて、
ふと気がつくと、瞬きもせずに一点をボンヤリと凝視するクセがついていた。
授業中は真面目に話を聞いているのだけど、10分間の休み時間、掃除の時間、
何か作業をしている時に、ふっと座り込んで、いつまでもそのままの姿勢で、
何かに遮られた世界へ行ってしまうことが増えていった。


ある日のことだった。
掃除の時間、雑巾を握り締めたまま床に座り込んで、教室の後ろからガランとした
黒板下の壁を見つめていたあたくしに、初めて声をかけた人間がいた。
シンだった。


「お〜い。」

「??」

「しっかりせぇよ?」

「あぁ・・・・うん・・・・。」

「そんなに面白いもんでもあったか??」

「別に。」

「しかし・・・・」

「何よ?」

「大きい目やなぁ(笑)。」



笑いながら去っていく、シンの背中をそのまま目で追った。
ボンヤリと見ていた。輪郭のハッキリしないままの視野の中に彼はいた。
そして・・・・初めて気付いた。
嗚呼・・・・好きなのかもしれない。この人のことが好きなのかもなぁ。そう思った。


この日を境に、あたくしの視野にはいつもシンが必ず入るような生活になった。
班が別々になっても、クラスが別々になっても、チャンスを狙っては彼のことばかり見ていた。
疲れきって、ボンヤリしていると必ず、シンが笑っているように見えた。
そうして少しだけ元気をもらって、また、忙しい毎日へ帰っていく・・・・そういう生活が続いた。
決して楽しくはなかったけれど、幸せだったと思う。

↑本当に忙殺された。


誰も気付かなかったあたくしの鎧と、空想の世界に彼はすんなりと入ってきた。
いや、多分そうじゃなくて。
彼しか入ってこられないように、あたくし自身が用意周到に仕掛けていたのかもしれない。
どっちでもいいや・・・・。
疲れていたあたくしを、彼はきちんと癒してくれたんだから。
だから、気づいてくれた時は、普段、鈍感な振りをしているだけに
すごく、すごく、嬉しかったんだ。
灰色の世界に、ひとしずくだけ、ぽつんと、色がつくようなそんな感じ。
この恋は、中学を卒業するまで、ずっと続いたのだった。

↑思春期なんて、そんなものだよなぁ。

あさみ


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