雨で夫が休みだった。 夫は昼前から免許の書き換えに出かけ、4時過ぎに帰ってきた。
私はPCに向かって入力の仕事をカチャカチャやりながら、
「(今月)パパから1万円借りて返してなかったっけ?」 「ああ、米代が無いってね。」 「月末に返すからあと1万貸してもらえるかなー。」
「そんなんで受験できるの? ちゃんとお金貯めてるの?」 「そんなの前に言ったよ。経済的に無理、って。(娘の)受験のために貯めてたお金は305号室から102号室に引っ越した時(階下から苦情があって家に帰るなり電話攻めが続いて別マンションに引っ越したことがあった)に、解約して使っちゃったじゃない。だからそれ以来ないよ。」
「だからお前にはお金を渡せないんだ。」 「私、使ってないよ。パパだってわかってるでしょ。銀行引き落としで手元に持って帰るのが12万? そこからパパのおこづかい5万引いて残り7万。そこから塾代25000円、ピアノ7000円、囲碁教室5000円、マンションの管理費20000円、食費、病院代。。」
「俺の小遣いは昼飯代だよ。だったら外食もやめればいいんだ。」
「私は昼ご飯だって食べないよ(会社に通ってた1ヶ月半はお金がもったいなくてほとんど昼は食べなかった)。だけどそんなのいちいち言ってないじゃん。自分の昼飯5回も我慢すれば家族で外食ができる。私はその方がいいからそうしてるだけだよ。パパにそうしろとも言ってない。自分の勝手でそうしてるだけで、でもそんなのいちいち言ってないじゃん。自分がやりたいことは何か我慢してお金を作る。それをとやかく言われたくない。」
「お前のお金は遊ぶ金じゃないんかい。生活費を補うためか。だったら受験なんて無理じゃん。辞めよう。」
「だからー、6年になったら旅行行かないんでしょ? 旅行行かなかったらボーナスから払えるじゃない。保険からだってお金借りられるし。お金のことで受験できないんじゃない?って言った時、俺が何とかするって言ったの自分だよ。」
「100万単位の金がいるんだよ。俺がポンとお金出せるとでも思ってるの?」
「そんなこと言ってないよ。そう言ったでしょって言ってるの。今までだって何とかなってきたじゃない。なんでそうなるかな。」
「なんでそうなるかじゃないよ。お前はそうやってカチャカチャカチャカチャパソコンに向かって、俺の金だけじゃ生活できないから仕方ないんだけどよー。お前が働かなきゃまともに生活できないってことだろ。俺はお前を養っていけないってことだろ。だったら俺なんていなくていいじゃん。死んじゃえばいいじゃん。必要ないじゃん。保険で何とか生きていけよ。何もしない、何もしないって言われて冗談じゃないよ。他の旦那は何してくれるって言うんだよ。」
「洗濯、掃除する旦那さんだってよく聞くよ。パパにそんなこと求めてないよ。人には得意不得意があるんだろうから、無理してやることない。」
「俺だって必死に働いてるんだよ。」
「必死に働いているのはみんな同じ。受験でお金がかかるから、みんな奥さんだって働きに出てる。みんな同じだよ。期間限定で頑張らなきゃならないときがある。ある人なんて3ヶ月って決めて夜中も働いてたよ。それくらいして乗り越えなきゃならないときもあるってことだよ。」
「そんなのよく旦那が許すな。」
「旦那が帰ってきてから交代で居酒屋やファミレスで働くんだよ。うちは在宅で家で仕事できるんだから、いいじゃない。」
「そんなの当たり前だ。外で働くなんて許さない。」
「でもね、打ち合わせだってあるし、行かなきゃならない時がある。会って話さなければ決められないこともある。通常30分、長くて2時間、それはその時の状況によって私が決められることじゃない。クライアントとのそのやりとりの中で、話の流れで、金額だって量だって変わる。」
「昼飯も食ってなくて腹減った。」
「いつもそんなこと言わないで勝手に食べてるじゃない。なんで人が仕事してる横でわざとらしく言うの? (PM)6時にご飯が出来ていないと駄目なの? だったらそう言ってくれる? いつもなら子どもがこれからテスト受けに行くってときに、子どもが出かける間際に自分の分だけ作って勝手に食べてるじゃない。」
「わざとやってるんだ。」
「はー? 6時半には起きてて、子どもが出かけるのは8時半で、それまで何もしないのに出かける直前に、子どもは見るだけで食べられないのに、わざわざ作るんだ。考えられないよ。何も言わなかったよ、でもおかしいよ、それ。自分のことしかないんじゃん。」
「お前が作らないからだろ。」
「あのね、朝からちゃんとご飯作る人の方が少ないと思います。朝はパンでいいの。」
「。。パンでいいよ。」
「だったらいいじゃん。」
夫がレトルトカレーを温め、子どもたちを呼ぶ。
「今日は、ハンバーグを作ろうと思って、ほら、もうひき肉解凍しているところなんですー。ほら。」
とキッチンのテーブルに出ている材料を見せる。
「近くに寄ってったってけむたがられてよー、俺がいっぱいいっぱいで弱音吐いて、俺は誰に支えてもらえばいいの? 俺はひとりぼっちなの? 一週間かかる仕事、3日でやらなきゃいけない、俺がお前に仕事のことで愚痴言ったことある? そんな時に「卵買ってきて」「キャベツ買ってきて」いつも買ってきたよ。1000万の仕事の話をしてる時に「お米買ってきて」俺は何なの? ただ何も言わずに親父やお袋が給料払ってくれると思ってるの? もういいよ。お前なら俺じゃなくたって、面倒見てくれるやつがいるよ。俺には無理なんだろ。俺と別れて他の誰かと一緒になればいいじゃない。きちんと生活できるやつと一緒になればいいじゃない。もういいよ。お前なんかいらない。お前なんか出てけ。お前なんかどっかいっちゃえ。もう帰って来なくていい。」
夫の目が真っ赤になっていた。
私は涙がぽろぽろ流れた。 「ごめん、ごめんね。ごめん、ごめん。」
皿に盛られたカレーと、夫を残し、息子の部屋で声かける。 「一緒に卵買いに行こう?」
近くのコンビニが改装中なので、ちょっとだけ遠いコンビニに行く。 息子と手をつなぎ、ふらりふらりと歩く。
卵買って帰ってきてハンバーグを作る。 夫は布団をかけて眠ってしまっている。 疲れたんだろうな。
「ハンバーグできたよ。一緒に食べよ。」
「うん。。」
目をつぶって答えている。
「ごめんね。」
おでこにキスをして頭をなでなでする。
夫を残し、子どもたちと美味しい美味しいといいながら食べる。
途中、目玉焼きも乗せようということになり、息子が目玉焼きを焼いてくれる。
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