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[2005年11月24日(木)] 天井裏より愛を込めて 第七話

 俺、国寺 真。現在幽霊のくせに逃走中です。

 詳しくは、聞くな。









天井裏より愛を込めて
 第七話「晴れ、ところにより死神娘」









 快晴というか、ピーカン照りとでもいうか、とにかく凶悪なほどに紫外線を垂れ流すお天道様を頭上に抱えて、俺はのんびりと宙に浮いていた。

 ハンモックだとか、空中ブランコだとか、そんな落ちではなく、実際に宙に浮いている。

 どこぞの新米巫女とやらに一晩中追い掛け回され、幾度となく命の危険に曝された結果、幽霊として進化したらしい。

 このままいくと、ポルターガイストできたり、誰かに乗り移れたり、誰かを呪い殺せる日も、そう遠くないのかもしれない。

 しかし、しかしだ。もしも宙に浮かぶきっかけになった、あの恐怖以上のものを体験しなければ、これ以上の能力が身につかないのだとしたら…………。

 おっ、俺はこのままでいい! いいです神様!! どうか、どうかあれを二度も体験しなければならないような事態は勘弁してください!!

 だってあれですよ!? 俺が全力で逃げてるのにゆっくり「カツッ、カツッ、カツッ」とか後ろから聞こえてきたりだとか、四つ角でどっちに行こうか迷ってたらいきなり「どちらに行かれるんですの?」とか言って追いかけてきた方向とは別の方から現れたりだとか、突然地面から「おほほほほ。無駄ですの」とか言いながら現れたりだとか、下手なホラー映画より怖かったんですよ!?

 そんな恐怖の果てが、ただ浮くだけなら俺はそれでいい。これ以上何を望めっていうんだ。人間、謙虚なのが一番よいのです。あせらず、ゆっくり、のんびりと生きていければそれで十分なんです。

 慌てない、慌てない。一休み、一休み。

 俺は最近習得した、空中で横に寝転ぶを発動。そのまま風の向くまま、気の向くままを完全再現した状態で眠りにつこうとした。



 ……今度の敵は空からやってくる、らしい。



 最初に見えたのは、飛行機雲だった。すごい勢いで作成される雲を見て、少し感動した。

 それからなぜかわからないが、その雲がこちらを目指しているのに気が付いて嫌な予感がした。

 急いでその場所から逃げようとしたが、無駄だった。どうやら自動追尾機能を内蔵していたらしい。

 あ、死ぬな。と思った瞬間に、視界がぶれた。次に腹に軽い衝撃。最後に音がやってきた。うわぁ、ひょっとして音速超えちゃってますかぁ〜? なんだか、きもちよくなってきたなぁ〜。も、う、ね、む、い、よ、ぱ、と、ら、…………



 ―― そして世界は動き出す。



 まず最初に感じたのは、背中に何かを叩き付けられる感触だった。次に全身を貫く衝撃。最後に、腹に突き刺さる痛み。

 それは、幽霊になってはじめて感じるもの。死んでから二度と感じることはあるまいと思っていたもの。

 ……でも、ぶっちゃけてうれしくとも何ともない。

「つーか、痛いっ!? 痛いって!! 痛いって言ってるだろうがクソッタレ!!」

 そうなのです。痛いのです。痛くて悶絶ものです。つーかこれくらいで済んでるのがなんだか奇跡っぽくて泣けてきますけどどうですか?

「言葉遣いが悪い。50点」

「つーか人の腹の上でなにやってやがる!!」

 腹の上にいたのは、一人の少女だった。銀色の長い髪を頭の左右で括っている――俗に言うツインテールってやつですな。

 金色の瞳には何の感情も宿しておらず、波のない湖のように静まり返っている。

 精巧な西洋人形を思わせる容姿だが、なまじ動くだけに奇妙というか、奇怪な印象を受ける。

 こいつが下手人らしい。

「汝(なんじ)の名、国寺 真で相違ないな?」

 黒塗りに表紙は骸骨の銀細工というお世辞にも趣味がいいとはいえない本を開きながら、少女は言った。

「ああそうだ。っていうかいい加減俺の腹から降りろ! つーかなんで俺の名前知ってんだ?」

「質疑が多い。どれか一つにしろ」

「じゃあ、えーっと。アンタ誰?」

「我に名はない。ただの死神だ」

「へぇ、ふぅん、そう、死神ねぇ。…………死神? あのでっかい鎌持って、人の命を刈る、あの死神?」

「ああ、そのとおりだ」

 そういって目の前の少女は、俺の腹に乗ったまま背中から巨大な鎌を出して見せた。……絶対に入れるスペースなんて存在しないと思うのだが、聞いたら負けになってしまうのだろうか。

 い、いや、そんなことよりももっと気になることが存在する。

「あの、なんでワタクシにその大きな鎌を向けておられるのでしょうか?」

「今宵の獲物は汝ゆえ」

「うわっ随分直接的ですね。ていうか、俺刈られるの決定!?」

「安心しろ、痛いのは一瞬だけだ」

「どっかで聞いたよその台詞!? つーかマウントポジション!?」

 やばい。刈られる。いろんなもんがいろいろと刈られてしまう気がする。

「あ、あの、な、なんで俺が獲物なんですかっ!?」

 死神娘はしばらくじっと俺の目を見つめる。あー、なんとなく蛇に睨まれたカエルってやつの気持ちがわかった気がする。

「……なんとなく?」

「疑問系でしかも俺に聞くなよっ!?」

 き、昨日とまったく同じような展開になっているのは気のせいでせうか?

「さぁ、我に身を任せるがいい」

「なんか絶対違うっ!!」



 こうして俺は、巫女さんだけでなく、死神にまでも命を狙われることになったのでした。

 嬉しくねぇ、絶対に嬉しくねぇ。

 ……これ以上、増えないよな?



 どっかのエロゲかラブコメの主人公のような展開とか言っちゃダメだぞ?









 次回予告

 死神娘が言うには、俺は死ぬべき運命(さだめ)にはなかったらしい。

 もう変えるべき肉体もないので、このまま魂のみ彷徨い続けると、なんかスンゴイことになるから刈り取りに来たそうだ。

 ……そういうことは、本編でいいやがれ。



天井裏より愛を込めて
 第八話「我が名は、我が名は、我が名は…………何がいいと思う?」























 死神娘のモデルは○ンテールだとかブリュンヒル○と思っていてくれれば問題ないっす(判る人だけ判っててくれ





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