2004年05月31日(月)
愛の宿る手


いらつきながら視聴を続ける「オレンジデイズ」(爆)。
柴咲コウちゃんが好きだからという、ただそれだけの理由になってきたんだけど、
最初は違ったわけ。
で、今も少し違う。


実はあたくし、こう見えて(どう見えるんだか( ̄∇ ̄;))
中学の頃には既に本格的な手話に興味を持ち始めていて、独学で色々と覚えたりしたんだけど、
簡単なあいさつや、固有名詞を表す時の指文字を少し、喜怒哀楽の意思表示、
あと、日本独特なんだけど、「色」の表現を何色か覚えたのが関の山で、
とてもじゃないけれど、会話に追いつけるレベルではなかった。


最初に興味を持ったのは、小学生の時だった。
ある歌の歌詞を、歌いながらそのまま手話で表現する・・・・というのをやった。
「愛する」
「そばにいて」
「もしも・・・・」
「●●のような」
「花」
「友達」
そんな言葉が出てきて、そのへんのことは良く覚えている。


高校時代は芝居にのめりこんでいて、最初のチャンスである「時間」を全てそちらに注ぎ込んでいたので、
手話からは遠のいた。
で、大学に入った頃・・・・。
ここは思い切って、本格的に手話を覚えようかなぁ・・・・と、時間と心の余裕が持てた瞬間、
あのドラマが始まってしまい、空前の大ブーム・・・・自治体とかが格安・もしくは無料で開設している
『手話講座』の定員があっという間にいっぱいになり、またあたくしは、手話を学ぶチャンスを逸した。

「愛しているといってくれ」

豊川悦史、常盤貴子主演の、空前のヒットドラマだ。
確かにいいドラマだと思う・・・・だけど、このドラマのせいで、手話への関心が俄かに高まったのと同時に
本当に手話を必要としている人たちが、瞬間的に困ってしまったのを皆様は御存知だろうか?
手話を学ばないと、日常生活に支障を来す人だっているのだ。
そういう人たちが学ぶスペースを、ドラマに影響された俄かファンに侵食されて、
ボランティアの人たちも困惑していたんだという。

多分、「オレンジデイズ」の影響で、また小さな波が起きるだろう。

あたくしの時間がある時に限って、このようなドラマを放映するTBSがなんか恨めしい(苦笑)。
落ち着いた頃に、どこかのサークルを探してみよう・・・・(-。-) ぼそっ



うちの実家の店の3号店の開店の手伝いに行った時、店を訪れてくれたお客さんの中に、
明らかに、耳の聞こえない人がいるのをあたくしは逸早く察知した。
開店祝いの粗品を配っていたのだけど、粗品を配っているところには常に人だかりが出来ていて、
その人たちはちょっと遠巻きにこちらの事を見ていたのだ。
あたくしは粗品一式を抱えて、その人たちのところに出向いていき、どの品がいいか伺ってみた。

「この中のどれかひとつなんです。どれがいいですか?」

拙い、通じているかどうかもわからない手話で聞いてみた。
すると、その老夫婦はニッコリと笑って、卵のパックを手にしていった。
あたくしは今度は大きな声で、ありがとうございますと言った。
彼らはあたくしの手の動きを見て、またニッコリと笑って、嬉しそうに帰っていった。
3年くらい前の出来事だったかなぁ・・・・この時、まだあたくしは体力的に余力に乏しく、
「何かを習う」というと、とにかくはダンスで体力づくりをしたいなぁと考えていた時期だったんだけど
瞬間的に、「ああ、やっぱり手話って面白いんだなぁ・・・・」と感じていた。
もっともっと沢山のことを伝えられたら良かったのに、ただ、「ありがとうございました」と
何度も何度も、その人たちのためだけにあたくしが繰り返した手話は、
彼らの胸に届いていただろうか・・・・?


そういう「前」があったのを踏まえて、じれったく「オレンジデイズ」を視聴しているわけなんだけど、
とても優しい「手」を持っている人がいるのに気付いた。

小日向文世氏だ。

彼は大学の先生(教授?)の役なんだけど、昨日ハッキリとその手話を見た。
様々な役ができる、マルチなバイプレイヤーとして昨今極光を浴び始めた彼なんだけど、
とても優しい、温かい「手」の表情を作る人だなぁ・・・・そんなことを思った。
毎回のように、柴咲コウちゃんの手話は歯切れがよく、こちらも声を使わずにして
よくここまで表現出来ているなぁ・・・・と感心しつつ、妻夫木の方は、まぁどっちでもいいや、
みたいに見てたんだけど、昨日の回、大学の一角で、会話をする教授と沙絵のシーンでの
小日向氏の手話は、全てを手話で表現しきるのではなく、とても表情豊かで、
あれなら、読唇術が有効に使えるなぁと思えるくらいに、柔らかい表現で、正直ビックリした。


役者たるもの、いつどんな役が来るのかわからないものだが、見事に自分の中に取り込んで、
きちんと消化した上で演じているのがわかったので、凄く納得のいく1シーンだった。
まぁ、見る人が見れば、「あんなもの・・・・!!」となるのかもしれないけれど、
手の動きが織り成す「温かさ」や「柔らかさ」は障害者も健常者も関係ないと思っている。




どうしてそんなことが言い切れるかというと、あたくしはその昔、「神の手」を見たことがあるからだ。
中学1年の時だった。
音楽の先生が酷い風邪をひいて、代わりに、教頭先生が音楽室にやってきて、
我々の授業を代行して引き受けてくれた。
この教頭先生は、日本の音楽の授業で初めてリコーダーを導入したという功績を持っている人で、
だから偉ぶっているのかなぁ・・・・と思ってたんだけど、そうではなかった。
あの、洗脳教育推進校の中において唯一、「音楽」を「音学」にしなかった先生だ。

とても柔らかい声をしていて、ソフトな印象の男性で、彼が指揮を振ると、
何故かすぅ〜っと声が引き出されるように出て、その授業が終わった後、

「あれは一体何だったんだ!?」

「魔法にでもかけられたような気分だ!」


と、クラス中が大騒ぎになった。特に、男子生徒の変貌振りが凄くて、
今までどうしても出なかった音域が、ソフトで柔らかい声として発声できるようになっていたので、
女子生徒たちも、その結果を見て、本当に驚いていたのだ。


「いつもピアノを弾いていてくれる人は誰ですか?」

「私です・・・・けど・・・・」

「それでは、少しの間、お願いしますね♪」



いつもピアノ伴奏をしていてくれていた、アミちゃんがおずおずと挙手をして、
促されるままにピアノの前に腰掛けると、教頭先生は、ニッコリと笑って我々の前に立ち、
いつもの音楽の先生がやってくれないような、面白い授業を施してくれた。
それこそ、催眠術にでもかかってしまったかのように、皆、彼の手の動きから目が離せなかった。

・・・・あぁいうのを、カリスマっていうのかなぁ?

「1年生はまずは大きな声を出すことが大事だといつも言われていると思いますが、
大きな声は勿論大事ですよ♪ だけど、怒鳴ってはせっかくの合唱も台無しです。
だから、優しく歌いましょう。高い音も無理をして出すのではなく、出るように工夫をしなければなりません。
さぁ、最初の音をくださいな♪ そのまま、8小節だけいきますよ♪」


アミちゃんがB♭の音を出す。
この曲の頭8小節は全パートのユニゾンで、オマケに前奏もない。
初級編の合唱では、指揮者の手腕も問われる。
それがどうだ・・・・?
今までまとまりのなかった、うちらのクラスの各パートが、まるで魔法にかかったかのように
ピタリと一致して、頭からきちんと出るではないか・・・・?


教頭先生の声は美しいテノールで、その声で以って、そのままソプラノ子達の指導もしていた。
無論、いつもは女性教師が悪戦苦闘しつつ、男声パートを確立させる作業にしても、
教頭先生にかかってしまえばお手の物。
たった1回か2回の彼の授業で、うちらは学ぶべきものを全部学んだような気分になった。
その時の、本当の音楽の先生のことは決して嫌いではなかったけれど、
あの、優しくて穏やかで、柔らかい表現をする壮年男性独特の、美しい動きは
本当に隔絶した何かがあって、教育であるとか指導であるとかといった枠を超えて、
彼は一緒に音楽を「楽しんで」いたと思う。

以後、この教頭先生の音楽の授業は我々の間でも物凄い噂になって、学年の中を駆け巡った。

「うちのクラス、教頭先生の授業1回少なかったぞ??」

「うち、3回とも見てもらったよ〜♪」


評判の良さは、格別であった。
そのうち、教頭先生のことをマラドーナのように「神の手を持つ男」と称する男子とかが出てきて
でも、その表現はあの教頭先生の物腰柔らかな雰囲気にピッタリのような気がして、
あたくしも、「神の手」賛同者だった(笑)。

今でも鮮明に、あの先生の柔らかな指揮や、高らかでいて膨らみのあるテノールを思い出せる。
初見の楽譜を簡単に弾きこなし、お茶目に何か別の旋律をを付け足して、男子生徒たちを和ませた上で、
笑いを誘いながら、あんなに楽しい授業はあの学校にいた中で、あの時だけだったかもしれない。
教頭先生がピアノを弾く姿そのものが新鮮で、男性らしく力強いものの、
何故かそこには、いつも優しくて柔らかな空気が漂う、不思議な人であった。
まるで、「無抵抗ですよ・・・・」というメッセージを送るかのように、我々に掌を見せながら
合唱の指揮をとる彼のやり方は、けだし、正解なのかもしれない。
以後、あたくしも、曲によっては彼のこの方法を真似するくらいだったから。

↑魔法だと思った。。。

愛の宿る手・・・・というのは、小日向氏の手話のような、教頭先生の指揮やピアノのような
我々を和ませて、温かで、余裕を生み出してくれる手。

実際、昨日の小日向氏のシーンは、ドラマ全体は見ていてじれったく、所々小忙しいのに、
あのシーンだけは、何故かとても和やかで、何故か見入ってしまった。
「目は口ほどにものを云い」というが、「手」もまた然りだと思う。

あさみ


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