Niseko-Rossy Pi-Pikoe Review
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2012年10月22日(月) 「タダマス7」後記




7−9月入手の夏枯れ予想も何のその、益子博之=多田雅範四谷音盤茶会7、選曲された10(+1)曲、捨て曲無しのトータルアルバムみたいな楽しさがあった。なにか「兆候」と明示できるものは言明できなかったけれども、「これに快楽を感じている!」という強度のヴァリエーションたちは、とても「ジャズ」の枠には収まっていないものたちであって、確実にシーンは雑多にうごめいていてところどころに発火点のポイントがあった。ジャズに聴こえないジャズの未来は、こんなかんじの向こう側に視えているのではないだろうか。

01 Jeremiah Cymerman
サイマーマンの『Fire Sign』にはまったくグルメなサウンド編集者ぶりに圧倒されていた。快楽主義者(たぶん)エヴァンパーカーの賞賛もわかる。おれはインプロとジャズに誤解(*1)を持っているので、このコンポーザー資質には新しい世代の感覚を覚える(菅野よう子に似ているとも思った)。空間的な音場の隅々にまで耳をそばだててしまうのは、かすかな音の配置や処理具合によるんだろう。それはそうとして、魅惑的に感じられるのは曲の強度による。

02 Eyvind Kang
フリーゼルとの作品や、spoolレーベルのコレでブノワ・デルベックの僚友フランソワ・ウールとの「らしい」作品のあるアイヴィン・カン。韓国系アイスランド人だそう。このひとも「空間的な音場の隅々にまで耳をそばだてさせる」弦楽アンサンブルを問うている。いきなり「化けた」感じ。

03 Paul Lytton / Nate Wooley
このトラックはイクエ・モリのラップトップの空間的描出が効果的かつ魅力的。ポール・リットンのドラムワークは後方で聴こえるように処理されている。いわゆるラップトップの演奏は見限っていたのだけど、この演奏はいい。CDではケン・ヴァンダーマークが入るとただのフリージャズになってしまう。

04 Alexandra Grimal
Todd Neufeld (g), Thomas Morgan (b), Tyshawn Sorey (ds) を従えた女性サックス・カルテット。サックス以外の3にんが、トランス状態の集中インプロ、まさに菊地雅章TPTトリオの速度と集中、に、インした演奏。こ、これ、これですよ、この無重力に投げ出されてしまう別格の境地!

05 Paradoxical Frog
Ingrid Laubrock (ts,ss) Kris Davis (p) Tyshawn Sorey (melodica) ソーレイのメロディカ!これもヘンで強度あるドキドキするナンバーだったなー。

06 Dave King
おれ、バッドプラス興味ないし。アイヴァーソンがECMでピアノ弾いたのは、一定の評価ができる味わいだったけれど。デイヴ・キングはバッドプラスのタイコで、このトラックでは waterphone を繰っている。ミネソタの小さな教会でのライブ録音、の、サウンドのオーラがなんか凄い。演奏自体は技巧的にはそれほどでもない。

07 Jozef Dumoulin Trio
初聴きでゾッコンになった変態ロック的なピアノトリオならぬフェンダーローズ・トリオ。あ、これはポスト・ジョー・ザヴィヌルであると益子さんが指摘していたのではなかったっけ(打合時)。ベルギーの才能かー、クレプスキュールな肌触りあるな。

08 Hafez Madizadeh
ヴィジェイ・アイヤーがイラク音階に調律されたピアノを弾く。阿鼻叫喚。他の楽器群によるサウンドは、オーネット・コールマン近傍な聴きやすさがあるのに、ピアノがやばい。もう、これ無しには生きてゆけない、恋の予感。そしてやがて平均律な音楽を聴くと吐き気がしてくるのだ。ビル・エヴァンス・トリオが悪魔の音楽に聴こえるようになる。

09 Jessica Lurie Ensemble
このトラックはポップスな歌もの。初期のケイト・ブッシュ的世界を描き、後半のアレンジはピンク・フロイドの夢の中のジュリアみたいな。バンジョー界のステーブ・ヴァイ、ブランダン・シーブルックも吉。言わんとするところは、もはやジャズ体験による純粋培養のミュージシャンなんか居なくて、自然にポップスの表現が出てきてしまうこと。

10 Tony Malaby / Per-Oscar Nilsson / Johnny Amon / Peter Nilsson
マラビーもヨーロッパじゅうに出かけてるのね。ルシアン・ヴァンのエネスク・プロジェクトが11月にあるんでフランス公演するみたいだし(マットマネリも他のみんなもね)。これはスウェーデンでの遠征成果。朗々と吹くマラビー。ふと、激しいジョンサーマンがECMにて孤独の旋律を吹き出した変節を想起した。

Extra加藤崇之/ 是安則克 / 山崎比呂志
なんとLast Step To Heaven (加藤崇之)なんて曲を97年に彼らは演っていたのね。不思議と、今回の1・2曲目で聴かれた「空間的な音場の隅々にまで耳をそばだててしまう」感覚を起動させるコンテンポラリーな作品でもあった。


タダマス7開場時には、加藤訓子の『プレイズ・ライヒ」(リン盤)を益子さんがかけていた。いやー、いいサウンドだ。26日には加藤訓子パーカッションリサイタルに出かけるらしい。

おれは前夜に警備員仲間のキムラさんがコテコテデラックスの真髄だとブーガルー・ジョー・ジョーンズやソニー・コックスをかけていて、一緒にグランディスに乗り込んでアイフォンのYou Tubeに耳をそばだてたり、これはオザケンの「暗闇から手を伸ばせ」のリズムセクションの設定にヒントを与えていたもんだと叫んだりしていたので、ノリがコテコテになった身体であった。とても耳がダウンタウンの現代ジャズにフィットできないのではないかと臨んだが、杞憂だった。


(*1)
おいらのジャズとインプロの誤解は、リアルタイム同時演奏しているという感覚である。コンポジションを前提して聴くクラシック的なまたはポップス的な聴き、と、くっきりとセンを引いて二分しているわけでもないグラデュエーションかかっているけど。ヴィトウスの名盤『ユニヴァーサル・シンコペーション』で違和なコリアやマクラフリンの挿入。考えてみればマイルスなんて編集の成果ばりばりだし、マイルスのライブはひどいの多いし。サイマーマンの演奏は編集された成果というかコンポジションである。初恋の「Burned Across The Sky」は一発録りなのかー。アンドラーシュ・シフの演奏にはインプロヴィゼーションが詰まっているし、TPTトリオには譜面に書けないコンポジションが成り立っているし。なんか言葉いじりになってきた。


Niseko-Rossy Pi-Pikoe |編集CDR寒山拾得交換会musicircus

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