大事な人
 貴方が何から逃げて居るのか御存知ですか?

 時折、こういふ自分自身の問ひ掛けに「知ってる」と繰り返してしまふ。
 ああ、知つてるさ。

 母と僕が避けてゐるものが何なのか。
 母と僕の性質の何處と何處が似通つてゐるのか。
 知つてゐますとも。

 目の前に見えてゐる人生の終わりへと、一歩一歩近付いていく親の姿を直視出來ないのだ。
 彼女も僕も、現實を理解は出來てゐても、命を延ばす爲の手助けは出來ても、親の死を感じたく無いのだ。

 他人が推す親の壽命が延びる度に一息ついて、少しでも永く在つて欲しいと願う。
 だが、傍で見守るのは辛くて、確りと目を合はせられぬ。

 彼女にとつても僕にとつても、親は大事な人だ。實に大事な人だ。
 だからこそ、僕らは目を反らした儘でも現實に向き合はうと足掻いてゐる。
2005年05月06日(金)
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