今日、起き抜けに新聞の占い欄を見たら、運気が最高潮になっていると書いてあった。 ふぅ・・・・。 気休めでも、そういうことが書いてあるのを見るだけでも、あぁ今日も生きていける気がするよ、 そんなことを思う。 六曜を見ると、大安だし(笑)。 今日は、ひょっとしたら本当に何かいいことがあるのかもしれないなぁ。 のんびりとそんなことを考えていた。
丁度、正午頃だった。 珍しく、薬の効きが朝になっても残ったまま、少しだるくて、横になっていた。 ここしばらく、熱も少しずつ下がってきていて、体調も少しずつだが良くなってきていたものの 思い切った減薬をすると、すぐにぶり返すので、そこのところの調節を慎重にせねばと 夜、飲む薬の量や時間をあれこれ工夫する段階までこぎつけていた。
そこへ一本の電話が入った。山賊からだった。
・・・・芝居に出てみないか?
という用件だった。 少し前から、話だけは出ていたのだけど、「空間演技」という劇団の主宰者が うちのお店を訪れてくれたらしく、そこで、あたくしの話も出たらしいのだ。 あたくしは今、ご存知の通り、別件でミュージカルを抱えているわけだけど、 もし、興味があるならば次の芝居に・・・・という話が飛び出していたのだ。あたくしの知らないところで。
在京時代だったならば、二つ返事で引き受けたと思う。 ギャランティなんて、二の次三の次、出られるんだったら何だってやります! みたいな勢いで、すぐに飛びついたと思う。
今のあたくしは、それが出来ないでいる・・・・ちょっと情けない。 とりあえず、今度の公演のことで頭がいっぱいで、別のことを考えることができない。 あたくしはフリーなので、自分で自分の管理をしなくてはならないので、 次の予定をいつどのように入れるかというのも、自分の意志決定にかかってきている。 体力との相談、お金との相談、そして何より、今の拠点がこのド田舎だということを念頭に置くと フットワークが重くなる・・・・というのも事実で。
実は、山賊にはまだ詳細を話していないのだけど、 プレ結婚のために、2月の公演が終わったら、少しずつ新しい生活のための準備をしようと ぷよ2と2人で計画していたのだ。 いつ頃から新しい住居を探し始めて、大体いつ頃には、その拠点を移して、 皆様にそのご報告やその他を兼ねて、入籍するのは大体いつくらいで・・・・というのも じんわりと視野に入ってきていた矢先の話だったので、あたくしも咄嗟に返事が出来なかったのである。 このことに関しては、先方のご両親とサヨコは既に了承していたものの、 まだ、肝心要の山賊には決定事項として話を通していないのであった。
この芝居・・・・旅公演になるそうだ。 となると、最低でも3ヶ月は家を空けることになる。 稽古期間を合わせると、もっと長期になるかもしれない。 「空間演技」の拠点は川崎から横浜にかけて。神奈川県の劇団だ。 少し調べてみたが、かつての旅公演の日程を紐解くと、割と九州地方に出向いている事が多く、 今回、どんな芝居になるのか、まだ本も上がってないそうだが、 とにかくプレ公演は横浜近辺、そして、そこからの全国行脚で、一体どのくらいの期間、 そしてどこへ行くのか、さっぱりわからないまま、山賊は電話を切ってしまった。
この話を持ってきてくれたのは、無論、岐阜労演の人だ。 前の芝居・・・・「キネマの天地」のあたくしの演技を見てくださった方が、推薦してくれたのだ。 この事に関しては、感謝してもしきれないくらいだ。 力はある、だからまどろっこしいことは抜きにして、出るか出ないかだけをハッキリさせよう。 「空間演技」という劇団としてのオーディションをすっ飛ばして、あたくしの意志表示ひとつで、 出られるか出られないかが決まる・・・・これは凄いことなのだ。 そもそも、ここの主催の岡部氏は、あたくしのことを全く知らないはずなのに、 話を幾許かでも呑んで下さっているところに、まず感謝せねばならない。
その上で、だ。 今のあたくしは、それこそ、旅公演が出来るほど蘇生を果たしているかどうかが 急に心配になった。
「キネマ・・・・」の時は、それこそノリノリだった。 お金を払って見に来てくださるお客様に、失礼のない芝居を提供している・・・・という 自負もあった。 今回のミュージカルにしたって、まず稽古が週に1〜2回ということと、 ペースがスローだというのがあたくしの再生にはもってこいだなというので飛びついた。 無論、その中で、嗚呼・・・・お金を取ってお客様に見せる舞台を創るのだなぁという自覚は オーディションに受かった時点で既にそのカンを取り戻してはいたけれど、 「キネマ・・・・」の時は、まず神経が鋭敏になりすぎるくらいに高いプライドとプロ意識で 身を固めていたような気がする。 ・・・・今回だって、こんなにも出来なくなっている自分に少々苛立っているのだけど、 それでも、何とかして次に繋げるための「リハビリ」のステップとして 自分の中にありったけのものを取り込もうと、これでも必死にやっているつもりだ。
だけど・・・・。 いざ鼻先に、凄い話を突きつけられると、身動きが取れなくなっている自分がいる。
いきなり知らない和の中での生活なんて大丈夫だろうか・・・・。 蓄えのないあたくしは、経済力に乏しいのに、それでも舞台に立つ権利ってあるんだろうか。 舞台に勤しんでいる間は、多分心配はいらないだろうけれど、 事情を知らない人々の中で、もし、大変な迷惑をかけてしまったらどうしよう・・・・。 薬、いつまで持つかなぁ・・・・? 発作、出ないといいなぁ・・・・。 ・・・・本当は死ぬほどやりたい!! ・・・・だけど、今のままではついていけないかもしれない。 でも!! この話を蹴ってしまったら、もう次はないかもしれない。 完全に干されてしまう・・・・。
このまま大人しく主婦になるか、それとも舞台人として生き続けるか。
結婚の話はこの際、遅れようが何しようが、あたくしは構わない。 出来ないなら出来ないでもいい。 ただ、ぷよ2に相談しないわけにはいかなかった。 彼は彼なりにきちんとプランをもって、結婚やその先のことも考えて今の仕事を選び、 あたくしのこともきちんと考えてくれた上で、今浮上している最低限の話をせめて円滑に進めるべく 頑張っていてくれるからだ。
確かに彼にとっては「旅公演」という部分が釈然としないようだったが、 結婚の予定が押すことに関しては、納得してくれた。 後悔するようだったら、やっておいた方がいい・・・・そう言ってくれた。 サヨコも同意見だった。 結婚のことがなかったら、いくらでも応援するし、舞台にはどんどん出て欲しい・・・・そう言った。
思い悩むあたくしは、自分のことが頗る情けなかった。 仕事が来ないことを理由に、「情けないなぁ・・・・」と思うことはあっても、 すぐそこにおいしい話が来ているのに、それを受けるか断るかで悩んでいる時点で 「本当に情けない」自分を創りあげてしまった気がして・・・・。
この話を持ってきてくださった方は、こう言って下さったのだ。
あたくしもその希望に賭けてみたい。そう思った。 返事はまだしていない。本当は、話を持ってきてくださった方に直接お会いして、 詳細を伺った上で、きちんとお返事するのが筋だと思うのだ。 まだ、未知の部分が多すぎて、あたくしは決断を下すことが出来ない。
山賊は今、昼休みで仮眠を取っているので、目覚める頃、もう一度電話をしてみようと思う。 本日分、もしくは明日分に、あたくしの「意志」が載る事になると思います。
詳細がわかりました。 っていうか、リミットは、うんと先だそうです(笑)。 もう・・・・山賊ったら、早とちり( ̄∇ ̄;)
山賊では詳細がわからないとのことだったので、岐阜労演の今西氏の連絡先を教えてもらって、 事の詳細を聞いたら、このような感じだった。
「前に見た『キネマの天地』のような大きな演技をまた見てみたいと思い、岡部先生に夕ちゃんのことを 話してみたんだ・・・・あと夕ちゃんが書いた作品のことについてもね。 そうしたら、岡部先生が次の5月にやる『蜂の巣城』に出てもらったらどうか?と言われたんだよ。 俺は今西の目を信じるよって・・・・。でも、そんな無茶な決め方は双方に悪いと思ったから とりあえず、オヤジさんに連絡してみたんだよ。 焦らずにゆっくりと、大らかに捉えて考えてくれたらいい・・・・。」
・・・・はぁ、本当にありがたい話です。 聞いたらば、この5月の公演は旅ではなく、多分、東京か横浜かどこか一ところでやるものみたいで、 とりあえず「旅公演」じゃないんだぁ・・・・と、それがわかっただけで、何となくこっちの気分もラクになった。
「本当にいつもお世話になりっぱなしで・・・・今回の件もゆっくりと考えさせて頂きます。 できることなら、岡部先生に直接お会いして、お話が出来たらと考えているのですが・・・・。」
「あぁ、それならきちんとした機会を作るよ。その方が岡部先生にも夕ちゃんにもいいと思うし。 それに、心配ならオヤジさんも同席させればいいしなぁ。 私はね、夕ちゃん。また、あの時のような芝居が見てみたいんだよ。 岡部先生は女性の起用がとても上手な方でね、今の夕ちゃんにピッタリの何かを 見出してくれる人だと、私は確信しているんだ。 そりゃ、最初から主役なんかはとらせてはくれないだろうけれど、 女性のいい部分を上手に引き出す人なんだよ。」
「主役だなんて、滅相もありません!! 飛び入りのあたくしは新人同然ですから、 そのくらいの覚悟は出来ております。・・・・本当にありがとうございます。」
今西氏には本当に感謝している。 芝居や文芸の出来不出来を、きちんと第三者的な目で捉えて、評価した上での推薦だったからだ。 そして、その今西氏の目を信じると言って、乗り出してくれた岡部氏にも同様に感謝せねばならない。 まだ見も知らぬ、素性も不明な一人の役者を、それじゃあ5月の公演に出してしまえばいいじゃないか、 と、いともあっさり、GOサインを出せる人間はなかなかいない。
今西氏は、岡部氏の素性についても少しだけ話してくれた。 どうして女性の起用が上手なのか、その原点たるやみたいなこと。
そしてあたくしは、確信した。 きっと岡部氏は、あたくしが大学時代にお世話になったあの恩師に、 非常に感性が似ているんじゃないか、もしくは、重なる部分が多々あるのではないか・・・・。 年の頃も、生きていればあの恩師と同じくらい。 生きてきた時代背景も似ているはずで、その中で、女性を見る始点が重なるのであれば、 あたくしにもこれはきっと大きなチャンスになるかもしれない。
大垣に戻ってきてしまって、大した舞台も踏んではいない。 多分、もう東京に戻ることもないだろう。 こっちで新しい家庭を持とうという決心をしたのだから、それは貫き通す。 だがしかし、東京との距離がこれで少し縮まれば、あたくしは本格的に全国区で 舞台人として生きられるかもしれないのだ。 無所属でも・・・・。
あの時、あの作品に出演していた、あの役者は誰か・・・・。 そういう話になった時に、あたくしは立ち上がればいい。 そのために、身体を1から作り直し、せめて病状を少しでも快方へと向かわせ、 常に「新しい自分」をこの世に用意しておく必要性がある。 生きる「甲斐」というものが、そこに発生する。 絶対に死んではならない。
焦ることはなかった。 完全に干されるわけでもない。 長きに渡る旅に不安を抱くこともない。 ただ、始まりを告げる鐘が、ささやかに鳴っただけのことだった。 でも、この鐘の音があたくしにとっては、どんな答えが出ようとも「救い」に感じ、 今一度、自分を見つめ直す、いい機会となることも確信できた。
ぷよ2の了解も取れた。 あとはあたくしと岡部氏が、双方、納得のいくまで話をするだけとなった。 これが流れても、きっとそこで何か新しいものが生まれるだろう。
それが「出会い」なんだ。
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