適得其反
 あるサスペンスドラマの一場面でこんなのがあつた。
 疲れ果てた表情を浮かべて眞夜中に歸宅する夫。部屋では電氣を點けて趣味の作業をする妻が居り、夫は妻に「まだ起きてゐたのか?」と驚きの聲を上げる。妻は「貴方を待つてゐた譯ぢやないわ。」と作業の爲に起きてゐたのだと言ひ、「風呂は?」と訊く夫に「何度同じ事を訊くの。今迄沸いてなかつた事なんてないでせう?」と聲を荒げて妻は答える。夫はなんて厭味な女だらうと内心思ひながらも妻の父の權力を畏れ、妻のご機嫌取りをしやうとする。

 嗚呼、違ふんだ。彼女は待つてゐたんだ。夫が歸つてきた時の爲に食事を用意して風呂を沸かして、夫の歸りの遲さ故に疑いで心が溢れさうになりながらも夫の爲に待つてゐたんだ。
 「貴方を待つてゐた譯ぢやないわ。」なんてのは唯の強がり。彼女は夫を待つてゐたんだ。
 如何して其れが夫には判らぬのだらうか。

 如何して彼には判らぬのだらうか。と、ドラマの夫の姿に知人の姿を重ねてみてしまふ。
 「あいつが俺と別れるのを嫌がるのは意地を張つてゐるだけだ。俺とあいつの間には愛情なんて無い。」と知人は妻の事を口々に言つて回つてゐる。
 さう、知人の妻は意地を張つてゐる。夫の爲に毎日自分の仕事時間を削つて家事全般をこなし、次々事業に失敗する夫の爲に自分の親に頭を下げて資金援助をして貰うのは夫の事を思ひ遣つてゐるからだ。全ては夫への愛ゆえに。なのに彼女は夫には素直に愛情を傳へられず、顏をあわせる度に夫に罵聲を浴びせてしまふ。

 如何して彼には判らぬのだらうか。
2003年12月17日(水)
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