優しい人
 「俺って優しいだろ。」
 そういう風に自分で自分の事を「優しい」と定義できる男を僕は優しいと思えません。

 「優しいだろ?」と訊かれた時に感じるのは寧ろ恐怖。
 返答の次第によっては相手が怒り出したり僕を突き離すのが目に見えてるから。
 僕が口にしなければ為らない答は一つしか相手には見えていないから。

 最初から僕自身の答を期待していない問いをしないで欲しいと毎回思う。
 ずっと同じ人が僕にその問いかけをしている訳ではないけれど。
 しかし、毎回相手が僕に求める答は同じものなのです。

 自分の事を「優しい」とは言わない優しい人を、「僕は本当は優しくはないんだよ。」と優しげな声で語る人を、僕は知っています。
 僕が我侭に自分の荷物を持たせても、待ち合わせに何時間も遅れても、僕がするべき雑用を押しつけても、いつもほんの少しの文句しか言わずに僕の言う事を全てきいてくれた人です。

 けど、その人を「優しい」と思えるのは決してその人が僕の言う事をきくからではないのです。
 僕が本当にしてはならない事をした時、言葉には出さずに気付かせてくれたから。だからその人は僕にとって「優しい人」なのです。

 僕が何かしでかしたその瞬間、いつも浮かべている微笑は其の侭で目の表情だけが消える。
 最初にその事に気付いた時、僕は気付かなかったふりをしました。
 次に気付いた時、僕は後で悔みながら泣きました。
 その次に気付いた時、僕は無表情な目の侭のその人にラリアットをかましました。
 四回目に気付いた時、僕はその人の前で泣きました。
 この前気付いた時、僕は自分が泣き出さない様に気を付けながら僕自身の言葉を探しました。僕のした過ちを正すには如何すべきか相手に訊く為に。

 僕の今の彼氏は「俺は優しいよ。」と以前言いました。
 僕にとっては未だに彼は怖い人。
2000年11月24日(金)
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