アナウンサー日記
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2001年02月17日(土) 猫を、はねた。

 今日は休みだったので、佐賀県で行われている高校ラグビー新人戦の九州大会を見に行った。その帰り道のこと。

 真っ暗な国道を走っていた私の車のヘッドライトに、いきなり白い影が飛び込んできた。妻が悲鳴を上げると同時に急ブレーキを踏んだが、間に合わなかった。瞬間、嫌な感触を右のフロントタイヤに感じ、遠ざかっていく後ろをバックミラーで見ると、道路の真ん中に小さな白い塊が見えた。


 猫をはねてしまったのだ。


 私はこれまで、猫がはねられるのを何度も目撃し、その度、助けあげたり、お墓を作ってやったりした。いつだったかは、はねられた子猫が血を吐きながら腕の中で死んでしまうのを看取ったこともある。

 だが、一方でいつかは自分が猫をはねてしまうときがくることを確信していた。
ドライバーなら分かっていただけると思うが、道路に飛び出してくる猫をよけるのは、まず不可能だ。どんなに注意して運転していても、猫はまるでヘッドライトに吸い寄せられるかのように車の直前に飛び出してくるし、自分に近づいてくるものを立ち止まってじーっと見てしまう習性が猫にはあるからだ。


 それでも、もしはねてしまったら、最善はつくそうと思っていた。


 Uターンして引き返し、反対車線の路肩に車を停めた。向こう側の車線に横たわっている猫は、全然動かない。多分もう、だめだろう。土曜日の夜8時を過ぎていたがまだまだ交通量は多い。車たちは道路の真ん中の猫を避けながら通りすぎていく。車の列が途切れず国道をなかなか渡れずにいると、一台の白いワゴン車が、勢いよく猫を跳ね飛ばした。猫の体は鈍い音をたてて10メートルも吹っ飛ばされ、アスファルトに落ちた。

 ほどなく車の列が途切れ、道路を横切って猫を抱き上げると、見かけはまったく傷の無いきれいな状態だった。白地に黒と茶のブチが少し入った大人の猫だ。首輪をしていないし、ガサガサした毛並みから見て、多分ノラネコだろう。まだあたたかい体を路肩まで運んで下ろしてやると、右前足が折れていることに気づいた。色々なことが頭をよぎる。「あのワゴンにはねられる前は、まだ息があったかもしれない」「いや、もうすでに息はなかったのだ」「こんな車通りが多いところをなぜ渡るんだろう」「もし飼い主がいるなら、こんな危ないところで何故放し飼いにするのか」「どこに行こうとしていたんだろう」「この猫の帰りを待っているひとか、あるいは猫はいたんだろうか」・・・そして、「ごめん」。


 結局私は、路肩の亡骸に手を合わせ、その場を立ち去ることにした。どこか景色のいいところに埋めてやることも考えたが、やめた。彼は(彼女は?)多分ノラネコだと思うが、もし飼い主がいるとしたら・・・そしてもし私が飼い主だったとしたら、やはり自分で墓を作ってやりたいと思うからだ。それはとても残酷なことだが、私にはほかにどうしようもなかった。


 自宅に戻り、家の片隅に盛り塩をして、小さい茶碗に水をそそぎ、私と妻と娘の家族3人でもう一度手を合わせた。今度生まれてくるときは、きっと長生きして、猫の寿命をまっとうしてほしい・・・。これは感傷だろうか。いや、命の重さ尊さに、人間も猫も、いささかも違いはないのだ。そして、ニコニコ笑って手を合わせるまだ赤ん坊の娘には、命の大切さを知る人間に育ってほしいと、心から願う。
 


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