Diary?
DiaryINDEXpastwill


2005年11月23日(水) 鉄板焼記念日




 久々の贅沢会。10日ほど前に行った目黒雅叙園を再び訪れる。今回の贅沢会は、雅叙園の保存建築見学と食事のセットなのであった。麻布十番といい、訪れる場所に関してなぜか時期が偏る傾向にある。

 展覧会の時には人とお花でいっぱいだった百段階段の建築を、今回はガイドの説明つきでゆっくりと見て回る。床柱の一本が天然の木肌ではなく、大工が腕をアピールするために彫り出したものだと聞いてちょっとのけぞる。しかしガイドの人によると、この一本のせいで「他のも天然じゃないのではないか」と疑われて困るそうだ。一番上の部屋は公開していないのだが、扉のすきまから覗いてみたら大変な荒廃ぶりで悲しい気持ちになってしまった。

 食事は憧れの鉄板焼ステーキ。ステーキよりはしゃぶしゃぶを好み、そもそも肉よりは豆腐や魚を好む私ではあるが、目の前で華麗なへらさばきナイフさばきのパフォーマンスとともに肉を切り分けてくれる鉄板ステーキは、一度体験してみたかったのだ。そして今回私たちを担当してくれたシェフは、私が思い描いていたそのまんまの鉄板マスターであった。

 メニューを紹介してみよう。見学会とセットの特別メニューなので、このコースがいつもあるわけではないと思うけれど。

 サーモン、真イカ、帆立貝のタルタル
 岩手広田産 カキと冬野菜の鉄板焼
 トマトサラダ セロリ風味
 有機栽培ほうれん草のソテー
 和牛サーロインステーキ130g もやし添え
 白飯、お新香、お味噌汁
 デザート・コーヒー

 テーブルに置かれたメニューを見て、一瞬「どうしよう」と思った。実はカキが少し苦手だったのだ。他のものに変えてもらうことも考えたが、まあせっかくだから食べてみようかと。そしたらあなた。私はカキが好きになってしまったよ。まず溶かしバターでベーコンを炒めて、そのエキスを使ってカキをこんがりふっくらと焼いてある。カキの塩分とベーコンの旨味で、ソースなしで非常に美味。ばくばくと三つ平らげてしまう。カキを一度に三つ食べたのは人生で初めてだった。

 カウンターでの鉄板焼は「食材」が「料理」へと変化してゆく過程を見ることができるので、料理番組を見ているような楽しみがある。同行者と「これは世界の料理ショーだ、グラハム・カーだ」と呟き合う。お肉も写真やテレビでしか見たことのない質とサイズの塊を、3センチくらいの厚さに切り出してゆくので目が釘付け。見事なへらさばきで焼き上げられたお肉は、しっかりとした噛みごたえがある。噛みしめると肉らしい血の香りが口中にかすかに広がって、ああお肉を食べたなあと実感する。最近のグルメ番組などでは、お肉の褒め言葉として「やわらかーい!」や「とろけちゃう!」が多用されているけれど、それじゃつまらないだろうと思うのだ。肉を食べるからには、齧りついて噛みしめて咀嚼して味わって、お命頂戴する気持ちとともに食すのだ。

 そして野菜もまた土の力を頂戴していると実感できる、味の濃厚なものだった。冬野菜は「パクチョイ」という中国野菜で、チンゲンサイの茎の白い種類。ほうれん草は寒じめというのかな、葉が縮んでいて肉厚で緑が濃い。霜に当たって甘みが強くなるそうで、これはたしかに一口食べただけで普通のほうれん草とは全く違うのがわかる。ワイルドな味。

 三田屋の梅干、今半の糠漬けなど、今までに行った肉料理の高級店は、なぜかお新香が美味しかった。今回は白菜の浅漬けだったが、やはり美味しかった。この法則は一体何なんだろうか。たとえば鰻屋や天ぷら屋など他のジャンルの和食店よりも、肉料理店は確実にお新香が美味しいような気がする。それとも肉を食べた後の舌にはお新香が何倍も美味しく感じるような作用が働いているのだろうか。一生のうち一度はあの「あらがわ」に行って、お新香が美味しいかどうか確かめてみたいものだ。いや、あらがわではお新香は出ないような気もするが。


garden_of_time |MAIL