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[2005年11月29日(火)] 天井裏より愛を込めて 最終話


 7月1日。晴れ。

 空はどこまでも青く、夏が来たのだと教えてくれる。

 今日もいい一日になりそうだ。









天井裏より愛を込めて
 最終話「成仏するって本当ですか?」









 俺は自分が車に轢かれた場所に来ていた。真新しい花束が置かれている他は、誰もここで人が死んだなんて思うまう。俺自身、未だにちょっと信じられない。

 ……ちなみに、俺の花束の横に山盛りに置かれているドッグフードは俺の意識から意図的に削除されている。いや、アイ○は喰わんだろ、それ。

 誰もそこを意識せず、手も合わせない。日常。

 人一人死んでも世界は変わらず回り続ける。そりゃそうだ、俺なんて人間をいったいどれだけの人物が知っている? 世界を回す歯車でありながら、それがなくなったところですぐに代用が利くぐらいの代物だ。

 別に悲観的になってるわけじゃない。おそらく、今生きてる人間の大半はそういった存在なのだ。

 だったら未練がましく現世に留まっている理由もなくなるんじゃないだろうか。そう思う自分がいる。

「ここに、いましたの?」

 じっと花束を見つめる俺に、後ろからかけてくる声がひとつ。振り返るまでもなく、巫女だと分かった。

「ああ。ってお前、何を撮っている?」

 振り返ると、こちらにビデオカメラを向けている巫女。

「今度、呪いのビデオに投稿しますの。謝礼でも貰っておいしいものを食べにいきますの」

「人で稼ぐなよ、ったく」

 巫女っていうのは儲からない商売なのだろうか?

「それで、どうしたんですの? こんなところで黄昏て」

「いや、ちょっとな……」

 俺は空を仰ぎ見た。釣られるように巫女も視線を上へと向ける。梅雨は抜けたのか、どこまでも青い空がすべてを包むように存在している。天国ってのはきっと、この青い空よりももっと向こうにあるのだろうな、とか考えてみる。

「そろそろ成仏でもするか、と思ってな」

 天気の話しでもするように、ことさら何でもないことのように言う。それを聞いて巫女は、「そうですの」と淡白に答えた。

「なんだよ、『成仏するくらいなら、私が祓って差し上げますの』ぐらい言うかと思った」

「国寺さんは私のことをどう思ってますの?」

 心外だとばかりに、頬を膨らませて抗議してくる巫女。

「巫女は魂をあるべき場所に案内するのが仕事ですの。自発的に逝かれるのであればそれに越したことはありませんの」

 説得しても駄目でしたら御払いですの、と巫女は続けた。

 だが、

「俺ってば、説得された覚えないんだが?」

 確か、出会ってすぐに襲われた気がするのは気のせいか?

「ちゃんと、『成仏なさいませんか?』と聞きましたの」

「えっと、それだけ?」

「要望は正確に簡潔に。ネゴシエーションの基本ですの」

「交渉の余地すらなかったと思うぞ?」

「気にしちゃめー、ですの」

 有無を言わせぬ笑顔でそう言われては返す言葉もない。

「ま、あんまりダラダラ話すものあれだし、そろそろ行くわ」

 もう思い残すことは何もない。そう思うと、身体の感覚が消えていくのを感じる。これが、成仏するってことなのか。

「国寺さん」

 白んでいく意識の中で、巫女の声が聞こえる。

 巫女の方を見るが、視界も白く薄くなっているのでよくは分からない。が、多分微笑んでいるのだと思う。

「ごきげんよう。よい来世を」

「ああ。そっちこそ、よい現世を、だ」

 俺の声は彼女に届いたのだろうか。

 そう考えると同時に、眠りにつくように意識が沈む込んでいく……。









 ゆっくりと目覚めるときと同じように、意識が浮上してくる。

 俺はぼやける頭を振って、周囲を見渡す。

 ここが天国というところか。スモーク炊き過ぎのスタジオみたいな、如何にも俺が思い描いていた天国と変わらないために苦笑する。

「あっ! おじちゃん!」

 ひょっこりとスモークの中から顔を出したのは、病院で出会った少女。

「こっちに来たんだ」

「いつまでも未練がましく成仏しないっていうのもなんだったからな」

「そっか。またお話が出来るね!」

 嬉しそうに俺の周りを跳ね回る少女。

「私もいるわよぉん」

「探したぞ、国寺真よ」

「ってなんでお前等もいるんだよっ!? つーか宗教違うだろっ!!」

 まぁ、巫女がいないだけましか?

「ひどいですの。私もいますのに」

「ってお前人間だろっ!?」

「死んじゃいましたの。目の前を歩いてたi−D○gを助けようとして」

「俺と一緒かよっ!? しかもぱちモンっ!? つーか伏字になってないしっ!!」

 俺の悲鳴は、おそらく天国中に響き渡ったと思う。



 どうやら俺が平穏を手に入れるのは、随分と先になることが判明しました。

 退屈でないのはマシだが、限度ってものがありませんか。神様?









 おわり









 後書きという名のダイングメッセージ。



 ひとまず、「天井裏より愛を込めて」はここで終了です。

 もうちょっとネタはあるのですが友人から、「国寺が可哀想だからさっさと成仏させてやれ」と言われたものでw

 ああやりたかったなぁ。死神に名前をつけたら死神から人間になってしまったり、とか。もちろん、その回のタイトルは「これって死神ルートなんですか?」ですが(爆)

 とまぁ、妄想全開フル稼働で書いたこの話ですが、もともとは今書いているやつがまったく進まないので、友人にネタを振られて2時間ばかりで書き上げたのがそもそもの始まりです。

 本当は6話辺りで終わるはずだったのですが、巫女が出たことにより急展開。あとは趣味に走りまくり、下り坂を転がり落ちるような感じでしょうか?

 というか、3話あたりで思い描いていたストーリーとは180度ベクトルが変わっていたりします。ああ、自分の文才のなさが憎い。

 長々と能書きを垂れてもなんなので、この辺で。

 それではみなさん、来世でお会いしましょう。





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