Land of Riches


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 2011年01月05日(水)   王国の誇り 

【業務連絡】
賀状頂いた方には本日午前、返信をさせて頂きました。毎度遅くてスミマセン!
その分、葉書へびっしりメッセージを書いたつもり…です。



今日は、以下、昔、書きたかったある話のエンディングが綴られるだけなので、
フィクションお断りの人はLet'sリターン!!

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足裏から伝わる感触で分かる。
これは愛情と誇りをもって整備された、美しい天然芝。
プロフェッショナルフットボールプレーヤーにふさわしい戦場。
胸が熱くなる。

ここに立つのが、ずっと…幼い頃からの、夢だった。

黒い…いや、栗色に変わり果てた髪をふわりと揺らし、無人の2階席を見上げる。
4色磁気反転式のスコアボードを背負う、オレンジ色の椅子が並ぶサイドスタンド2階席。
今は誰もいない、けれども、彼と同じようにクラブを愛する人々が集えば、
今以上に鮮やかなオレンジ色と熱気で染め上げられる。

目を閉じれば、耳慣れたサンバのリズムが聞こえてくる。
揃って踊り、愛するクラブの名を呼び続ける大観衆を幻視する。

サポーターに自分の名を高らかに歌い上げてもらうのが、長きに渡る憧れだった。

もう、それは叶わない。
何もかもが詠めてしまっている。
もはや己の四肢は、日々努力して鍛え上げてきたサッカー選手の筋肉ではない。
小柄で華奢な…かつ無力で達観しきってしまった、悲しき詩人のものだ。

この世界にいられる時間は残りわずか。
悟った瞬間、身を聖地へ向かわせたのは必然だった。
Jリーガーとして立てなかったとしても、せめて…ホームスタジアムのピッチに、一瞬でも。

運命が葉に刻まれ、全ての生き物がそれを演じるだけの道化に過ぎないのなら、
満たされなかった想いを、熱きクラブ愛を、魂に焼き付けてやろう。全力で。

次に生まれてくる時も、必ずこの街に生まれ、必ずこの街で愛されるクラブの選手となる。

それは来世への宿題だ。
この身は、運命に翻弄された前世の傀儡へ陥ちてしまったのだから。
「しょう……!!」
名を呼ぶ声に振り返る。
そこにいるのは、トップチームの一員として戦うことを許された、選ばれし者。
惜しんでくれなくてもいい、ただ自分の分までチームのために戦ってほしい。
だから、最後は、笑いかけなければ…!

黒髪の丸い顔をした少年と、栗毛の言葉にできぬ美貌を持つ青年、
二つの微笑みが重なった瞬間、同じ魂を持つ“彼ら”は現世から霧散した。


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