Niseko-Rossy Pi-Pikoe Review
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2009年02月08日(日) カウンターカレント / 日野=菊地クインテット

9日午前2時31分。たばこを買いに外に出ると、満月が真っ白に輝いて円環を放っている。
気温は3度くらいか。
夕刻から寝くさっていて腹が空いて起きたところ、風呂で温まって死者の書を読んでいると、おれもよみがえってくるようだ。
お湯につからんと元気になれないだけなんだが。
風呂で読めるプラスチック製の文庫で読む折口はすぐに練馬を生死の境にしてしまう。



カウンターカレント / 日野=菊地クインテット

まずこれは、聴かれなければならない。菊地雅章がピックアップした新しい才能、サックスのマイケル・アティアス、ベースのトーマス・モーガン、この二人を擁した、タイコはマエストロ、ポールモチアン、という、菊地雅章カルテットでの瞠目すべきジャズ演奏が並んでいる。足を引っ張っているのが世界のヒノテル。ソニーは伝説とも言うべき日野=菊地クインテットをリリースしたんだと思うよ。企画会議はそれで通るだろう。

1曲目、このベースとタイコの始まりの不穏な雰囲気は絶品だろう。菊地がインして、さあ、と、行く末をうかがう。2分30秒すぎあたりで日野はインするタイミングを逸している。トリオで5分30秒すぎまで進んでアルトのアティアスが入ってくる。アティアスは先導する役割しか担っていない前提でソロを進めて、7分になってようやく御大日野がカブく。それで終わりに向かう9分34秒。

2曲目、アティアスと日野が揃ってイン。そして日野が先導する。菊地がバトンを受けて走る。4分50秒すぎに作曲者のクレジットがあるアティアスにソロがわたる。このシチュエーションではアティアスも気が楽というか、ふてぶてしさをさらけ出していられる。6分30秒あたりから菊地に戻って、続いてモーガンにわたり、最後の1分強をアティアスと日野がまとめて終わる9分9秒。

3曲目、菊地のピアノの独壇場。ピアノトリオの演奏。モーガンの力量を感じさせる。

4曲目、アティアスが主で日野が従となる2管テーマ出しのフォーム、これがもっともこのクインテットが安定するもののようだ。菊地・モーガン・モチアンの中核が聴こえる。ここでの日野はいいソロを入れて牽引している。アティアスのソロもこれがいちばんいいかな。それにからむ菊地も最高だ。

5曲目、12分10秒の演奏。これがこの作品のキモだろう。1〜4曲目で提示されたこのクインテットのフォームのありようをアウフヘーベンして、個々の演奏が一体化を聴かせているのだ。うおおー、気持ちいい!

そこで考えてみるんだが。日野のトランペットというのは、ほんとうに彼のヴォイスがするところがすごい。日野=菊地クインテットを名乗るのだから、がつがつリーダーシップを取ってもよさそうなものだが。日野のトランペットをライブで初めて聴いたのは99年あたりだし、往年の鬼気迫る凄みはむかしのLPでしか知らない。それは日野の円熟でもあろうか。

不思議な盤である。菊地が連れてきたアルトとベースの力量はとても無名なミュージシャンのものではない。菊地もモチアンも、まったく年齢を感じさせない鋭さを放っている。日野は日野らしい、と、言うべきか。6曲目、7曲目を聴きながら、おれは日野を待ってスイングしはじめているのに気付く。この不穏なスイングに耳をゆだねながら日野を待つ。おれが冒頭で書いた「足を引っ張っているのが世界のヒノテル」は、最初に通して聴いたときの率直な感想だ。日野だけが、4にんの外側に居るように感じたのだ。しかし、ある意味不在の日野が4にんの演奏を規定している、または牽制している、そういう図式に宿っているこのセッションだけの引力がある。

くりかえすが、これは聴かれなければならない。メソッドとして確立されたジャズの方程式を安易に適用しただけのジャズ演奏ばかりがリリースされている現状にあって、ジャズが孕む謎を保持するような演奏をしかしたくない5にんが残した録音として。日野=菊地クインテットの現在というのは、単純ではない。


Niseko-Rossy Pi-Pikoe |編集CDR寒山拾得交換会musicircus

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