橋本裕の日記
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2008年03月03日(月) かしこくてやさしい象

 鏡を見せて、そこに自分が写っていることが分かる動物は少ない。犬や猫はどうも無理のようだ。自己認識力があると確かめられているのは、チンパンジーのような大型類人猿の他に、イルカくらいしかないらしい。

 ところが東大大学院人文社会系研究科の入江尚子さん(24)の研究によると、ゾウにこの能力があるらしいという。その実験を紹介しよう。

 入江さんは2歳のオスの象にあらかじめ、触れると「ピンポーン」と鳴るおもちゃを見せ、鼻でタッチすればバナナを与え、おもちゃを見ると鼻でタッチするよう訓練した。そうしておいて、大きな鏡を見せたのだという。

 最初は自分の姿を他のゾウだと思い後ずさりした。しかし、鏡の後ろに鼻を回して、そこに仲間のゾウがいないことを確認した。そこで、ゾウからは見えない頭の上におもちゃを掲げ、鏡越しで見せたところ、鼻を鏡に向けることなく、一発で頭の上に伸ばしておもちゃにタッチしたのだという。
 
この実験から、そのゾウは鏡のしくみや、そこに自分の姿が写されていることを理解していたことがわかる。鏡による似たような実験は、米国による研究チームも発表しているという。

入江さんによると、ゾウの知能はチンパンジーやゴリラをしのぐかもしれないという。たとえば、2個のバケツに、違う数のバナナを入れて与えると、たとえその数の差を小さくしても、ゾウはチンパンジーやゴリラよりも大きな確率で、ほとんど多いほうのバケツを選ぶという。

これはゾウが数の認識においてチンパンジーやゴリラよりもすぐれている可能性を示している。入江さんによれば、ゾウの鼻が第五の手足の役割を果たしていることが、知能を発達させているのではないかという。

私が好きなNHKの「ダーウィンが来た! 生きもの新伝説」でもゾウはよく取り上げられる。去年の4月に放送された「ゾウと人とは永遠の相棒」という番組では、ミャンマーの山林で材木を運ぶ手伝いをしているゾウを紹介していた。

ゾウ使いになるには、子供の頃から若いゾウと一緒に暮らし、ゾウと一緒に成長するのだという。そして同じ頃から一緒に仕事を始める。だからゾウ使いとゾウの絆はとても深い。二人の関係はゾウが引退してからも続き、一緒に年老いていく。

ゾウ使いは言葉でゾウに語りかける。そしてその言葉をゾウは理解する。アンボセリ国立公園で研究をしているジョイス・プール女史によると、ゾウたちは人間の耳には聞こえない低周波でお互いに会話をしていて、そこには50以上の単語が存在しているのだという。こんなかしこい動物なら、自己認識力を持っていても不思議ではない。

野生のゾウは死期が近づくと群れを離れ、ゾウの墓場に姿を消すといわれていた。この「象の墓場」の話はどうやら眉唾らしいが、ゾウは仲間が死ぬと、周りに集まり、鼻をあげて死んだゾウのにおいをかぎ、労わるように鼻で撫でたりするという。ひょっとするとゾウは自分が死ぬことさえも知っているのかもしれない。


橋本裕 |MAILHomePage

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