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■ カオスフレア“鋼鉄の戦道”プレイレポート・下
インターミッション
次のシーンがこのシナリオの成否を決めるシーンだろう、私はそう思っていました。
実は、今回のシナリオの鍵であり、私が冒頭『繋がっていないプロットがある』と言った部分がここです（おいおい、という感じですが）。
当初予定していたプロットは、“霧の感謝祭”のエンディングにあるカストゥルの台詞を見ると分かります。カストゥルとティオラ、そしてＰＣ�，了鯵儡愀検△海譴鬟轡淵螢�の核にする予定でした。
神の血を引くという、ル・ヴィラエ直轄領の後継者、フィオラ。そして彼女を想いながらも、ＰＣ�，肇侫�オラの二人がお互いを想っていることを知り、自ら身を引くカストゥル。しかしＰＣ�，�権力争いで殺されてしまい、仕方なくフィオラは自分の領地へ帰って神殿騎士団の一員となり、カストゥルはそんな彼女の宿命を打ち破るべく、ル・ヴィラエの神殿騎士団と一戦を交える決意を固める…。
これが最初に想定していたプロットです。どこがまずいのか？
一つには、やっぱりＰＣの動機です。このままだとカストゥルかフィオラのどちらかはダスクフレアにせざるを得ず、仮にそうしたとしても、ＰＣはどちらにも味方しない可能性があります（立ち位置を考えると、特にウィングとセブン）。
一応カストゥル／フィオラのダスクフレアデータは用意したのですが、この二人のどちらかを倒して終わり、というのではどうにも不完全燃焼です。本来のこのシナリオのダスクフレアはクーラグランとゼロであり、この二人と戦うモチベーションを作る必要があります。
さらに計算外の事態がもう一つ。アソウギが女性ＰＣになったことです（いや、男性ＰＣを指定すればよかったのですが）。アソウギが女性ＰＣになると「カストゥルが身を引く」理由がありません。むしろ身を引くのはフィオラの方です。フィオラが自ら身を引きながらカストゥルに難題をふっかけるのはおかしいし、カストゥルが応戦するのも変です。
…いかがでしょう。ＧＭがこの時どれだけ綱渡りな心境だったかお分かりいただけたでしょうか。さて、これがどのような展開になったのかと申しますと…。
ミドルフェイズ��
ここで次への展開のヒントが見つからなかったらどうしよう。内心ビクビクしつつ回想シーンへ。このシーンの描写はあらかじめ用意してありました。
大きな建物の庭の木陰で居眠りをしているアソウギ。そこへ一人の少女がやってきて、顔を覗き込むとくすくすと笑います。
フィオラ「お姉様。またサボりですか？」
アソウギ「（目を覚ます）…ん。しょうがないんだ。昨日は徹夜だったんだから」
フィオラ「（顔をしかめ）また寮を逃げ出そうとなさったんですか？」
アソウギ「なぜか、私の部屋がどんどん高い階に移動するからさ…」
フィオラ「（苦笑して）それは、お姉様がいつも逃げ出そうとなさるからですわ」
そこに、ふらりと細身の青年が現れます。
カストゥル「お姫様二人でまた悪巧みかい？」
イスタム新王国へ遊学していた、幸せだった頃のフィオラ、アソウギ、カストゥルの３人。他愛なくふざけあい、からかいあう３人。今はもう存在しない、遠い日の想い出…。
フィオラ「（ため息をついて）いつまでもこんな日が続けばいいのにね」
カストゥル「そうはいかんだろう。私とアソウギは領主で、君は神の血を引く神官。帰れば背負うものがある。このままというわけにはいかんさ」
アソウギ「（何気なく）フィオラ…カストゥルでもいいんだけどさ。私の領地攻めてくれないかな。無血開城するから。そしたらほら、争いもなくなるし、余計なものも背負わなくて済むじゃない」
ＧＭ以外のプレイヤー全員「うはｗｗｗｗｗ 責任回避キターーーーー！」
ＧＭ『（心の中で）ブレイクスルーキターーーーー！！！１１１』
繋がりました！ 私は心の中でアソウギに大喝采。
フィオラとカストゥルは『アソウギとの約束を守るために戦う』ことにすれば、（自分の言葉が原因ですから）ＰＣのモチベーションには十分です。しかも、動機が恋愛要素でなくなるので、アソウギの性別さえも問題ではなくなります。
これです。この瞬間こそ、私がマスタリングをしていて一番面白いと思う瞬間…ＧＭの予測を、シナリオの展開が越える瞬間です。
激しく安堵しつつ、慌ててプロットを再構築。
ミドルフェイズ��
そして、ついにカストゥルとアソウギが対面します。構築しなおしたプロットを元に会話する二人。
カストゥル「なぜ君が生きている？ 君は死んだのではなかったのか」
アソウギ「いや、死んだんだけど。戻ってきちゃったよ」
カストゥル「（頭を抱える）どうして今さら戻ってきたんだ、もう戦の準備は終わっているんだぞ…！」
アソウギ「それなんだけど、アムルタートとの戦いで戦費がかさんだのはわかるけど、どうしてフィオラがティラナスを攻めるの？」
カストゥル「フィオラは、君の死に私が一枚噛んでいると思っている。君が姿を消したとき、私が冷淡だったからだろうな」（←新プロット）
アソウギ「冷淡って…どうして？」
カストゥル「君は領主の座に乗り気ではなかったからな。正直に言おう。私は君が逃げ出したと思っていたんだ」（←新プロット）
アソウギ「なんだかヒドい言われようね」
カストゥル「（苦笑して）そう言うな。私は剣技でも、勉学でも、一度も君には叶わなかったんだぞ。それなのに君は、自分の責任から逃れようとしていたんだから」（←新プロット）
セブン「ちょっと待って。…ということは、アソウギが“自分を殺したのは誰か”をちゃんと話せば、フィオラは兵を引くってことね？」
そうなのです。当初のプロットではフィオラとカストゥルの戦いは双方納得ずくであり、戦いをやめるよう説得するのは困難です。
ところが、プレイヤーとの掛け合いの結果生まれた新しいプロットでは、二人を説得する必要がありません。原因がフィオラの勘違いなので、事情を話すだけでル・ヴィラエは兵を引くでしょう。つまり、カストゥルやフィオラと戦うという危険なプロットを簡単に回避できるのです。
なんて凄いプロットなんだ！
ウィング「（興味なさそうに話を聞いていたが、突然割り込む）今回の戦いの後ろで糸を引いているのは、君と同じ姿をした神だぞ、セブン」
セブン「まさか…姉様が…？」
ミドルフェイズ��
戦の準備をしているル・ヴィラエの陣営に直接乗り込んだ一行。鬼気迫る表情で軍勢の指揮を執るフィオラのところにやってきます。
フィオラ「あなたたちは何ですか！」
アソウギ「（こそこそと後ろから出てきて）やぁ。戻ってきちゃったよ」
フィオラ「…！ （その場にくたっと膝をついて）お、お姉様が、なぜ、どうして、ここに」
アソウギ「ほら、私叔父さんに殺されちゃって。黄泉帰りっていうのかな。幸いフレアなんてモノも持ってたらしくてバケモノにならずに済んだみたい。
…というわけで、カストゥルは別に関係ないんだ。アムルタートの方には何とか話をつけるから、ここは一端退いてもらえないかな？」
完璧です。ダスクフレアの登場する条件は全て揃いました。
クライマックスフェイズ��
ル・ヴィラエの軍勢を取り囲むように現れる、アムルタートの軍勢。指揮を執るのはクーラグラン。その傍らにはゼロがいます。
クーラグラン「…皆殺しにしろ！」
クーラグランは既にゼロのプロミネンスによって洗脳されており、竜としての名誉など忘れ去っています。次々と背後から襲いかかるスカベンジャーたちの前に、神殿騎士たちが次々と倒れていきます。
が、そこに現れるティラナスの軍勢。
カストゥル「加勢しろ！ 竜人を押し戻せ！」
オリジン側の連合軍は防御を固め、被害を食い止めます。
ルネ「…うまくいきましたね。問題は…」
軍勢を割って、クーラグラン、ペルロ、そしてゼロが現れます。
クライマックス��
ついにダスクフレアと対峙する一行。
ペルロ「アソウギ…なぜお前が生きている！ お前は死んだ！ 確かに殺したはずだ！」
アソウギ「うん、死んだけど」
ペルロ「（頭をかきむしって）ええい、ならばもう一度、今度こそ黄泉帰らぬように殺してくれる！ どうせ神殿騎士もティラナスもここで終わりだ！」
ルネ「（怖い口調で）本当にいいんですか？ ここで死んでいった者たちは、皆弔われることもなく、黄泉帰りとなって復活しますよ？ ここで私たちが倒れても、あなたは自分が殺した人間の手にかかって、必ず殺される。死者に敬意を払うことを知らない貴方は、必ず報いを受けるのです」
ペルロ「うるさい！ いい加減なことを言うな！ 何が死者の呪いだ…ッ！」
瞬間、アソウギの剣がペルロを一刀両断。
アソウギ「…これが死者の呪い。わかった？」
クーラグラン「やはり、あんたかウィング…！」
ウィング「陛下にお伺いを立てるまでもなかったな。申し開きがあるか？」
クーラグラン「兄上の最期を看取ったアンタならわかるはずだ。名誉ある戦いだ、戦士の誇りだといったところで、後ろから刺されて殺されてしまえばそれまでさ。
俺は学んだんだ、兄上の死から。『どんな手段を使っても、勝ったものこそが正しいのだ』と…」
ウィング「（冷たく）『それ』は、兄上から学んだのではあるまい」
クーラグラン「なに…？」
ウィング「お前の兄は、最期まで名誉ある戦士として闘い抜いて死んだのだ。その死に様は決して無様ではなかった。今のお前の無様なその姿とは、似ても似つかぬ」
全員「ウィングがマジカッコいいんですが！！！１１１」
ゼロ「やはり来たわね、セブン…」
セブン「姉様…」
ゼロ「私を姉と呼ぶな。私は父に捨てられた存在…お前の姉ではない」
セブン「私の守護する場所に、戦乱を巻き起こしたかったの？」
ゼロ「…お前が愛を司る女神なら、私はその正反対の存在。つまり『愛が存在しないこと』を司る存在。愛、友情…そういった絆の全てを否定する女神。絆のないところには争いが起きる…それは必然。
だが、最後はやはりお前が立ちはだかるか」
セブン「…」
ゼロ「お前にも、護り導く戦士がいるのだろう？ お前の戦士と私の戦士、どちらが勝つか…それで全てを終わりにしよう」
クライマックスフェイズ��
戦闘開始です。今までほとんどプレイヤー２人でしたので、プレイヤー４人でどんな状況になるかは、まだわかりません。一応、対応策として敵を二人出したのですが…。
ウィング「フェイタルハンティング＋完全奇襲で、シーン全体に攻撃」
セブン「じゃあ、それに女神の祝福＋闇よりの加護＋大魔王」
ルネ「じゃあ、セブンとウィングの両方に女神の祝福」
アソウギ「ついでに大いなる力で敵の達成値下げる」
ＧＭ「差分値２倍で…ダメージ３００！？」
一撃必殺。
なお、今回の敵はカオスフレア（クーラグラン）＋ダスクフレア（ゼロ）だったのですが…やはり、フレアなしのＮＰＣがダイス２つしか振れないのはきついです。素直にダスクフレア２人にした方がいいですね。
エンディングフェイズ��
セブンと同じ顔を持つ女神は、がっくりと崩折れ、その場に膝をついた。
「負けたか…所詮私はできそこないだな…」
だが、その慟哭とも悲哀ともつかぬ呟きに、七番目の女神はかぶりを振る。
「姉様…姉様がたどったそのダスクフレアの道こそ、デミウルゴスの悪しき望み、そのものなのです」
ゼロはかっと目を見開いた。
「…！ ハハハ、そうか。あの日、デミウルゴスに殺されかけて以来、この身の半分を機械に換えてまで、私はただデミウルゴスに逆らうために生き延びたというのに、それこそがデミウルゴスの思う壺だったとは…。運命とは皮肉なものだ。ならば私も最後に運命の皮肉に頼るとしよう」
ゼロが、すっと天に手をかざす。かすれた声が、尽きかけた息と共に漏れる。
「私が死んでも、我が魂がデミウルゴスの御許に赴くことのないように…」
“デミウルゴスの悪意”。それは、ダスクフレアの望みを叶えるプロミネンス。彼女の望みは叶ったのだろうか。
セブンがすっと、ゼロに手を差し伸べる。彼女を救うかのように。あの日、差し伸べられなかった手の代わりとでもいうように。
「どうしてお前はそう…」
しかし、その手が触れる瞬間、ゼロの体は砂となって消え去った。
エンディングフェイズ��
クーラグランの非道に怒り、殺戮に加わらなかったプレデターたち。しかし、それでも今回の戦でアムルタートが負けたことには変わりがない。消沈する戦士たちを率い、自陣へと帰って行くウィングの前に、一つの騎影が立ちはだかる。
「お疲れ様。…そうやって兵を率いるのも似合ってるじゃないか。どうだ、ジェネラルになってみないか？」
旧知のジェネラル、ハイゼンガーの涼しい顔に、ウィングは毒づいた。
「冗談じゃない。オレは一人の方が性に合ってるんだ。ジェネラルになるのはごめんだよ」
「そうか…残念だな」
青年は笑い、そして二つの影は共に街道を消えて行った。
エンディングフェイズ��
愛を司る女神は、また温泉につかっていた。二人の妹も一緒だ。
「ふう、旅の疲れを癒すのは、温泉に限るよ」
安堵の息をつくセブンに、妹たちはおずおずと聞いた。
「姉様、もしかして今回は…」
「うん、そうだよ」
その一言だけで妹たちは事情を察した。エイトがポツリと呟く。
「私は姉様やナインと一緒でよかったです。でなかったら私も同じようになっていたかも」
セブンが頷く。それは、彼女たち全員に言えることだ。
「でも、性格の曲がり方でいうとセブン姉様も似たようなものでは」
ナインがぼそりと言う。セブンとエイトがにっこりと微笑んだ。
「キミがそんなに立派に育ってくれてボクはとても嬉しいよ」
「でも口まで大きくなったのは困ったものねぇ？」
そして今日も、森にはナインの悲鳴が響き渡るのであった。
エンディングフェイズ��
久しぶりに神殿に戻り、ルネは一つ大きなのびをする。
このところの彼女のスケジュールはまさに殺人的だった。送る側が送られる側になっては洒落にもならない。
ル・ヴィラエとティラナスの和平、バーラムの復権、アムルタートの一時的撤退。人々には理解できない神々の事情、コラプサーの世界の物語を除いてしまうとそういうことになる。
戦場で散っていった多くの人々を送り出し、戦争の事後処理を済ませ、一息つくまでにずいぶんかかってしまった。
そして、彼女はちらりと思う。たった一人だけ、彼女が「送らなかった死者」のことを。
「…ま、いいか」
これからまた忙しくなるのだから、できなかったことをあれこれ言っても始まらない。
さて、とルネは腕まくりをし、再び執務に戻る。神様がいくらお節介好きとはいえ、いつも頼っているわけにはいかないのだから。
エンディングフェイズ��
バーラム伯領は、新しい領主を迎えていた。まだ若い…いや、幼いといったほうがいいだろう、一人の少年を。彼は、先代の領主の縁者であり、バーラムの正当な領主の養子ということになっている。
その先代は今日もまた、領主の教育係として少年を指導していた。教えることは山ほどある。彼女や叔父の失敗を繰り返さないために。
「領主としてまず大事なことは…」
アソウギが人差し指を立てる。
「信頼できる友達を作ることです。本当に信頼できる友達は、窮地に味方になってくれますから」
少年は他意もなく、純粋に聞き返した。
「アソウギ様にも、いたんですか？」
すると、アソウギの目が焦点を失い、遠い遠い、ここでないどこかを彷徨う。
「ずっとずっと、昔の話だけどね…」
2005年12月27日(火)
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