橋本裕の日記
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2007年09月03日(月) 武力と金融による世界支配

アメリカの世界戦略は二つの顔をもっている。一つは軍事力による支配だ。これは主に軍需産業と結びつきの強い共和党の主戦略である。大阪日日新聞に連載中のビル・トッテンさんの8月30日のコラム「戦争で損をするのは国民」から引用しよう。

<米国のテロとの戦いの目的の一つには、軍需産業と「戦争サービス産業」をもうけさせることがある。イラクでは、チェイニー副大統領がCEOを務めていたハリバートンとその関連会社が膨大な利益を得ている。テロとの戦いを進めているのは、自らは戦場から遠く離れて危険を冒すことなく、しかしそれによってもうかる人たちなのだ。(略)

平和は利益をもたらさないが、戦争はビジネスになる。だから軍需産業は政治家に資金援助を行い、国家を戦争に駆り立てる。その戦争で確実に損をするのは、一般国民で、あなたであり、私なのだ>

http://www.nnn.co.jp/dainichi/column/tisin/index.html

武力による世界支配路線はアメリカの軍需産業にぼう大な利益をもたらしているが、その代償としてアフガニスタンやイラクで多数の犠牲者を出している。財政的にも多くの赤字を抱えることになった。そして今、ブッシュ政権は急速に信望を失いつつある。

 ところがアメリカにはもうひとつ別の世界戦略がある。これは民主党のクリントン政権が強力に推し進めた経済のグローバル戦略である。ようするに金融力で世界を支配しようという戦略である。これは一見平和的でスマートである。

しかし、これは世界に格差を広げ、こうしてもたらされる貧富の差がまた世界の不安定化の要因になる。そして経済的に収奪された国や人々の不満を抑えるには、ときとして武力による実力行使も必要になる。

したがって、軍事力と金融力というこの二つの戦略はそれぞれ補完的に働かざるを得ない。共和党と民主党はがそれぞれ対立しつつも、みごとな補完関係を保ちながら、アメリカの世界支配の政治システムとして働いている。

さらにアメリカの世界戦略として、もう一つ見逃してならないのは、メディア戦略である。先日、経済紙ウォール・ストリート・ジャーナルを発行するダウ・ジョーンズ社が、50億ドルで、メディア王ルパート・マードックがひきいるニューズ・コープ社に買収された。

彼はすでに硬派のクオリティ新聞として有名なNYポストを買収して、ゴシップ記事と右翼反動オピニオンの新聞に作り変えた実績がある。これによってもわかるように、マードックの戦略は愛国とエロである。これによって、エリートのリベラルに反感を持つ労働者階級と保守財界人などの人気を集め、販売実績をぐんぐん伸ばす。

 この戦略がもっとも成功したのは、彼のテレビ放送支配においてだろう。マードックは20世紀FOXを買収すると、共和党のメディア戦略家、ロジャー・アイルズをCEOに迎え、セックスとバイオレンスの番組で視聴率を拡大した。

911テロが起きるとさっそく、「テロの黒幕はイラク」「イラクが大量破壊兵器を持っている」というブッシュ大統領よりのプロパガンダを流した。そしてこの反イラク・プロパガンダで一気にアメリカの世論を戦争へと導き、ついにFOXは視聴率でCNNを抜いてトップに立った。

このFOXニュースの情報操作による戦争への世論形成は、ルパート・マードックじきじきの指示によるものだったことを、2007年1月にフォーラムで詰問された時、本人は渋々認めているという。

http://d.hatena.ne.jp/TomoMachi/20070804

たしかに、市場のグローバル化は、経済による諸国民の協力と共生をうながし、戦争を抑止するはたらきがある。しかし、それと同時に、やはり新たな戦争を呼び起こす発火点となるおそれもある。

それはどんなときかと言うと、グローバルな市場に何らかの混乱が生じたときだ。株価の暴落や、国の経済の破綻がその引き金になる可能性がある。この点で、私は経済のグローバル化が戦争を抑止するという楽観的な見通しに組することができない。

 しかし、日本のメディアの主な潮流になりつつある主張、すなわち、中国や北朝鮮を敵視して、戦争の脅威をあおりたて、もっと軍備を増強しろという主張に、やすやすと乗せられてはいけない。こうした悪質なプロパガンダに流されないためにも、「何が戦争を生み出すのか」という戦争のメカニズムを冷静に考えてみる必要がある。

(今日の一首)

 たのしみは小鳥の声に眼を覚まし
 朝一杯の水をのむとき


橋本裕 |MAILHomePage

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