2月6日、日記を書いた後に気付いた。
アタシの中に、別の誰かがいた。
何も考えられないのも[ヤツ]のせい。
あれだけ愛しいと思っていた彼氏のこと、何も思わなかった。 涙も出なかった。 アタシの中に誰かがいた。
アタシは、雪の降る外へ出た。 目的地も決めずに、どこまでも歩いて行こうと思った。 目的さえもわかっていなかった。 だけど、どこかに着いたら、きっと、何か考えられるようになるんじゃないかと思った。 どこまでも行こうと。 15分くらい歩いたところで、行き先を決めた。 JRで、最寄駅より、ひとつ西の駅。 そこまで歩いて、考えられるようになったら電車で戻ろうって決めた。 考えられなかったら、歩いて帰ろう、って決めた。 そこから約5分。 彼しからメール。 話すなら連絡して、って。 アタシは、考えられるようになったら帰る。とだけ返した。 彼氏から電話がかかってきた。 今どこにいるの?って。 自分がどこにいるのかは、ハッキリわかってた。 だけど、目印になるような建物がなくて説明できない。 だから、来た道を説明した(西に歩いて北に歩いてる)。 何やってるの?って聞かれた。 わかんない、としか答えられなかった。 考えられないから、歩いてる、って言った。 やっぱりもう一度、 帰ってきなよ、って言ってくれた。 でもアタシは、何故か、歩く事を強く決めていて、いやだ、と言った。 それだけじゃなく、何で?と聞き返した。 危ないからだって、帰っといでよ、って言ってくれた。 それでも拒んだ。 そうしたら、 帰ってこないなら別れる!って言われた。 帰っても別れるって言うくせに、って言ったら、 あぁそう、って言って、電話切られた。 何も考えられないくせに、このときは何故か、そこで引いちゃいけない気がして、電話をかけ直した。 わかった、今から帰るから、たぶん30分くらいで帰る。 外に出たのが22時、このとき22時25分。 なんでそんなに時間かかるのか聞かれた。 外に出た時間を説明したら、今どこにいるの?ってもう一回聞かれた。 だけど、同じ答えしか返せなかった。 帰ったら連絡する、それだけ言って、強引に電話を切った。 同じ道を帰りながら、いろんな事が頭の中を過ぎていった。 考えてたわけじゃない。 考えられないのに、妙に頭がハッキリしてた。 それがすごく気持ち悪くて、アタシは酒の力を借りた。 コンビニで酒を買って、歩きながら飲んだ。 でも、いつもなら酔う量で、少しも酔わなかった。 ゆっくり、寄り道をしながら、帰りは50分かけて帰った。 帰ってから、着替えて、彼氏の部屋に行った。 今度は、話そうにも言葉が出ない。 ここにきて酒も回ってきた。 最悪だ。 相変わらず考えられない。 彼氏は、別れたくはない、って言ってくれた。 それでも、何も浮かばなかった。 とりあえず、その場から、逃げたくなった。 わかんないから、時間頂戴。 それだけ言って、逃げようと思った。 どれくらい?って聞かれた。 明日、って言ったら、今日中、できるだけ早く、って言われた。 仕方ないから、1時間って答えた。 その間に、考えられるようになるかどうか、まったくわからなかった。 お風呂に入って、ゆっくり考えようとしても、相変わらず、思考はハッキリしたままなのに、何も浮かばなかった。 1時間後、彼氏に連絡した。 答えだしたから、って。 本当は出てないのに。 彼氏に、もう一度会ってみても、それは変わらなかった。 だけど、感覚では、別れちゃいけない、って言ってた。 だから、付き合って行きたい、って言った。 この後は、正直よく覚えてない。 少し、会話に区切りがついた時に、アタシが彼氏に要求をした。 「(彼氏のバイト先の男の先輩)NさんNさんって言いすぎ、自分の考えはないの? 二人のことなんだよ?自分の考え、聞かせてよ。」って言ったら、 「1回目の大きな喧嘩の時、俺マジ別れるつもりだったんだぜ? それを落ち着いてもうちょっと考えてみろって言ってくれたのNさんなんだよ。 別れなかったのNさんのおかげなのに、そういう事いうわけ?」って言われた。 このとき、アタシの中の[ヤツ]が、急に大きくなった。 アタシの中の不安定な要素が、急に増えた。 もう何も聞きたくなくなって、出来るだけ体を小さくして、耳をふさいだ。 少しだけ、何か言葉を発した事は覚えてる。 それを聞いて、彼氏がまた、何かを言ってた。 だけど、力いっぱい、耳をふさいで聞こえないようにしてた。 そうしたら、彼氏が近づいてきて、後ろから腕を回してきた。 アタシの中の、何かが外れて、恐怖でいっぱいになった。 こわい! いやだ! やめて! はなして! この言葉を連呼して、力いっぱい腕を払おうとした。 逃げられなくて、必死で足掻いた。 ようやく、離してくれた。 触れられない距離に逃げて、さっきよりも小さく座る。 きっと、ずっと、 いやだ、 やめて、 こわい、 これを呟き続けてた。 この後も覚えていない。 何度か、彼氏が近づいてきて、背中に触れたけど、それも全て拒んで、逃げた。 逃げられなくなったアタシは、反対側に逃げた。 そして、多分、唐突に言ったんだと思う。 「基本的にね、別れるつもりはないよ?けどさ、」 そのあともよく覚えて無い。 だけど、彼氏に言われたことと同じ事を彼氏に言ってたんだと思う。 彼氏が、ごめん、って言ってたような気がする。 多分、言い終わって、外を見てた。 雪、積もってたのかな・・・空を見上げてたから、よくわかんなかった。 何故か、空がアタシを呼んでる気がして、また外に行きたくなった。 外行きたい、そうやって呟いた。 何で?って、また、聞かれた。 こんどは、空が呼んでることとか、 少し前の日記に書いた事を、よくわからないけど、揺れながら喋った。 アタシね、汚れてるから、雪のなかでお散歩して、 真っ白になるんだよ? きれいになるんだよ? あぁ、今日、白いコートで行けばよかった、そしたら白くなれたのに。 ずっと繰り返してた。 少しして、彼氏の方を振り返って、 ねぇ、外行こうよ?って言った。 そうしたら、彼氏は、 ほんとうに___なの?そこにいるの___なの?って聞いてきた。 アタシがその何時間か、ずっと感じていた事を、言われた。 器はアタシだけど、中に、きっと別の誰かがいる、そう思ったから、 ぅん、としか言わなかった。言えなかった。 曖昧なままで受け答えをしていたら、 彼氏は、涙を流しながら、 俺が___を傷つけてたんだね、俺の何倍も傷ついてたんだね、ごめんね、ごめんね、と謝罪の言葉を繋いだ。 アタシなんかのために、涙を流しちゃいけないと思ったアタシは、 落ち着こうよ、ね?と、抱きしめて、 大丈夫だから、と、なだめて、 泣かないの、と頭を撫でた。 ねぇ、ほんとに___?と聞かれても、大丈夫だよ、とだけ。 少し寝なよ、と横にさせて、大丈夫、アタシはここにいるよ、と眠らせた。
3日経った今でも、 [ヤツ]がアタシの中に潜んでる気配がする。 気付かないフリをしてるけど、きっと、潜んでる。 アタシは、誰に支配されてるんだろう・・・。
[ヤツ]に支配されてる間の言動で、人を傷つけているのかと思うと、心がいたむ。
[アタシ]を、アタシのために取り戻さなければ。
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