おととしの夏、父といっしょに田舎の成田へ遊びに行った。 成田山のお祭り見物、 いとこのケンちゃんが山車を引く若連衆としてデビューする日だ。 天気は快晴、お祭りの喧噪、おいっさーという野太い掛け声。 黄色い法被にねじり鉢巻を締めたケンちゃんも いつもよりきりりとして見える。 ケンちゃんの所属する田町町会の山車の進行に合わせて、 私たちも移動していく。
お父さんはもともとここ成田で生まれ育った。 渡辺家にはお婿さんとしてやって来たのだ。 この日のお父さんはいつもとちょっと違った。 東京にいるときの、仕事中とも家にいるときとも、なんだか違う。
人ごみを避けるため、参道からはずれた裏道を進む。 「こっち行こう」 私を急かしながらぐんぐん進むお父さんの顔、 なんだか少年みたい。 私たちの後ろには、小学生の男の子が3人連なっていて、 かつてのお父さんは彼らだったんだな、と思った。
若かりし日のお父さんもまた、田町の若連衆のひとりだった。 当時の若連衆の仲間は、 今は山車の上でお囃子や音頭を取る幹部になっていて、 「コウちゃん来てたのか!」「コイチじゃねえか!」 とお父さんに声をかけてくる。 みんな頭が薄かったり太っていたりするけど、 相変わらずお父さんはうれしそうな顔だ。
参道を勢いよく掛け上っていく山車を眺めながら あの黄色い法被は俺が選んだんだよ、 とお父さんはつぶやいた。 その顔は、なつかしくも寂しそうで、 少しだけいつものお父さんに戻っていた。
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