��.dolce
いつもはからりとしているこのあたりも、昨日の雨のせいで湿度が高い。
そのくせ日差しはあるから、この広場は蒸しぶろ状態だ。
歩いていてもどこか重苦しくて、水の中を進んでいるようなボーっとした
倦怠感が続いた。
それでも休日になると溢れかえる人いきれの中、ロマーノは階段が濡れて
いないのを確かめてスーツに不格好なシワが入らないように慎重に腰をおろした。
服も靴も時計も、この日のために買ったのだ。
お互い忙しくて、久しぶりに顔を合わせたのは半年ぶりの会議の時だった。
ヴェネツィアーノはドイツとベタベタ話し込んでいて、特に仲の良い奴が
いるわけでもないロマーノは表面上は無関心に革張りの椅子に体を沈めていた。
時折チラリと斜め向かいの空席に目をやる。
[España]と書かれた札の主は、まだ到着していなかった。
フランスやオーストリアが時折それを気にしていた。仲が良いのだ。
スペインには何百年来の友達が多い。
争ったり同盟したり協定を結んだりして培ってきた友誼も見せつけられるのも
この世界会議の風物詩だ。
「すんません遅れました！！」
ようやく最後に滑り込んできたスペインをオーストリアがたしなめたり、
フランスが笑いながら小突いたりしているのを横目で見ていた。
まっすぐ見ることができないのは、もうスペインの声がした時点で、
自分のほっぺたが熱くなっているのを自覚していたからだ。
会議は適当に終わって、それぞれの国が旧知の仲間たちと談笑しながら
打ち上げの場所を思案している。付き合いの良いスペインが、
「俺も行くわ〜」と返事をしながらキョロキョロとしていた。
俺を探しているんだ。とたんに体が固まった。顔がトマトになる。
「ロマ！よかった！一緒に食事行こー！」
当たり前のようにスペインの側に腰を下ろして、周りの奴らと楽しそうに
しゃべっているのを聞いているだけで幸せになった。ただ、久しぶりに
会えて言いたいことが沢山あったのに、いざこんな場所で考えてみると、
食い物の話ばっかりで大勢の前でするような話題でもなかったので
終始だんまりを決め込んでしまった。
２人だけで話がしたい。半年ぶりなのだ。
何百年も離れずにいたのに。
そんな切ない思いも叶わず、会議はお開きとなった。
しょんぼりして外に出たロマーノをスペインが呼び止める。
「ロマ、今日全然しゃべらんかったやん？しんどいん？」
「ちげーよ！！だりいから黙ってたんだよちくしょー！！！」
まさか、オマエと２人っきりで話したくて軽く拗ねていたとも言えず、
とりあえず頭突きをお見舞いした。
スペインの返事は
「じゃあ、来月の休み、デートせえへん？久しぶりに！」
だった。
ロマーノは渋々オッケーしたが、帰宅途中で４回壁にぶつかり、
地元で迷子になる程度には浮かれてしまった。夜中に飛び起きて
「ヤッホー！」と叫んだそうなのだが、記憶からは消えていた。
翌朝、さっそく来月のためにいそいそと買い出しに出かけた。
夏向けにネイビー色のスーツを仕立てて、合わせてシャツの生地も選ぶ。
そうなるとベーシックなカフリンクスも合わせたいな。買った。
ピカピカの革靴に、時計も買った。ヴェネツィアーノがひっくり返りそうな
金額になったけれど、別にいいじゃねーか。久しぶりなんだし。
そうだ、店の予約も入れておかねえと！
ワクワクする気持ちをどうにか鎮めて、気を抜くと上がってくる
口角を気にしながら、まさかスペインは変なＴシャツを着てこねえ
だろうな、と気になった。
でもそんな小さい事を気にしていると思われるのは絶対嫌なので、
それとなくヴェネツィアーノに「スペインの輸入増やせ」と脅して
おいた。経済が安定してきたとはいえ、のんびり屋の彼が自分磨きを
してくれるとも思えない。せっせとミラノの良い生地を送りつけて
「こんな格好も悪ないな」と思わせないといけないのだ。
…うわ。そしたら服が欲しくなるたびにここまで来るじゃねえか！
ヴェネツィアーノがドアの隙間から少しだけ顔をのぞかせて言う。
「兄ちゃん、デートの場所、ウチって勝手に決めてない？」
まさかのつづきます。ロマーノに何を着せたら良いか思案する時間が
欲しかった。（また大事な時間をそんなもんに・・・）
もちろん待ち合わせ場所はスペイン広場です。スペインだけに。
需要が無いのは承知ですが、この際なので好きになってください。(とうとう言った)
まったくこのサイトは何なんだよも〜(ＡＰＨサイトで無いことは確かです)
明日は真人間らしく讃岐うどんとスフレチーズケーキ食いに行ってきます。
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