中学の頃の話。 ・・・・などと書くと、またあの「洗脳教育推進」についてかよぉ・・・・とお思いの方がいるといけないので もう少し、目線を下げて、クラス内のサミットレベルのところにまで話を下ろしてみたい。
あたくしは13歳の時に出会った、シンのことが日を追うにつれて大好きになっていき、 それが、所謂「恋」であることを自覚したのは、彼とずっと隣の席だったのが 離れ離れになってしまった時であった。 酷く胸が痛んだ。 なるだけ彼の近くの席にいたかったあたくしは、自分の立場を利用して、 通路を挟んで隣の席になるようにと画策したり、手を伸ばせば届くような位置に 自分の存在を置くために、日々努力していた(苦笑)。
2年になり、隣のクラスになってしまっても、同じような努力は欠かさなかった。
3年になった時には、大体、この学校の仕組みたるやを熟知できるようになってきていたので、 逆にそれを利用して、通路や階段を挟んでかなり離れたクラスの彼の近くにいるためには どうすればいいのかを自分なりに編み出していた。
4月。HRで学級委員等が決定されると共に、クラスを6分割して「班」が結成される。 この「班」は、実は、選出された6人による「班長会議」で 誰をどこにもってくるか・・・・というのが自主的な話し合いのもと、決定され、 学習能力、運動能力、特別な仲間意識、そういうのを一旦平均化して、 何かを班単位で行なう際に、偏りが出ないように、普通は担任なども交えて行なわれるものなのだが 3年ともなると、クラス内をパァーっと見渡して、誰がどのくらい勉強が出来るだとか、 スポーツ万能なのは誰か、だとか、オールラウンダーなのは誰か、だとか、 この子には常にサポートが必要である、だとか、友達が多い、少ない、だとか、 そういったことがクラス内のサミットには一目瞭然だったりする。 1年からずっと、クラスや班の長を歴任してきたメンバーであったり、 クラスは愚か、学年を見渡すこともできるのだって、あたくしを含め数多くいた。
そんなこんなで行なわれる班長会議は、まるで、賽の目を巡り、切った張ったの賭場のよう(笑)。 男子の班長には女子の副班長、女子の班長には男子の副班長がつくというのがお約束ではあったが、 この年、我々のクラスに、いきなり2名もの転入生が投入されたことで、 そのお約束も済し崩しになった。 大体、担任からして何となく頼りなさげな中、生徒会長、生活委員長(風紀委員っぽい)、放送委員長、 学級会長、副会長(あたくし)、そしてあと1人、別に何に属するわけでもなかったが、 班長として選出されたわけだが、そもそも、クラスの編成に物凄い偏りがあった気がする。 それというのも、この転入生2名を迎え撃つためである。
転入生の可能性というのは未知数である。 2人とも男子生徒であったが、早くもクラスの中に溶け込んでいるのを見ると、 満更、悪くない・・・・いわゆる有望株かもしれない。 しかし、その期待も鵜呑みにすると、後で取り返しのつかないことにもなりかねないので、 6人は誰を獲るかで、かなり真剣に悩むのである。
半期を共に過ごさねばならない仲間でもあり、しかも、前期には修学旅行に体育大会、 遠足、合唱コンクールと、行事という行事が目白押しなのである。 班単位で行動することも強いられるため、6人の班長の目の色だってそりゃ変わる。
とにかく、自分のサポート役の副班長に誰を獲るかが目下の争点、そして、誰が転入生の面倒を見るか、 コレが最大のキーポイントになる。 男子からは、生活委員長のトモくん、学級会長の町田くん、放送委員長の中井くん(全部仮名) 女子からは、学級副会長のあたくし、生徒会長のヤスエ、そして何に属するわけでもないがユカリ と、このようなメンバーで初回、最も真剣勝負の班長会議が開催された。 どいつもこいつも、我が強い(爆)。 強敵は、ヤスエである(爆笑)。 いいメンバーを揃えても、自分がその空気に馴染めないままだと、半期孤独を味わうことになるので そのへんのことも熟慮しなければならない。ヤスエはそれをまず念頭に置いたようだ。
トモ 「とにかく、誰か1人サポート役を獲ろう。」
あ 「そうやね。」
争奪戦の開始。 当然、ここに上ってこなかった、陰の人材の中に皆が狙っている人物はいるのである。 とりあえず、6人がまず欲しがっている人物を挙げると、6人中4人が同じ人物を挙げた。 女子生徒である。
トモ 「あ、お前、汚くね?? 女子は男子を指名しろよな。」
あ 「じゃあ、いいよ。Iの面倒と転入生1人、あたしが引き受けるから、 彼女をあたしに付けてよ。こっちの条件はそれだけ。後は誰をまわされても文句言わない。」
Iくんというのは、まぁ問題児ではないのだけれど、勉強もスポーツも抜きん出ることなく、 常に平均より下を彷徨っていた。クラスのムードメーカー的存在ではあったので、 嫌われ者ではなかったけれど、彼が班にいることによって、様々な場面で足を引っ張られることは 6名のサミットの誰しもが容易に思い描くことができた。
一方、あたくしを含め4名が指名した、Cちゃんという女子生徒は、頭脳明晰、眉目秀麗、文武両道 ときている。バスケ部のキャプテンをやっていて、この年の全国大会への切符も 彼女の働きによって左右されるため、バスケ部顧問からとんでもないプレスがかけられて、 リーダーシップがあるにも拘らず、どの委員会、生徒会活動にも属さず、部活を熱心にやるための環境が 既に彼女のために整えられていた。 本当は、この彼女がこのサミットに参加してきていてもおかしくないだろうところ、 浮遊した状態であったため、彼女の争奪戦は、会議が始まる前から目に見えていたようなものだ。
大沼 「まぁ、Iの面倒を見る上で、もう1人転入生も見るってんなら、いいんじゃん? 特例として、Cちゃん、日野のところに回しても。 それとも誰か、同じことできる人いる?? うちは、ユミちゃんくれたら、男子のサポートは誰でもいいわ。」
町田 「他どうよ? 日野があぁ言って、大沼が誰でもいいって言うとるけど。」
トモ 「だったら、俺にはRちゃん付けてくれ! Cちゃん降りるわ。絶対条件で!! 何なら、もう1人の転校生の面倒は俺が見る。その代わり、Rちゃんだけははずさんといてくれ。」
あ 「どう、これで? 降りるんやったら今やで? それぞれ特別希望があるみたいやし、 そっちを優先させて決めてくっていうので、どうよ??」
町田 「そうやな。コレで動かせるコマが大分減ったことになるし。 おぉ〜い、残りのメンバーの中で、欲しいのがいたら今のうちやぞ。」
こういった駆け引きで、あたくしは何度となく勝利を収めている。 相手を納得させるだけのリスクを背負ってまでも、とりあえず有利なコマを手元に揃える事で どれだけの苦難を乗り切ったことか(笑)。 大体一班、6〜7人という計算になるのだが、 初っ端にあたくしが出した条件を全ての人が呑んでくれた為、我侭が乱発する中、 全てを受諾しあうことで、平和的にメンバーが次々と決まっていく。 譲れないポイントさえ決まれば後は簡単で、その後、無条件でうちの班に充てられたメンバーは、 かなりの当たりゴマであった。
と・・・・このようなやりとりがあるというのを、班長以外は誰も知らない。 担任に「決定しました」と報告にいっても、特にダメ出しをもらうわけでもなく、 というのも、それぞれの我侭が全て呑まれている為、偏っているように見えて 6班とも、かなりバランスは取れていたのだ(笑)。
班のメンバーが決定すると、すぐさま席替えが行なわれて、その後、 教科係と、生活係を割り振る。 週に1、2回しかない体育や美術はまとめられ、資料を運んだり実験の準備をしなければならない 社会科や理科は独立させ、後は適宜に国語係やら数学係やらが決まっていく。 で、生活係なのだが・・・・。
嗚呼・・・・やっと本論に入れる(爆)
給食であるとか、学習全般であるとか、レクリエーションであるとか、 教科から離れた時の責任を負う係というのを決めなければならないのである。 あたくしは、前期後期とずっと「学習係」にこだわり、GETに成功した。 「学習係」なんて、呼称からして面倒っぽい係なのだが、あたくしがコレに拘ったには 確たる理由がある。
シンの教室の前を、尤もらしい理由でもって通過できるのは、 この「学習係」だけなのである。 彼の教室の向こう側に、家庭科準備室があって、そこに朝学習用のテキストが置いてある。 3年生は嫌が応にも、4月下旬から朝は7時40分から30分間、高校受験のために 朝学習をしなければならず、その管理をするのが「学習係」だったのである。
毎日行なわれる小テストの点数の管理から、テキストの回答の運搬、 とにかくやらなければならない仕事は多く、鬱陶しいものであったが、 あたくしはコレがやりたくてたまらなかった。 何故なら、この係になれば、毎日2回は必ず、シンの顔を見ることができるからである。
同じ班のメンバーは嫌がったが、「あたしが責任もって全部管理するわ。」と言ったら 納得してくれた。 他のメンバーは定時以前に登校しなければならない「学習係」の呪縛が 自分にはふっかかってこないことを確認すると、快諾してくれるのである。 何もやらなくていいのだから、これほど楽なことはない。 そして、あたくしにしてみれば、持ち回りになるよりも毎日の方がいいのである。 この駆け引きが巧くいって、あたくしは遠くに離れたシンの教室の前を、 毎日毎日通って、テキストを運んだ。 目が合ったら、嬉しいな・・・・とか、ともすれば挨拶ができるかもしれない・・・・とか、 毎朝、ドキドキしながら「仕事」と銘打って、廊下の端っこにある家庭科準備室まで行くのである。
他のクラスは、毎日持ち回りで別の子がやってくるのだが、うちのクラスだけは 何故か、年間通してあたくししか動いていないものだから、不信がられたくらいだ(笑)。 班長ばかりに仕事を押し付けるんじゃない、とか、他のクラスの先生に言われたことがあったが そんなのは大きなお世話 ┐( ̄∇ ̄)┌オホホ あたくしは好きでやっていたことなんですもの♪
このことを、少し前、親友のリエに話した。 リエはシンと同じクラスだったから。
「何、それだけのために、毎朝毎朝、人より早く学校に来てたってわけ?」
「えへへへへ♪ 動機は不純だけど、ちゃんと仕事はしてたよ。」
「じゃなくてさぁ・・・・それはあんまりにも健気過ぎやしないか??」
「そうかなぁ・・・・?」
「そうよ!! 何かしら用事を作って、うちのクラスに駆け込んできても、 夕雅は学年全体に通じている顔なんだから、誰も不思議がりゃしないのに。」
「でも、毎日は無理でしょ、それだと。」
「そうだけどさぁ・・・・あぁ、何ですれちがってばっかいたんだろう、あんたたちって。」
「え? すれちがい??」
「あたしもさぁ、ほら、あんたのクラスに好きな子とがいたからさぁ、 廊下側の席になると、ボーっとあんたのクラスの方を眺めてたりしたわけよ。 ある日気付いたらさぁ、あたしと全く同じことをしてるヤツがいたのよ。 そいつの目線の先には、あんたがいた。」
「え? ・・・・それってまさか。」
「シンだよ。」
絶句した。 誰にもわからないような方法で、好きな人を自分の視界に取り込みたいという一心で、 あたくしは、朝は弱いというのに、他人の定時よりうんと前に登校して、 頃合を見計らって、彼のクラスの前を通るようにしていた・・・・仕事という大義名分を装って。 あたくしのクラスからは、シンの姿を伺おうにも伺えない。
だから、そんな真実があったとは全然知らなかったのだ。 リエは冗談交じりに、シンにカマをかけたことがあるのだという。
「夕雅のこと、好きなんでしょ?」
「・・・・・・・・。」
彼は、何も答えなかったらしい。 あたくし本人が、気持ちを伝えるその日まで、彼もひた隠しにしていてくれた。
だから、この恋が破綻を迎えた時、あたくしは本当に発狂してしまいそうになった。 「ひみつ」が壊れる、痛みを知った。 あたくしにだけ見せてくれた、あの頷きを、もう見られないのかと思うと、 悲しくて悲しくて、涙が止まらなかった。
そして、「ひみつ」を破壊した張本人を恨む・・・・そういう汚い感情が自分の中に生まれるのも 同時に感じた。 あたくしは、まだ、その人間のことを許せない。 沢山の恋を重ね、失恋も沢山したけれど、どうしてか、あの人間だけは許すことができない。 あたくしとシンの間に流れていた「ひみつ」の空気・・・・。 破壊した人間を許すことができる日なんて、本当に来るのだろうか?
あたくしは、未成熟な子供だと思う。
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