日記

2010年08月10日(火) 精霊モノガタリ途中経過過去編その1

 うっかり国の過去設定をちらっと考えたばっかりに、書きたくなってがっつり設定作っちゃった過去編。どっちかっていうと本編より設定が細かいんだ、これが(笑)

 というわけで過去編その1アップ。
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 彼女を最初に見たのは、彼女がまだ言葉もろくに話せない頃だった。最強の霊力を秘めた彼女に一目で心を奪われたが、すでに彼女には誓約を交わした高位の精霊『皓月』がいた。かの精霊がいるなら、私には契約すら望めない。あきらめはしたが、彼女の元を離れることはできなかった。誰とも契約することなく、二人を見守ることにした。
 精霊のだれしもが思う”存在意義”を、契約して力を使ってもらうという事よりも、彼女のそばにいる事の方に見出したのだ。

 言葉を理解し始めた彼女は、私には名前がないと伝えると、しばらく考えてこう宣言した。
「じゃあ、あなたのこと『白蓮』って呼んでもいい?」
私は驚いて言葉を継げることができなかった。彼女が私を呼んだ瞬間、私の中の何かが書き換わったように、白蓮という名は私のものになった。
彼女は驚いている私をみて、心配になったのか戸惑った顔をした。
「えっと、名前つけちゃいけなかった?」
<<いいえ、とても素敵な名前をありがとうございます>>
「よかった」
<<それにしても、誓いを交わしていないのに、名前をもらえるなんて思っても見ませんでした。一緒にいるもんですねぇ>>
『皓月』はその様子を眺めながら不満そうにつぶやく。
<<いいなぁ。名前つけてもらうなんて>>
「だって『皓月』にはもう名前あるじゃない」
<<でも、私も朱鈴に名前つけてほしい>>
「んー、じゃあ『奏』って呼んであげる。声が音楽を奏でているようだから。特別な呼び方ね」
その言葉を聞いたとたん顔がほころぶ。
<<私と朱鈴だけの呼び名だね。だから『白蓮』はこれで呼んじゃだめだから>>
<<念を押さなくても、あなたを愛称でなんか呼べませんよ。私よりずっと高位の精霊なんですから>>
とても幸せな日々だった。そんな日々が崩れ始めたのは、朱鈴が10才を過ぎた頃だった。

いつも彼女と一緒だった『皓月』がたまに姿を現さなくなった。そして、朱鈴が13才になる頃、『皓月』は深く眠りにつくようになった。

 朱鈴は、いつもとても強い意志を秘めた目をしていた。それが、今日は力をなくしていた。まるで迷子の子犬のような目をしていた。
 『皓月』は今、深い眠りの中にいた。急速に力が衰え、実体をとることができなくなっていたのだ。
「私、精霊が眠るって知らなかったわ」
<<あまりないことですから。高位の精霊が実体を取れないほど急激に力が衰えることなど・・・>>
「そう、だよね。どうして、あの子の力が衰えてしまったのか。原因を突き止めないと」
その会話を聞いていたのだろう。『皓月』が実体を現した。
<<その必要はない>>
「『奏』、起きたの?大丈夫」
その様子はあまり大丈夫とは言いがたかった。
<<原因はわかってる>>
「だったらその原因を取り除けば・・・」
<<今はそれができない>>
<<原因は何なんですか。あなたがこれほど疲弊するなんて>>
<<まだ教えられない。あと3年はこの状態が続くと思う>>
「3年も?どうにかならないの?」
<<うん、とりあえず私が3年抑えてれば大丈夫だから>>
朱鈴の顔を見て、心配そうに微笑む
<<朱鈴は少し休んだ方がいい。顔色が悪い>>
そういって、朱鈴に眠りを与える。
<<ちょっと眠ってもらったよ>>
<<あなたのことを心配しすぎて、最近よく眠れていませんでしたから>>
やさしく髪をなでる『皓月』の顔色は朱鈴よりも悪い。
<<さきほど、あなたは3年抑えるとおっしゃいましたよね。何を抑えるんですか?>>
<<口がすべっちゃったな>>
<<私には教えてくれませんか。力を使うことはできなくても、何か手助けができるかもしれません>>
誓いを交わさなければ、力を使うことができない、精霊の制約があった。今はそれがもどかしい。
<<・・・そうだね。『白蓮』には話しておこう。今朱鈴の力が暴走している。体の成長と力の成長があってないんだ>>
<<なんてこと・・・>>
<<力の成長に体の成長が追いつくのはあと3年ほどかかる。だからその間朱鈴の体に支障がない程度に力を抑えておかなければならない>>
<<あなたが疲弊するほどの力なのですね・・・>>
<<そう。だから抑えておかなければ彼女は死んでしまう。それは絶対に避けなければならない>>
<<3年、抑えることができますか>>
疲弊ぶりからして、3年も持つことは難しいのではないか。そう思ってしまうほど、『皓月』には力を感じなかった。
<<ぎりぎりってとこかな。10才の頃から抑えているがこの1年は急激に増大したから>>
<<朱鈴自身が抑えるようにすることはできないのでしょうか。力を持った契約者は自分の霊力をコントロールすることが可能です>>
<<難しいだろうね。抑えてたって並大抵じゃない霊力だから。コントロールするより暴走してしまう可能性の方が高い>>
<<あなたが力を抑えるしかないって事ですか・・・>>
<<そうだね。だから、もし私がいなくなったら朱鈴のこと頼むよ>>
<<そんな縁起でもないこと言わないでください。あなたがいてこその朱鈴でしょう>>
<<そうだね、私も朱鈴の誓約精霊であることは譲れないから>>
それじゃぁまた眠るよと言って『皓月』は姿を消した。
<<あと、3年・・・>>

そして、その3年後『皓月』はほとんど姿を現さなくなった。
「ねぇ、『白蓮』。『奏』がこのまま消えちゃうなんて事はないよね」
ありえないことではない。力をなくした精霊は消えるのみだ。ただ、朱鈴にはそのことは伝えることができない。
<<『皓月』は大丈夫だと言っていました。その言葉を信じましょう>>
「そう、だよね」
その後、『皓月』は姿をあらわさないままだったが、朱鈴の力はほとんど開放されているようだった。力を抑える必要はなくなったが、疲弊した力は簡単には戻らないようだった。

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過去編その2に続く。


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