私はなんだかんだいいつつ、ぐっすり眠ってしまった。 娘はほとんど眠れなかったようだった。
娘の学校のクラスの先生宛に手紙を書き息子に持たせて送り出す。
「今日は受験の最後の合格発表の日です。 本人は自分の目で確かめたいと言っていますので一緒に連れていきます。 休ませますがよろしくお願いいたします。」
発表の会場まで向かう。
電車に乗っている間も、落ちてたら、落ちてたら、と話していた。
「ママは私が落ちると思ってるでしょ!」 「じゃあ受かる自信でも?」 「できたと思っても今までミスしてたりするし・・・。できたって言ってできてないと怒られるし・・・。」 「怒らないよ。」
「社会は漢字指定が2問わからなかった。でも何も書いてないと知らないんじゃないかと思われても嫌だし、ひらがなで書いたんじゃあ問題読んでるのかよ、と思われるから、小さくひらがなで書いてきた。部分点もらえる?」 「それはないなあ。(苦笑)」
「国語は自信ある。でも算数はもしかしたらミスがあるかも知れない。」
「満点取る必要はないよ。二科目で120点以上取れていればいいんだから。」 「そしたら取れてると思う。」
「ほんとかなあ。」 「また信用してないし。」
駅から学校まで歩く間、私の足が重くなる。 娘の足は早くなる。
発表会場で座って待つ。 どんどん人が増えていく。
「すっごい人がいっぱい。」
娘もびっくりしている。
発表のボードが出てくる。
座っていた人たちが、どわーっと一斉にボード前に集まっていく。
娘が先に降りていく。
私は後からゆっくり着いていく。
見るのが怖くてゆっくりゆっくり近づいていく。
私は目が悪い。
見えるか見えないか微妙な位置から、
あれ、娘の番号に見えるなあ。
また一歩近づく。
やっぱり娘の番号に見えるなあ。
もう一歩近づく。
娘のほうを見る。
娘もどんどんボードに近づいていく。
番号を見る。
やっぱりあるかも・・・。
娘を見る。
私の目と合わせ、「あった!」と娘が言う。
今まで一度も見たことない顔で、びっくりしたような喜んでいるような顔して「あった!」と言う。
「良かった〜、良かった〜。」
と、娘の肩を抱き号泣してしまった。
「本当に良かった、本当に良かった。」
娘の目からも涙がこぼれていた。
合格通知書をもらうために並ぶ。
保護者のほとんどは泣いていた。
娘が塾に電話する。 クラス担当に代わる。
「うそーーー!!!マジーーー!!!やったーーー!!!」
いつもは感情を表に出しそうもないクラス担当が叫んで喜んだそうだ。
夫に言わせると話し方とか表現の仕方が渡部篤郎さんにそっくりと言う。 (私は以前夫に、武田真司をひょろっと背を高くした感じ、と話していたんだが)
その後次々と先生が代わり、娘の合格を祝ってくれた。
夫に電話。
電話の向こうが暗い・・・。 「受かったよ。」 「・・・やったぁーー!!!(娘に)代わって!」
父親の喜ぶ声を聞き、娘の目からまた涙がこぼれている。
お義父さんに電話。 孫娘が心配で心配で夜も眠れていないみたいだった。
「じじ、泣いてたよ。声が震えてた。」
娘が嬉しそうに話す。
お義母さんに電話。
「どこだって受かればいいじゃない。」
ってどういう意味よ。どこだって・・・って、まあお義母さんなりの励ましの言葉なんだろうが・・・。
娘も同じように言われて、ちょっとムッとしていたが・・・。
偏差値的には第一希望校も第二希望校も同じなんですけど・・・。 まあ仕方ない。
友だち二人にメール。
昨夜、娘が友だちにメールしたのに何も書いていなかったようで、そのお母さんから朝に心配のメールが届いていた。 「何も書いてなかったからひょっとして何か言いたかったんじゃないか。」と。
何も書いていなかったのは本人の単なるボケだったこと。 合格したこと。
昨日「祈ってるよ」と送ってくれた友だちに報告。
喜んで感動して涙してくれた様子の返信。 友だちは2日で受験が終わったそうだ。うちには手が届かない上位校。恐るべし天才。
お昼は横浜駅で。
夫にメール。
「合格のお酒買わないとー。」 「早いほうがいいだろ。今日早く帰れるからいこう。」
家に帰ってきてインターネットを見る。 娘の番号がある。 喜ぶ。
かけこみ組の2科生は10人中1人しか受かっていない。 かけこみ組の4科生は2人に1人は受かっている。
ダブル出願組は5人に1人が受かっている。
娘の友だちは?
娘の教室は20人近くいて4人受かっている。 娘の友だちの教室は20人近くいて2人しか受かっていない。
受かってるといいね。 この2人のどちらかだといいね。
息子が帰ってくる。
帰ってきたら寝たいって言ってた娘だが、息子が帰ってきて「おめでとう。」と言われ嬉しそう。 「一緒に遊ぼう。」と言われ、マンションの敷地内に遊びにいく。
今日は息子の塾の本科スタート日。 娘も連れて一緒に送りに行く。
息子と別れると、お酒を買うところを探す。 いろいろ歩き回り、駅ビルの百貨店地下にも酒屋があることを思い出す。
どれにする? と話ながら決めかねていると、後からきた母&子に向かって店員さんが「塾へのお礼ですと・・・箱に入ったものを包装してのしをつけて・・・。」と話している。
「ねえ、これでいいんじゃない?あの子、同じ塾だから。」
と、娘。
レジに持っていき、塾のお礼だと言うと、 「N研さんですね。お子さんのお名前をここに書いてください。」 タイプライターなのか、打ち込むと印刷された「のし」が出てきた。
手慣れたものだ。
私たちの次にも何組か書いている人がいた。
みんなここで買うのかな。
息子を待つ間、平日半額のケーキセットの店に行く。
時間になって息子を迎えに行き、子ども売場のベンチに座る。 子どもたちはおもちゃなどを見て時間を潰す。
6時半、夫と合流。
塾に入ると、クラス担当が合格の発表の紙を貼っていた。 入口の目立つところには届けられたお酒が並べられていた。 私が買ったところと同じ包装紙のお酒が多く並んでいる。
夫はクラス担当と話す。
私は持ってきたお酒を他の先生に渡す。
「受験校書いてありますか?」
娘に自分で書かせる。 嬉しそうだ。
夫とクラス担当は、目を真っ赤にしながら話している。 二人とも、泣いているんだ。
室長が来る。 室長の目がみるみる真っ赤になる。
「本当によかった。よかった。」
室長も泣くんだ・・・。
「最後まであきらめずによく頑張りました。お母さんお疲れさまでした。下のお子さんはまだ先ですから、しばらくのんびりしてください。今日はゆっくり休んでください。」
みんなが「本当に良かった、良かった。」と言ってくれる。
最終日に届けてくれた先生に、
先生いるかなあ、って気力が下がりきっていたこと。 先生が渡してくれたからこそ、合格できたこと。
先生も渡さなきゃって必死だったそうだ。
そして(すぐ書けるように削られた)鉛筆にチョークがついていたこと。
「あ、きっとそこで○○先生が削っていたからです。」
「そのチョークがついていたから合格したのかも。」
クラス担当に、 「先生のお陰だって言っていました。先生がずっと横で一緒に勉強してくれたお陰で合格したって。」 先生は嬉しそうに目を赤くしていた。
最後の保護者会で室長が言っていた。 落ちたら来てください。必ず来てください。
だから娘は毎日塾に通った。 テストを受けて、塾の近くでご飯を食べて、夜遅くまで塾で勉強した。 落ちても、落ちても、毎日これを繰り返した。 各担当の先生たちも控えていて、娘の質問にわかりやすく教えてくれた。 クラス担当の先生も調べながら解いてくれたようだ。 度忘れてしてしまった解き方とか、聞きながら思い出していた。
毎日塾に通ってよかった。 塾で勉強してよかった。 そう娘は言った。
友だちが受かってるといいなって話していたんですけど・・・。 クラス担当に小声で話す。
友だちが受けた教室では2人しか受かっていなかったので、その2人のどちらかだといいなって、と話してたんです、と。
「○○ちゃんは駄目でした・・・。」
「そうですか・・・。」
先生の目はまだ真っ赤だった。
「うん、うん。」
と頷きながら真っ赤だった。
娘のNバックにはその子からのメッセージがあった。 「もし受かったらいっしょにいこうね。」
この子がいたから娘も頑張れた。
1日も2日も3日も4日も駄目で、でもその娘がいたから頑張れた。
その子は初日に午後受験した学校に行く。
合格の裏には不合格がいる。 思い知らされた。
娘はまた泣いた。 友だちが落ちた。 また泣いた。
合格した喜びと、悲しみと、ごちゃごちゃになって泣いた。
女の先生たちがとびきりの笑顔で喜んでくれている顔と、目を真っ赤にして泣いている男三人(夫,クラス担当,室長)の顔が印象的だった。みんな本当に喜んでくれている、そう思った。
ここまで読んでくださって本当にありがとうございます。
中学受験をさせたことが良かったのかどうか分かりません。 でも娘が頑張ってきたことは、娘自身もわかっているから、きっとこれから先も乗り越えていけると思います。 合格を得たから言えることなのかもしれないけど、落ちていたとしても、もう後悔はないね、と話していっぱいいっぱい泣いたから言えることなのかもしれません。
全落ちしてしまったら、きっと子どもは辛かったろうと思います。 下の子の時には絶対滑り止めを受けさせようと思いました。 たとえその学校に入学させなくても、全部落ちてしまっては駄目だと思い知らされました。
娘の場合は、滑り止めを受けなかったから最後に合格できたのかもしれません。 どっちが良かったのか本当のところはわかりませんが、
毎日塾に行かなければ合格はあり得なかった。 クラス担当が一緒に勉強してくれなければ合格はあり得なかった。 クラス担当が他の学校ではなくうちの子の受ける学校に来てくれなければ合格はあり得なかった。 最終日にクラス担当からの鉛筆とホカロンを渡されなければ合格はあり得なかった。 義父母からのFAXがなければ合格はあり得なかった。 友だちからの応援メッセージがなければ合格はあり得なかった。 同じ志望校で一緒に闘える友人がいなければ合格はあり得なかった。 娘自身が発表を見て現実を受け止めなければ合格はあり得なかった。 そのほかにもいっぱいいっぱいあります。 何ひとつ欠けても合格はあり得なかった。
本当にそう思います。
クラス担当が真っ赤に腫らした目も、室長が真っ赤に腫らした目も、父親が真っ赤に腫らした目も、娘には財産になったと思います。自分が頑張って結果を得て喜んでくれたこと、宝物だと思います。
「ありがとう。ドラマみたいだったね。よく頑張りました。」
娘の受験は終わりました。 長い戦いでした。 本当に疲れました。 もう二度と経験したくないけど、また下の子があります。 娘より勉強ができません。 それで同じ志望校です。 一番下のクラス、8列中の3列目です。 気が遠くなるような位置にいます。 この成績では偏差値50近くの学校は無理なんじゃないかと思います。 しばらく様子見です。
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